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ハミングバードは歌えない

サカイ君とオリヴィア

作者: なわばしご


平平凡凡なサラリーマン家庭、私はそこの長女で女子高生の村西さやか。


我が家は比較的家族みんな仲が良く、夕食時なんて結構団欒円満してたりする。

で、そういう時たまに父親が話題にするのが『サカイ君とオリヴィア』だ。


父親曰く


「いやぁ、サカイ君まだオリヴィアの事諦められないらしいんだよ。彼も若いからね、いやホント オリヴィアがあんなに嫌がってるんだからそろそろ潮時だと思うんだよなぁ」


そんな事をぽつぽつともらしていた。

父親の会社は外資系なので、きっと部下であろうサカイ君は同僚の金髪美人オリヴィア(私の勝手な予想)に惚れ込んでいるんだろう。

で、てんで相手にされないらしい。


「サカイ君はいいやつなんだがな…、なんていうか ちょっと頼りない雰囲気だからなぁ」


父親は苦笑しながら天ぷらをほおばる。


「そうね、細いし白いし…ね」


母親も微妙な表情だ。母も父と同じ会社に部署は違うがパートとして働いているのでサカイ君やオリヴィアを見知っているのだろう。


「ふうん、ね お父さん、オリヴィアは金髪?」

「ああ、綺麗な金髪で美人さんだよ」


予想的中、やはりそうだったか。

男って金髪好きだよなぁとか思いつつグラタンを引き寄せた。

お 今日はマカロニでなくポテトグラタンだ。


「あなた、サカイ君には桜ちゃんがお似合いじゃないかしら?ほら 桜ちゃん小柄だし性格も優しいし…。あ さやか、これも食べなさい」


ふと顔を上げて母親が提案し、私にはタコの刺身をよこす。


「お そうだな桜ちゃんなら彼でもおとせるかもな!」

「桜ちゃんってのは美人?」


はたしてサカイ君が金髪美人のオリヴィアを諦めて乗りかえられる程の娘か、私はちょっと気になった。


「「………」」


両親が黙りやがった。


「あ 母さん、その餃子とってくれるかい?」

「あなた!また油っぽいものばかり食べて!こういうのも食べてください。」


母親は父親にきゅうりの塩漬けを押付けた。


「むむ いやきゅうりはあんまり…」


そういうと父親は皿を横にずらしカレーライスの続きを食べだした。


「桜ちゃんは…?」


もう一度たずねてみる。

美人の賞賛を聞くのは飽きても「そうでない子への配慮」を聞くのは飽きない。

そういえば私は性格が悪いとよく言われる。放っておいてほしい。



「え そうねぇ、桜ちゃんは良い子よ。品がいいし」

「ああ、なんというか一挙一動が愛らしいんだよな」


「…見た目は?」


視線を泳がせながら桜ちゃんの美点をあげる両親に追撃ちをかける。


「「個性的」」


両親は控えめに声をそろえてそう呟いた。

私は「自分が言われたら嬉しくない褒め言葉第1位だな」とか考えつつラーメンを啜った。


「いや あの子はあの子なりに可愛いのよ?その…ちょっと顔が」

「顔が?」


「潰れてるけど…」


「……… え゛えええぇっ?!」


予想以上だ。

考えてもいなかった…何者だ桜ちゃん。反対に気になってしまう。

あまりの衝撃にラーメンの汁を少しこぼしてしまった。


「たしかに…桜ちゃんはちょっと顔が潰れてるがな、でもなかなかあれはあれで愛嬌があるし、父さんは好きだがな」


そう 目線を落としながら父親はカレーライスにマヨネーズをかけた。


「お父さんは桜ちゃんと結婚は考えられる?あ 年とか関係なく。」


「まさかっ!!」


父親は目を見開きブンブン顔を横に振った。

そこまで嫌がるくらいの娘を人に紹介するってどうよ とか思いつつ…。

その日はそれで話が終わってしまった。







それから数ヶ月後の夕食時。

父さんは席につくなり嬉そうに話し始めた。


「母さん、さやか聞いてくれ!めでたいぞ!!」


「なに?どうしたの?12歳の時からずーっとやってるルービックキューブでも完成した?」

「それとも部長の不倫現場でも抑えて昇進しそうなの?」


私と母親が口々に訊ねると父親は首を振って否定した。


「違う違う、サカイ君とオリヴィアの件だよ」

「ああ あの人達ね、何?どうしたの」


数ヶ月前の記憶を引っ張り出し、そう尋ねる。


「オリヴィアに子供ができたんだ!」

「えええっ?!」

「まさか!!サカイ君の子?!」


母親が驚愕の表情で父親にくいつくと父親はうっすらと笑いながら頷いた。


「まあまあ、そう焦らずに。料理が冷めちゃうぞ」


そう焦らしながら父親はスパゲティをフォークに絡めた。


「ああ あなた、私信じられないわ…だって…そんなまさか…」


母親は頭に手をやり大袈裟な仕草で椅子に座った。ちなみに彼女は元演劇部だ。

それにしてもそこまで驚かれるとは、サカイ君というのはよほどの軟弱者なのだろうか。

そんな失礼な事を考えつつ冷やし中華にタレをかけた。


「いやぁ、父さんもびっくりしたよ。今日オリヴィアに会ったら腹が目立ち始めててなぁ」


父親の勤める会社はなかなかどうして大きな企業なのだ。

お腹が目立ち始めるまで会わなかったとなると、もしかしたらオリヴィアとは部署が違うのかも知れない。

