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同じ尺度で  作者: 普通
10/13

第10章 言い方

 会議は、予定より十分早く終わった。


 特に揉めることもなく、

 進捗も、数字も、想定内。


 私は最後に、まとめとして口を開いた。


 「じゃあ、この件は一旦ここまでで」


 頷きがいくつか返ってくる。


 その中に、一人だけ視線を落としたままの後輩がいた。


     *


 「少し、いい?」


 会議後、私はその後輩を呼び止めた。


 驚いた顔。

 でも、すぐに立ち上がる。


 「はい」


 席に戻らせ、

 私は立ったまま話した。


 距離は、机一つ分。


     *


 「最近、判断が遅い」


 言葉にした瞬間、

 自分の声が妙に落ち着いていることに気づいた。


 責めている感じはしない。

 ただ、事実を並べているだけ。


 「迷ってるのは分かるけど」

 「……はい」

 「ここ、スピード求められるから」


 後輩は何度も頷く。


 私は、そこで一呼吸置いた。


     *


 「向いてないとは言わない」


 その言葉を口にした瞬間、

 胸の奥で、何かが引っかかった。


 ――ああ。


 昔、

 誰かに言われた。


 同じ調子で。

 同じ間で。


 その記憶は、

 でも、すぐに沈んだ。


     *


 「ただ、今のやり方だと」

 「このポジションは厳しい」


 後輩の手が、膝の上で強く握られる。


 私は、それを見ない。


 見ないほうが、話は早い。


 「だから」

 「別の役割、考えよう」


     *


 「……外れる、ってことですか」


 声は、思ったより小さかった。


 私は、少しだけ首を傾ける。


 「切るわけじゃない」

 「適材適所」


 その言葉が、

 驚くほど自然に出た。


     *


 後輩は、何か言いかけて、

 結局、口を閉じた。


 私は、最後にこう付け足す。


 「君のためでもあるから」


 その瞬間。


 完全に一致した。


 声の調子。

 言葉の選び方。

 結論の置き方。


     *


 後輩が席を立ち、

 頭を下げて去っていく。


 私は、その背中を見送った。


 特別な感情は、ない。


 罪悪感も、

 達成感も。


     *


 しばらくして、

 別の同僚が言った。


 「さっきの、うまかったですね」

 「そう?」


 「ちゃんと配慮してる感じ、ありました」


 私は、小さく笑った。


 「言い方、気をつけただけ」


     *


 デスクに戻り、

 画面を見る。


 作業は、滞りなく進んでいる。


 問題は、解消された。


 誰も困っていない。


     *


 それなのに。


 ふと、昔の光景がよぎる。


 向かいの席。

 少し高い視線。

 同じ言葉。


 ――君のためでもあるから。


 私は、キーボードに手を置いたまま、

 一瞬だけ動けなくなる。


     *


 でも、すぐに再開した。


 今は、忙しい。


 考えるのは、

 後でいい。


 この言い方は、

 間違っていない。


 結果も、出ている。


 私は、そうやって、

 自分を納得させる方法を、

 もう知っていた。



ありがとうございました。

感想をいただけるとありがたいです。

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