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嘘発見器、少女と出会う

 何の変哲もない、どこにでもあるような高校の屋上に一人の少女が佇んでいた。

 天気は最悪。朝方は曇り空だったが昼から強い雨が降り出している。しかし少女は気にすることもなく、その身を雨に晒していた。

 既にその身体に濡れていないところはなく服も髪も少女の身体にくっついていたが、少女はそれを不快に感じてはいないようで、むしろ楽しそうに鼻唄を口ずさんでいた。

「ちゃんと来てくれるかな?」

 少女は誰に伝えるでもなく言葉を紡ぎながら、空を見上げる。

 空は相変わらずねずみ色の雲に覆われ、温かな青色を見ることはできない。

 少女が佇む屋上にはその身を守るような屋根はなく、雨は容赦なく少女の身体を冷やしていく。

 しかし、彼女の心は熱を帯びたままだ。初めて自分の目で世界というものを見た興奮は少女の心を熱していく。そしてこの後出会うことになるであろう少年に対する興味が少女の鼓動を速めていく。

 早く、早く――。

 速まる鼓動とは違い、決して早めることのできない時間をもどかしく思いながら少女は屋上で一人待ち続ける。



 突然だが、君たちはラブレターなるものをご存じだろうか?

 そう、選ばれた者のみが手に入れることのできる人生の勝ち組への招待状のことだ。現在では最早ブルマーやセーラー服などと同じく絶滅危惧種に指定されたとしてもおかしくはない種族である。

 大半の男子高校生がそうであるように、これまでこの俺、天原頼人あまはらよりともその例に洩れず誰かからラブレターを貰ったことはなく華のない灰色の高校生活を送ってきたのだが、どうやらその寂しい生活も今日で終わりのようだ。

 というのも俺の下駄箱の中、上靴の上に白い封筒が置いてあったのである。

 静かに、しかし力強く勝利の余韻に浸っていると後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「よう、頼人。下駄箱の前でガッツポーズするなんていつも以上に気持ち悪いな。一体どうしたんだよ?」

