第4章 選ばれない人
決断は、思っていたよりもあっさりしていた。
「今回は、この体制で行きます」
課長の言葉に、誰も異を唱えなかった。
スクリーンに映し出されたメンバー表を見て、私は一瞬だけ息を止める。
そこに、彼の名前はなかった。
遅れていた同僚。
何度も「頑張ります」と言っていた人。
代わりに入っているのは、別部署から引き抜いた即戦力だ。
実績も、数字も、申し分ない。
合理的な判断だと思った。
「異論は?」
課長がそう聞いたとき、私は何も言わなかった。
言う理由がなかった。
彼を入れれば、遅れる。
今度は、取り返しがつかない。
それだけの話だ。
*
会議のあと、私は彼に呼び止められた。
「……外れたんですね」
声は静かだった。
責める色も、怒りもない。
私は一瞬、言葉を選んだ。
でも、曖昧な慰めは、かえって残酷だと思った。
「今回は、スピード重視だから」
「そう、ですよね」
彼は苦笑して、頷いた。
「自分でも、向いてないと思ってました」
その言葉に、胸が小さく揺れた。
否定すべきなのか、同意すべきなのか、一瞬迷う。
でも、私は何も言わなかった。
彼自身が、分かっている。
それが事実だ。
「次、頑張ります」
「……うん」
その返事が、ひどく空虚に感じられた。
*
その日の午後、私は新しい体制での進行表を作っていた。
作業は驚くほどスムーズだった。
返事は早く、確認も正確だ。
「やっぱり、こうじゃないと」
思わず、そんな言葉が漏れる。
進まない仕事。
曖昧な返答。
説明ばかりで結果が出ないやり取り。
それらがないだけで、こんなにも楽なのか。
私は気づかないふりをした。
あの人がいなくなったことを。
*
夕方、佐藤が近づいてきた。
「……あいつさ、結構落ち込んでた」
「そう」
それだけ答えて、私は画面から目を離さなかった。
「前に、手伝ってほしいって言われたの、覚えてる?」
「……覚えてるよ」
覚えている。
でも、それが何だというのだ。
「少しでもフォローしてたら、違ったかもなって」
「結果論でしょ」
自分の声が、思ったより冷静で驚いた。
「全員を救えるわけじゃない」
「……」
佐藤は何も言わなかった。
それ以上、踏み込めなかったのだと思う。
*
帰りの電車で、私は今日の出来事を反芻していた。
切り捨てた、という実感はない。
ただ、選ばれなかっただけだ。
全員が選ばれるわけじゃない。
それが現実だ。
私は、自分にそう言い聞かせる。
あの人――課長なら、きっと同じ判断をした。
いや、もうしている。
私は、間違っていない。
正しい側にいる。
それなのに。
ふと、第一案を却下された日の自分の顔が、頭をよぎった。
何も言えず、納得してしまった、あの感覚。
あれと、今の彼の表情が、どこか重なる。
私は、目を閉じた。
考える必要はない。
感情を挟めば、判断が鈍る。
明日も仕事は続く。
結果を出すために。
選ばれる側でいるために。
私は、そうやって前を向いた。
――誰かが、選ばれないまま置いていかれることから、
目を逸らしながら。
ありがとうございました。
感想をいただけるとありがたいです。




