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同じ尺度で  作者: 普通
12/13

第12章 理解

 それは、偶然だった。


 書類の確認中、

 古いフォルダを開いた。


 残っていたのは、

 引き継ぎ用のメモ。


 整理されていない。

 日付も、形式もまちまち。


 でも、目が止まった。


     *


 判断基準。

 優先順位。

 切り替え条件。


 どれも、

 今の私が使っているものと、

 ほとんど同じだった。


     *


 「あ……」


 声は出なかった。


 ただ、

 視線だけが止まる。


     *


 昔、嫌っていた。


 冷たい。

 話を聞かない。

 数字しか見ていない。


 そう思っていた。


     *


 でも、このメモは違う。


 感情を排した書き方。

 余白のない文章。


 それは、

 考え抜いた痕跡だった。


     *


 「全部、分かった上で……」


 小さく、息を吐く。


 分かった上で、

 切っていた。


 迷った上で、

 選んでいた。


     *


 だから、

 説明しなかった。


 説明しても、

 受け取れない側がいることを、

 知っていた。


     *


 私は、椅子にもたれた。


 画面から目を離す。


 あの時。


 自分が感じていたのは、

 不当さじゃなかった。


 理解できない速度への、

 苛立ちだった。


     *


 追いつけなかった。


 ただ、それだけ。


     *


 今なら分かる。


 判断は、

 感情より先にある。


 そして、

 感情を待っていたら、

 全てが遅れる。


     *


 「……正しかったんだ」


 そう思った瞬間、

 胸の奥が、

 ひどく静かになった。


     *


 怒りも、

 恨みも、

 否定も。


 全部、

 意味を失った。


     *


 残ったのは、

 同意だった。


     *


 その理解は、

 救いじゃない。


 許しでもない。


 ただの、

 事実の確認だ。


     *


 私は、

 画面を閉じた。


 フォルダを、

 元に戻す。


 誰にも言わない。


 言う必要がない。


     *


 昼休み、

 後輩が言った。


 「判断、的確ですよね」

 「前の人より、分かりやすいです」


 私は、

 少しだけ間を置いて、

 こう答えた。


 「そうかな」

 「はい。迷いがないです」


     *


 迷いがない。


 それは、

 かつて自分が嫌っていた点だ。


     *


 私は、

 その言葉を否定しなかった。


     *


 午後、

 別の判断を下す。


 同じ基準。

 同じ速度。


 胸は、

 何も痛まない。


     *


 分かってしまったからだ。


 あの人が、

 何を見ていたのか。


 なぜ、

 立ち止まらなかったのか。


     *


 そして、

 なぜ――

 誰にも、

 理解されなかったのか。


     *


 私は、

 同じ場所に立っている。


 同じ景色を見て、

 同じ判断をしている。


     *


 違うのは、

 ただ一つ。


 今度は、

 私が嫌われる側だ。


     *


 その事実を、

 受け入れる準備が、

 もう、できていた。



ありがとうございました。

感想をいただけるとありがたいです。

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