 後ろを振り返ると同じクラスの桐村龍平きりむらりゅうへいが若干呆れたような顔で立っていた。

「おう、龍平。気持ち悪いとは心外だな。俺と同じ立場だったらお前も平静じゃいられないはずだぞ?」

 俺が勝ち誇った顔をすると、龍平は何かを悟ったような顔をして徐々に焦りだした。

「まさか、お前……!」

「そのまさかだ。見ろ、この勝者の証を!」

 俺は下駄箱から封筒を取り出し、あたかも水戸の老人が持つ印籠のように龍平に見せつける。

「…………」

 おかしい。龍平の反応が薄い。悔しがるどころか、何やら憐憫の目で俺を見ている。

「頼人。その封筒をよーく見てみろ」

 微妙に黒く汚れている白い封筒だ。そしてその口はセロハンテープで乱雑にとめてある。差出人の名前はない。

 ほらな? どこにもおかしい所はない。

「おいおい、何かおかしい所でもあるのか? どこからどう見てもラブレターだろう?」

「そんな風化したラブレターなんてねえよ! どっちかっていえば果たし状じゃねえか!」

「馬鹿野郎! 出してくれた女の子の家が貧乏でこれしか用意できなかったのかもしれないだろうが!」

「何、その気持ち悪いポジティブ思考!?」

 ああ、もうコイツは! と頭を抱えてうずくまる龍平だったが、突如すっくと立ち上がり俺の目を見て提案してきた。

「はあ……。じゃあ、いっそ確認してみようぜ。そうした方がお互いスッキリするだろ?」

 俺宛てのラブレターを他の奴と見るのは出してくれた女の子に失礼だとは思ったが、龍平なら誰かに内容を言いふらすということもないだろう。

「わかったよ。ならさっさと教室にカバン置いてトイレにでも行くとするか」

 そう提案するや否やすぐさま歩きだす。

 二階にある自分たちの教室に行き、カバンをそれぞれの机の上に置く。そしてカバンの中身を机の中に押し込んだ後、さっさと教室を出て近場の男子トイレへと向かう。

 俺も龍平もどちらかといえば早めに登校する傾向にあるが、今日の一般生徒はそうでもないようだ。おかげで教室で誰かに声をかけられて時間をロスするということもなかった。

「それにしても、厄介なモン貰ったよな、お前」

 突然、龍平が心底そう思っているような口調で言う。

「んー、そうか?」

「そうだよ。ラブレターならともかく果たし状だったら最悪だろうが。待ってるのは可憐な女子学生じゃなく、汗臭い男子学生だぞ?」

 しかもガチムチ系の、と余計な単語まで付け足してくる。

「大丈夫だって。……それに最悪なのは果たし状の場合じゃないしな」

「あん? どういう意味だ?」

 龍平が眉に皺を刻んで問いかける。

 仕方ない。コイツに真の恐怖というものを教えてやろう。

「最悪なのはこれがラブレターで、屋上で待ってるのが汗臭い男子学生だった場合だろ? ……ガチムチ系の」

 俺の言っている意味が理解できたのか龍平の顔が真っ青になる。

「……ヤベ、想像したら吐きそうになってきた……」

「あと少しでトイレだからそこまで我慢しろ」

 そんな馬鹿な会話を交わしている間に俺たちの教室から最も近い二階の男子トイレに到着した。中に誰もいないことを確認した後、一番遠い位置にある個室に入る。

「さて、運命の時間だ……」

 いつ人が入ってくるかわからないので声を抑えて話しかける。

「お前が最初に読めよ。お前が貰ったんだから」

「もちろんだ。では……」

 封をしているセロハンテープを慎重にはがし、中に入っている一枚の紙を取り出す。

 正直ドキドキしてきた。さっきは龍平の前なので強がってみせたが、本当に果たし状、もしくはガチムチ男子学生からのお誘いの類だったら絶望しかない。

 そんな最悪な未来のビジョンを頭から振り払い、意を決して手紙に目を落とす。

 そうして俺が目にしたのは――。

「……、どうだった?」

 恐る恐るといった感じで龍平が確認してくるので、俺は黙って手紙を龍平に差し出す。

「おい、これって……」

 手紙に目を通した龍平が俺の顔を見、そして今度は二人で手紙を見る。

 そこに書いてあったのは


『放課後、屋上で待っています』


 という可愛らしい文字。

 想像していたような内容でこそなかったものの、これはどこからどう見ても女の子からのラブレターであった。

 声にならない声をあげる俺。

 そして、信じられないという顔をしていたが、次第に苦笑をもらす龍平。

「ま、おめでとうと言っとくか」

「おう! ありがとう!」

 がしっと龍平の手を握り笑顔で答える。

「気持ち悪っ!」

 龍平がその手を瞬時に振りほどく。そうして少しおどけた感じで

「でも頼人、用心しておけよ?」

 と言ってきた。

「用心? 確かに女の子っぽい字を書くガチムチ系男子である可能性はまだ否定できねえけど……」

「俺が言いだしたことだけど、そろそろガチムチから離れねえ!?」

 うん。俺もそろそろ止め時かなとは思ってた。

「それで何に用心するんだ?」

「最近この辺り何かと物騒だろ? 失踪事件だとか何とかで」

 この豊泉高校の近辺ではここ一週間で八人もの人間が行方不明となっている。警察が血眼になって失踪した人間の捜索にあたっているが一人も発見には至っていない。

「結果がどうあれ、帰り道は用心しろよって話だ」

「ああ、そうする。……そろそろホームルームの時間だな」

 腕時計で時間を確認してタイムリミットが近づいていることに気づいた俺はトイレの個室のドアを開けて外に出る。すると再び龍平が口を開いた。

「そうだ! 聞いてくれよ、頼人。こないだ学校の帰りに怪しいおっさんから古書をたくさん貰ってさ!」

「お前が気をつけろよ! 結構危ない感じの話だからな、それ!?」

 俺に忠告した本人がこれかよ!

