第10章 言い方
会議は、予定より十分早く終わった。
特に揉めることもなく、
進捗も、数字も、想定内。
私は最後に、まとめとして口を開いた。
「じゃあ、この件は一旦ここまでで」
頷きがいくつか返ってくる。
その中に、一人だけ視線を落としたままの後輩がいた。
*
「少し、いい?」
会議後、私はその後輩を呼び止めた。
驚いた顔。
でも、すぐに立ち上がる。
「はい」
席に戻らせ、
私は立ったまま話した。
距離は、机一つ分。
*
「最近、判断が遅い」
言葉にした瞬間、
自分の声が妙に落ち着いていることに気づいた。
責めている感じはしない。
ただ、事実を並べているだけ。
「迷ってるのは分かるけど」
「……はい」
「ここ、スピード求められるから」
後輩は何度も頷く。
私は、そこで一呼吸置いた。
*
「向いてないとは言わない」
その言葉を口にした瞬間、
胸の奥で、何かが引っかかった。
――ああ。
昔、
誰かに言われた。
同じ調子で。
同じ間で。
その記憶は、
でも、すぐに沈んだ。
*
「ただ、今のやり方だと」
「このポジションは厳しい」
後輩の手が、膝の上で強く握られる。
私は、それを見ない。
見ないほうが、話は早い。
「だから」
「別の役割、考えよう」
*
「……外れる、ってことですか」
声は、思ったより小さかった。
私は、少しだけ首を傾ける。
「切るわけじゃない」
「適材適所」
その言葉が、
驚くほど自然に出た。
*
後輩は、何か言いかけて、
結局、口を閉じた。
私は、最後にこう付け足す。
「君のためでもあるから」
その瞬間。
完全に一致した。
声の調子。
言葉の選び方。
結論の置き方。
*
後輩が席を立ち、
頭を下げて去っていく。
私は、その背中を見送った。
特別な感情は、ない。
罪悪感も、
達成感も。
*
しばらくして、
別の同僚が言った。
「さっきの、うまかったですね」
「そう?」
「ちゃんと配慮してる感じ、ありました」
私は、小さく笑った。
「言い方、気をつけただけ」
*
デスクに戻り、
画面を見る。
作業は、滞りなく進んでいる。
問題は、解消された。
誰も困っていない。
*
それなのに。
ふと、昔の光景がよぎる。
向かいの席。
少し高い視線。
同じ言葉。
――君のためでもあるから。
私は、キーボードに手を置いたまま、
一瞬だけ動けなくなる。
*
でも、すぐに再開した。
今は、忙しい。
考えるのは、
後でいい。
この言い方は、
間違っていない。
結果も、出ている。
私は、そうやって、
自分を納得させる方法を、
もう知っていた。
ありがとうございました。
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