一縷の光の少女 2
「・・・・・・有栖、ひどいよ。」
「やりすぎたね、ごめんごめん。」
「で、なんで後ろにいたって分かったの?」
「そりゃ、座標移動・零はその名の通りある対象に対しゼロ距離にテレポートする技じゃない。」
有栖は続ける。
「そしてあの技の発動条件は周囲に一定以上の大きさの生命体が半径250m以内にいて、かつその対象が目視確認できることだって言ってた。あの場には2人しかいなかった。なおかつ部屋の中。壁にさえぎられてテレポートする箇所が限られる・・・・・・なら話は簡単じゃない?」
「・・・・・・はう。」
彩萌はぼろぼろ泣きながら新たな依頼にあった塗布薬を調合していく。いくら強い、いくら聖騎士などと呼ばれている彩萌もこの辺りはまだまだ幼い。というか16なのにこれは何なんだ、と有栖は思う。
「で、さ。失踪・・・・・・どう思う?」
「・・・・・・そうだね。」
彩萌は考える。
「今の時点ではなにがあったのかはわからない。けど人が消えているのは事実。となるとやたら動き回るのはまずいと思うよ。いまある依頼に没頭すべきじゃないかな?」
「でもっ・・・・・・!!」
有栖は初めて戸惑いを見せる。
「・・・・・・このままほっといたら私たちも消えるかもしれないんだよ?」
「それは無いね。消えるための条件がそろってないし。」
「消えるための条件?」
「そう。今消えてる人ってどういうひとよ?」
「えっと・・・・・・」
有栖は少し考え
「ごめん、わからない。」
「今大活躍している有名ギルドの人だけなの。たとえば、フィエル島制圧作戦で大活躍したルーファーさんの一隊とか、迷いの洞窟の遭難者の救助に成功した百合亜さん一行とかね。一方で一連の失踪の調査隊に任命されたギルドの人は一部を除いて無名ギルドばかり。例えば、青色の鮫っていうギルドがあるんだけど、このギルドは分かる?」
「いえ、さっぱり。」
「こんな感じで実力こそあれどあまり有名ではないギルドで構成されたチームには失踪者は出てないし、尾っぽもつかめてない。」
「それがどうしたの?」
「つまり、名が挙がったギルドは何かの要因で失踪する。そのタイミングで追跡したらほぼ間違いなく原因がわかる。ってわけ。・・・・・・でも今私たちは消える道に進むべきなんじゃない?早く解決するためにもね。せめて一刻も早く正体を暴かないと。だから普段通り頑張るの。普段通り過ごせばいつかは何でも屋として有名になれるんじゃない?」
「つまり・・・・・・自分たちが釣り餌になるってこと?そんなことして私たち大丈夫なの?・・・・・・消えた人はどうなるのよ。・・・・・・そのまま死んじゃうのかな?ねぇ・・・・・・?」
だんだん有栖の声が震えてくる。よほど怖いのだろう。無理もない。
と、彩萌は有栖に抱きついた。
「ちょっと、何よ・・・・・・?」
「・・・・・・私だって・・・・・・怖い。けど、・・・・・・けど!そうするしか無いし、ほかの人が消えるのはもっと嫌!」
身体を震わせる彩萌。本当はものすごく怖いのだろう。しかし声は震えてはいるがはっきりと彩萌は言い切る。他の人が消える前に自分がけりをつける!と。
「相変わらずね。その庇護心。なら・・・・・・」
有栖は慎重に言葉を選ぶ。
「なら、私も協力するしか道はない。彩萌一人行かせるわけにはいかない。彩萌一人では絶対行かせない。」
「え・・・・・・?無理しなくていいよ?」
「無理はしてないよ。確かに怖いけど。けど、そう思ってるのは私も同じ。」
「・・・・・・有栖は来ないで・・・・・・。巻き込みたくない・・・・・・。」
「彩萌・・・・・・」
顔から感情の色が消えた。
「巻き込むって何よ!!彩萌が行くなら私も行く!わたしを舐めないで!!!ホワイト・・・・・・ホワイト・スラーはそんなに安くは無い!!!!!!!!!!!」
怒号とともに有栖の手が飛ぶ。
「・・・・・・ごめんね。また叩いて。これで目が覚めた?」
「・・・・・・ひっく。ごめん、あり・・・・・・す。」
有栖にまた優しい感情の色が戻る。優しく彩萌を抱きしめ、ゆっくりと語りかける。
「怖がらなくていいよ。私も燐もいるんだし。大丈夫だよ。」
有栖はつづけて
「いるんでしょ?燐?燐はどうするの?」
「もう、何て答えるかわかってる質問されても困るんだけどなぁ。」
ゆらりと集会所の入り口に人影が。
彼女は橘樹 燐。ホワイト・スラーの最後のメンバー。
彼女は特に武器らしい武器は使わない。魔法らしい魔法も使わない。
彼女が戦っているところを二人は見たことがない。正確に言えば戦いと呼んでいいのかわからない。それほどまでの圧倒的なまでの実力を誇る。(もっとも彩萌や有栖も相当な実力を持っているのだが。)
「ほら、彩萌、泣かないの。まったく、昔と変わらないねえ。」
「・・・・・・うるさい・・・・・・」
「当然私も加勢するよ。当たり前じゃん。ホワイト・スラー、全員集合といったとこだね。」
「話は決まったね。とりあえず何らかの方法で名声を得る。で、私たちが失踪させられる前に他ギルドに働きかけて原因を叩き潰す。・・・・・・なんか問題ある?」
と、燐が急に押し黙った。
「燐?」
「どうしたの?体調は?」
しかし、返事はない。
数分後
「そうだ!!!」
「うわぁ!!!」
「なっ!?」
急に声を上げた燐にびっくりしたのか二人は思い思いのリアクション。
「なにが「そうだ!!!」よ!?・・・びっくりした・・・・・・。」
「さっき言ったよね?「何らかの名声を得る」って。その方法を考えたんだけど、あった!」
「ひっく、驚かさないでよ・・・・・・」
「あー、泣くな、彩萌。ほらほら、有栖も真っ白にならない。」
「「だれのせいよ!!」」
「・・・・・・まあ、いいや。簡単に言うと、「ギルドバトル」だよ。」
「え!?あれ!?」
驚いたのは彩萌だ。
「あれ、勝ち抜くのは相当難しいでしょ!?特に私たち見たいな少数ギルドは。」
そう。ホワイト・スラーメンバーはわずか3人。分類でいえば極小ギルド。その中でも本当に最小クラス。全ギルドの平均はおよそ24人。大きい所だと40人以上に達する。まあ、そんな中にあってギルドとして成立しているあたり、3人の実力がうかがえる。
そして、一切の怪我などを受けない特殊な大規模結界で安全が保障された空間、「闘技場」で互いのギルドがしのぎを削りあう。それがギルドバトル。下手すると40対3なんていうわけのわからない構図が完成する羽目になる。
ところが、燐は至って落ち着いて
「大丈夫、それだけ大きなハンデを背負っておきながら健闘した。それだけで十分だと思わない?勝てなくてもいいの。あくまでも健闘すれば、それだけで目的は成就する。そう思うでしょ?」
「・・・・・・確かに。」
有栖は燐の提案に舌を巻く。
「負けても問題ないんだし、ダメ元で出てみない?」
「・・・・・・よし、賛成するね。」
「納得。一理あるね。」
というわけで闘技場にエントリーすることになった彩萌、有栖、燐の三人。これが思わぬ結果になることを彼女たちはまだ知らない
滅茶苦茶かもですね。
ご愁傷様です(to自分)
主人公全員集合。キタコレ(殴