「いや、俺もただの古書なら受け取らなかったんだけど、それがまたこの辺りの伝承やら神話やらが書かれたレアモノでな? つい貰っちゃったんだよ。それでその内容なんだけど――っておい、どこ行くんだよ!!」

 龍平が内容について話し出した瞬間、俺は脱兎のごとく走り出していた。

 こういった話の収集を趣味としている龍平に付き合っていたらホームルームが始まってしまうからだ。ちなみに以前その話を聞いてやったときは休みが一日消えた。

「いいから走れ! 朝っぱらから怒られるのなんて俺は御免だ!」

「ちょっと待てって! ああ、くそ! 後で絶対聞いてもらうからな!」

 龍平のそんな叫びを聞きながら、俺は教室へと足を速めるのだった。



「頼人ー、ラブレター貰ったってホント!?」

 昼休み。いつものように食後の娯楽としてトランプをしているとき、白波瀬美咲しらはせみさきがいままさにカードを切ろうとしていたその手を止めてデカイ声で聞いてきた。

(ちなみにプレイ中のゲームはダウト。1から13までのカードを裏向きにして順番に出していくゲームである。

 しかし、プレイヤーは自分の番に対応した数字を必ず出さなければならないわけではなく、異なった数字を出しても構わない。

 だが異なった数字を出した際に「ダウト」とコールされた場合、これまで出したカードを全て引き取らなければならず、逆に正しい数字が出されたときに「ダウト」とコールした場合はコールしたプレイヤーがこれまで出したカードを引き取らなければならない。

 それを繰り返し最初に手札をなくしたものが勝者となる)

「……。本当だけど、それを話したのはお前か? 龍平?」

 ジトッとした目を向けると龍平は少しバツが悪そうにしながらも

「そんな目で見るなよ。美咲をのけものにすると後が怖いのはお前も知ってるだろ? それに下駄箱の辺りであんだけ騒いでたんだ。きっと他の奴にもバレてるぜ? ほい『8』」と、言いながらカードを切る。

 それは確かにそうかもしれないが……。

 俺はともかく相手は良い気分はしないだろうから、放課後に会ったときにちゃんと謝っておこう。

「それはそうと龍平。それダウトだ」

「げ」

 龍平が捨てたカードを裏返すと出てきたのは「スペードの3」。いま捨てなければならない数字は「8」なので俺のコールは成功である。

「……お前この手のゲーム反則的に強いよな。俺も弱いわけじゃないと思うんだけど」

 納得がいかないといった様子で首を傾げる龍平。確かに本人の言う通りどちらかといえば、コイツの表情は読みにくくて仕方がない部類に入る。

 では何故、俺は自信を持ってコールすることができたのか?

 答えは簡単。俺は龍平がカードを捨てる瞬間に龍平の「嘘」を感じたからだ。

 嘘を感じるといっても心が読めるというわけではなく、単純に人が発した言葉や、行動に嘘があるかないかがわかるだけなので、こういったトランプなどで遊んでいてもいつも勝てるわけでもない。

 ちなみに、このよくわからない力とは物心ついた頃に自覚してからずっと付き合ってきたのでもう十年以上の付き合いになる。

 嘘がわかる、といえばとても便利に思う人もいるかもしれない。

 まあ、実際嘘を見抜けるということで得をしたこともあった。

 例えば友達を選ぶことができた。

 平気な顔して何度も嘘をついて約束をすっぽかすヤツ、嘘をついて人が騙されたのを見てヘラヘラしてるようなヤツとは付き合わないようにしてきた。

 だから俺が本当に友達と呼べる人間は少なく、このクラスでは龍平と美咲ぐらいなものだ。この二人との付き合いは高校に入ってからだが、俺の前で嘘をついたことがない。(もちろんさっきのようなゲームはともかくとして)

