風の国の翡翠の天使
目の前には綺麗な庭に囲まれたアーティック調の城だ佇んでいた。
「聞いていた通り、すごい庭だな。」
小さな声でつぶやく。前に来たのはまだ物心がつくかつかないかのころ。大人になって改めて見るとやはり感じることは違うらしい。
今日は近衛隊として、と言われたサーファスはこの訪問のためにいつもとは違う正式な騎士の服を着ていた。青を基調としたウォンティアの騎士たちの憧れであるその服。いくら王子でそれが習慣だといえ、簡単に着られるものではない。
今回の訪問についてきたのは王付きの近衛隊のみ。王妃は諸事情のため来られなかったが王を守るにしては少々手薄。しかし、そこは先鋭たち。人数は少なくとも威圧感は大部隊よりもある。
「ウォンティアの王よ、いらっしゃいませ。ウィンディアは今回の訪問を心より歓迎いたしますわ。」
応接室で王を迎えたのはウィンディアの女王だった。美しい若葉色の長い髪と整った顔。華麗という言葉がぴったりと当てはまる容姿だった。ウォンティアの王族も整った容姿をしているが王や王子であるサーファスは男だし王妃は美しいより可愛いの似合う人。
近衛隊の者たちが思わず息をのむ。
「お出迎えありがとうございます。久しい訪問、我々も楽しみにしてまいりました。」
にこやかに話しかける王にウィンディアのメイドたちも顔が赤くなる。どこの国の従者でも似たようなものだ、ということか。
「おい、サーファス。」
会話が進んでくると王、いや父上に呼ばれた。
「はい、父上。」
1歩まえに出るとウィンディアの女王やメイドたちの視線が集まる。
「お久しぶりです、女王。ウォンティアの第一王子で近衛隊の副隊長のサーファスです。」
従者としての礼ではなく、王子としての礼をとる。
「お久しぶりですね。立派になっていて驚きました。」
それからしばらく世間話をしたのちふっと女王は窓の外、庭に目をむけた。
「もし、よろしければお庭も見て行ってくださいね。今の時期は、そうねぇ…西のお庭が綺麗なのよ。」
「ぜひ、見させていただきます。」
そろそろ、お開きか…
女王がメイドたちに目配せをするのと王が隊員に目配せするのは同時だった。
「では、お部屋に案内させていただきます。」
メイド長らしき人がそういうとメイドたちはさっと扉を開く。そして、女王とメイド長、王、隊長のみが残り部屋をあとにした。
「サーファスさまはこちらです。」
途中で近衛隊と別れ案内されたのは豪華な1室だった。豪華といってもアーティック調で統一されところどころに花が綺麗に飾られている趣味の良い部屋だった。
メイドが出ていき1人になるとふぅと気を抜いてソファに腰掛けた。
「王子としてと近衛隊として、使い分けるのは大変だな…」
別に文句があるわけではない。しかし、だからといってそれと大変じゃないことは違う。
「そういえば、女王の言ってた西の庭…」
せっかくだから見てみようかな。きっと父上と女王は機密性の高い話の途中だろう。
メイドに聞きながら外に出てみるとそこは本当に絶景が広がっていた。季節の花がバランスよく並び彫刻も美しかった。
「温室もあるのか…」
温室のなかには外気に弱いらしい品種が並んでいた。迷路のような温室をぐるぐるとあてもなく歩いていくと少し先に開けた空間が見えた。
「…っ」
そこにいたのは光に照らされた白いテーブルとイスで1人静かにアフタヌーンティーを楽しむ少女。
翡翠色の美しい髪を黄色のリボンで編み込んだ彼女はまるで天使のようだった。