そういえば私サカイ君なる人物もどういった役職か知らないんだった。


「サカイ君とオリヴィアの子なんて想像出来ないわ、私」


母親は鼻に皺を寄せながら牡蠣鍋に白菜を入れた。


「産まれたら写真をもらってくるよ」


そうニコニコ微笑みながら父親はおでんのハンペンをすくった。


「…ところで母さん、いつも言おうと思っていたんだが」

「あら なあに?あなた」


「ウチの夕食、メニューが奇妙しいぞ?」










それから数週間後

私はサカイ君とオリヴィアの事なんかすっかり忘れて来週の期末テストに頭を悩ませていた。私は自分でいうのも難だけど成績は悪くない。けれども体育の実技テストは別問題だ。

っていうか人間は後転が出来なくても生きていける。

マット運動が生活に密着しているのなら私だって必至にもなるが、たかだかでんぐり返し。しかも後ろ回り。私は後ろに転がるような生き方はしたくないと小学校三年生の体育の授業で誓った。だからといってこんなところでつまづいているワケにもいかないのだ。布団の上で必至に練習していると父親が玄関先で叫ぶ声が聞こえた。


なんだろうと母親とあわてて玄関に向う。

すると父親は嬉しそうに小さなバスケットを床に置いた。


「なあに?お父さんどうしたの??」

「フフフ、おまえ達びっくりするぞ」

「あなたが実は国際的なスパイでも私はついて行くわ!」


母親がまた意味のわからない事を言っている。

しかし父親は感激したらしく母親の手を握りしめた。


「いいから、で 何がびっくりなの?」


いつもの事なので冷静に先をうながすと父親は「ああ そうそう」とか言いながら話し始めた。


「実はサカイ君とオリヴィアの子供が産まれたんだ!」


「へぇ!よかったじゃん、おめでとうって伝えてよ」


それまでの経緯を聞いていたのでなんだか他人事とは思えず嬉しい。

父親も母親もそうらしく、うんうんと頷いている。


「で だな、なんと五つ子だったんだ!!」


「えええっ?!」


凄いぞオリヴィア!さすが外人さん、やる事がデカイな!

などとよくわからない感心をしていると、父親が次にトンデモナイ事を言い出した。


「それでな、その内の女の子を貰ってきたんだ」


「はあ――――――――?!」


私はあまり感情の起伏が激しくない人間なので叫ぶ事なんて滅多にない。

だけれどもここは叫んどくトコロだと思う。


「ちょ ちょっとお父さん!何言ってるの?正気?」

「いいだろ母さん」

「ちょちょ 待ってよいいわけ…」

「まぁ 素敵ね」

「う゛えぇ?!待ってよお母さん!いくらなんでもそこまで世間ズレしてるのはマズイって!!」


「ほら、実はもうこのバスケットに」

「まぁ!」


父親と母親は私の事なんかまるっきり無視して話しを進めている。

ああ もうどうなっちゃうんだ、てか乳飲み子をバスケットにいれて持って来るなよ…


「ほおら、可愛いだろ」


そこには




犬 がいた。

小さな まだやっと目が開いたばかりみたいな子犬。

じっとこっちを見上げていた。



「……へっ?」


私は現状を理解出来ずに素っ頓狂な声をあげてしまった。


「名前はどうしようか」

「さやかも散歩させてあげてね、いいダイエットになるわよ」

「あの…サカイ君って?」


「父親のサカイ君はチワワ」

「母親のオリヴィアはゴールデンレトリバー」


父親と母親はそう口々に言う。「言ってなかったっけ?」といわんばかりに。


「なかなかどうして、サカイ君もやるよな」

「本当ね、あの小さな身体でよくぞ!よね」



…その後父親と母親に詳しく話しを聞いたところ、どうやらサカイ君は父親の会社の同僚が飼っているらしい。父母はその同僚と共通の友人でたまに家に遊びに行っていたらしく、オリヴィアはその同僚の家のお向かいさんが飼っているそうだ。父親の同僚とそのお向かいさんは仲が良く、一緒に散歩をさせたりしていたとか。



「ちなみに桜ちゃんは?」

「母さんの友人が飼っているパグだよ」

「パグ…」


へぇ…そりゃ、顔が潰れてるわな。



「で さやか、この子の名前どうしようか」


サカイ君とオリヴィアの合作は我が家のリビングでぐっすりと眠っている。

なかなか可愛い。

手足が太いのできっとサカイ君よりオリヴィアに似るのではないだろうか。


「まってあなた!私が決めたいわ!」


母親が子供のようにはしゃぎながらのりだした。


「おお なんだい、いいのがあるのかい?」

「ええ、『コミヤさん』がいいと思うの」


「「……」」


「えと、お母さん、なにその苗字チックな名前…」

「いいでしょ?なに、さやか、他にいいのある?」

「や 別に…」



それから何ヶ月かしてその「コミヤ」というのが母親のパート先の嫌味なオバサンである事が判明した。どうやら母親は「こら!コミヤさんおあずけ!!」とか「コミヤさん最近抜け毛が激しいわよ!」とか言ってストレス発散している模様だ。

我が母ながらイヤな女である。


そんな風にしてコミヤさんは我が家にやってきた。

よく噛むけど可愛いヤツである。


いつか載せたいと考えている長編小説の主人公で短編を書きました。

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