 嘘をつかないという得難い友人を見つけることができたという利点もあるが、この力は良いことばかりを運んできてくれるわけではない。

 本当に……、良いことばかりを運んできてくれるだけならどれだけ良かったことか。

「頼人、頼人、トランプ曲がっちゃうよ?」

「ああ、悪い」

 思わず手に力が入ってしまったようだ。意識を再びゲームへ向ける。

 過ぎてしまったことはもうどうでもいい。いまはこの楽しい時間を享受するとしよう。



 放課後になった瞬間、俺は屋上へと走り出していた。龍平も美咲も手紙のことを知っているのでニヤニヤしながら見送ってくれた。

 教室を飛び出した後も一切スピードを緩めることなく走る。

 二段飛ばしに階段を駆け上り、四階へ到達。乱れた呼吸を整えることなく立ち入り禁止のロープをくぐり、屋上に通じるドアの前に到着する。そして、ラブレターをくれた相手が男でないことを祈りながらドアを開け放つ。


 目の前に広がるモノはいつもの屋上、昼から降り続く雨、そして一人の少女だった。

 少女の髪は腰に届くほど長く、雪のように白い。そして彼女が身につけているのは豊泉高校の制服ではなく、膝下まである黒いワンピース。その黒いワンピースから伸びたスラリと長い手足に、背中から伸びた青白く光るコードがそれぞれ一本ずつ巻きついていた。

 ん? コード?

 予想していた状況とかなり異なる光景に唖然としていた俺に気がついたのか、少女がぱっと振り向く。

 振り向いたことで少女の顔がはっきりと俺の眼前に晒されたわけなんだが……。何というか、その、反則なくらい可愛い。

 金色に輝く目や、鼻、口といったそれぞれのパーツの美しさが抜きん出ているだけでなく、パーツ同士が互いに調和し合っている。俺の胸に届くか届かないかぐらいの小さな身体と相まって彼女は人形――そう、まるで完成された人形のようだった。

「やっと来てくれた。もう、待ちくたびれちゃったよ」

 少女は不満そうにしながらもどこか嬉しそうである。

 少女を無視するわけにもいかないので、突然の美少女襲来によって茹だった頭を雨を利用して急速冷却し少女の言葉に応える。

「ごめん、遅れちゃったかな? これでも急いだつもりだったんだけど」

 放課後になってからまだ数分しか経っていないはずなんだが……。この娘は一体いつからここで待ってたんだ?

 そう疑問に思っていると少女が再び口を開く。

「いいよ。許してあげる。喧嘩するために呼び出したわけじゃないし。ね? 頼人?」

 呼び出したんだから俺の名前は知っているのだろうとは思っていたが、正直俺はこの少女に面識はない。他の人間だったら忘れただけということも考えられるが、この少女に限ってそれはないだろう。

 ニコッと柔らかく笑いかけてくれる少女の態度に安堵しつつ、俺は本題に入らせてもらうことにした。

「それで、えーと……、見たとこウチの生徒でもなさそうだけど、何か用かな?」

「うん。頼人にとても大事な用事があって呼びださせてもらったの」

 大事な用事! 大事な用事!!

 こう言われて期待しない男子はいないだろう。喜びが顔に出るのも格好悪いと思ったので上を向いて表情を見られないようにする。

 にやけた顔が元に戻ったことを確認し、俺は再び彼女に目を向ける。

すると少女はこれまでの笑顔が嘘であったように真剣な顔をしていた。

 そして

「私と一緒に世界を守ってくれる?」

 と、声を絞り出すようにして自らの願いを口にした。

 普通この言葉だけを聞けば冗談にしか聞こえない。

 目の前に立つこの小柄な少女が如何に真剣な表情を、泣き出しそうな表情をしていても、やはり信じることはないだろう。

 でも。

 俺には彼女がどれだけ真剣にそれを頼んでいるのかがわかる。

 だって。

 俺は人が嘘をついているかどうかわかるんだから。

 だから俺も真剣に彼女に応えなければならない。

 彼女は嘘が溢れるこの世界で、本当の想いを抱えて俺に向き合ってくれる数少ない人なんだから。

 俺はしっかりと彼女の眼を見つめ出来るだけ力強く聞こえるようにこう答えた。

「任せろ」

 こちらが承諾したことに余程びっくりしたのか目の前の少女は目を丸くしている。

 俺はその様子がとてもおかしくて苦笑しながら尋ねた。

「何びっくりしてるんだよ? 受け入れられたのがそんなに意外だった?」

「えっ? うん、いや、そうじゃなくて! だってこんなことお願いしたら普通『何コイツ気持ち悪い』とか『頭大丈夫かこの女』みたいに言われると思ってたから……」

「あー、まあ普通はそうだな。それが普通の対応だ」

 だって『世界を守って』だぞ? 俺も普通の人間だったらそうしていたであろう自信はある。

「でも君が言ったことは嘘じゃないし、本当のことなんだろ? なら手伝ってやるさ」

 視線をグラウンドの方に逸らして、あくまで仕方ないという雰囲気を装う。俺にだって口に出して恥ずかしいこととそうでないことぐらいはわかっているつもりだ。

 反応が何もないので視線をグラウンドから少女に戻すと、まだ目を丸くしながら俺を見つめていた。

 あの、お嬢さん? さっきの台詞と相まってすごく恥ずかしいので何かアクションを起こしていただけないでしょうか?

 そんな風に思っていると少女はやっと正気に戻ったようで頭を左右にフルフルと振った後、再び俺を見て

「ありが…、くしゅん」

 と可愛らしいくしゃみを披露した。

 そりゃ、びしょ濡れだもんなあ。俺もこの数分のやり取りで濡れてしまっているが彼女程ではない。

 彼女を見ると茹でダコのようになっていた。肌が白いから余計に赤いのが目立つ。お礼の途中でくしゃみをしてしまったのがよっぽど恥ずかしかったのだろう。

 先程より強く頭を左右に振り顔の火照りを冷まそうとしている。

 そして今度こそ

「ありがとう、頼人」

 とこっちが真っ赤になるような笑顔で告げた。

「お礼を言うのは世界を救ってからだろ? えーと」

 そういえば俺がまだ彼女の名前を知らないことに気がついた。

「まだ名前を聞いてなかったね。何て名前なんだ?」

 そう聞くと少女はキョトンとした顔をする。

 ……何か変なこと聞いたか、俺?

「私に名前なんてないよ?」

「は?」

「だから私に名前なんてないんだってば」

 少女は衝撃の事実を当たり前のように言う。

 マジだ……。マジで言ってやがる……!

「じゃあ、何て呼べばいいんだ? 名前がないと何かと不便だろ?」

「うーん、どうしても名前って要る?」

「間違いなく要る」

 とんでもない問いに即答する。

「……じゃあ『イア』でどう?」

「『イア』? また変わった名前だな。っと悪い」

 たとえ本当の名前じゃなくとも人の名前を馬鹿にするものじゃない。

「気にしなくていいよ。自分で言うのもどうかと思うけど、私も変わった名前だと思うし。それにここに彫ってあっただけだから」

 そう言って笑顔で左腕に巻きついていたコードをこちらによこしてくる。

 それを受け取り、コードの先端部分に彫られている文字を見た。

『■■■■■■I■ ■■■■■■A■』

 「I」と「A」は辛うじて読むことができるが、他の文字は削られていて全く読むことができない。

 だが名前の由来だけは理解できた。

「読めるところをくっつけて『イア』ってことか」

「そういうこと。だからこれからはイアって呼んでね」

 単純だがそれ以外に読みようもないので仕方がない。

「ああ、改めてよろしくな、イア」

「うん! よろしくね頼っ、……くしゅん」

 ……何というか決めるところで決められないタイプの娘だ。

「とりあえず、話は着替えてからだな」

 苦笑しながら言う。

 そして、それから。

 一緒に世界を救いに行くとしますか。

 無意識に空を見上げるといつの間にか雨は止んでいた。


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