忘 (i)
初投稿です!
誤字脱字等ございましたら、コメントで教えてください!
その他感想等お待ちしております!
ある朝、白石陸斗が布団から起き上がり、寒気に身を凍えさせていたとき、自分の全身が血まみれになっていることに気づいた。
よく自分の身体を観察してみると、それは自分の血ではなく、誰かの血が自分の服についたもののようだった。
自分は誰かを殺したりでもしたのだろうか。
直近二、三日の記憶が何も思い出せないことを軽く悔やみながら、テレビの電源をつけた。
どこへおいたかわからないスマホを探している間にでも適当に聞いておこうと思った。
いつもはスマホを横目に見ているような朝のニュース番組だった。
しかし、今日はいつもとは異なり、スマホを探していることなど忘れ、たった今流れてきたニュースに食い入るように見入ってしまった。
ニュースでは自殺を報じていた。
普通のニュースならそんなことを報じることはめったにないのだろうが、地元のテレビ局のニュース番組だから取り上げているのだろう。
その現場は自分の家の近くのビルのようである。
また、その遺体は頭を酷く打っているようで、飛び降り自殺らしかった。
こういうニュースを聞くと自分との共通点を考えてしまう。
「亡くなったのは、XX市在住の十代の男子大学生です。近くにあった遺書から自殺と判断されました。」
自分と同年代でしかも近くに住んでいる男が自殺したという事実は、大して僕の心に残った訳ではないが、近くで起きたということが僕の興味を深くそそった。
毎朝の日課の散歩がてら、今朝はそのビルに行ってみることに決めた。
外に出ると、もう七時前だというには暗すぎる真冬の朝の様子があった。
そのビルは自分が住んでいるアパートから徒歩で五分も離れていないようなところにある廃れたビルである。
都内からたいして離れていないこの付近でも一際異質を放っている。
取り壊されずに未だに残っている理由がわからないが、こういうことがあったのなら、じきに取り壊されてしまうのだろう。
陸斗がふと見上げると、すでにそのビルは視界に入ってくる。
近づけば近づくほど、思ったよりも荒廃しているビルの外見が鮮明に見えてくる。
ビルは自殺があったとは思えないくらい静かで、そんなことは微塵も感じさせなかった。
地元の子供なら誰でも知っているような壁の崩れた穴からビルの内部に侵入した。
中は外側と同様の汚さでよく近所の小学生のたまり場となっているため、ゴミが散らかっている。
足早に屋上に駆け上がる。
屋上へは入れないようになっているが、いつも窓の鍵はかかっていなく、いつでも入ることができるようになっている。
屋上を暫く探していると、ヒビの入ったスマホを見つけた。
壊れているようで電源はつかないが、ケースを見て、自分のスマホであると確信した。
そして、スマホを拾ったことで、昨日の夜のことを少し思い出した。
自分は昨日の夜、屋上で誰かといた。
そして、自分の死体のようなものを俯瞰的に見下ろしている記憶もフラッシュバックした。
いや、あれは確実に自分の死体だと断定できるだろう。
それは、今朝も鏡で見た自分の顔と全く同じものだったからだ。
それと同時にさっきのニュースの言葉が自分の頭の中に何度も繰り返されてくる。
「亡くなったのは、XX市在住の十代の大学生です。」
このニュースは自分のことだったのではないか。
僕はそのときに殺されてしまったのではないか。
つまり、これは自殺ではなく他殺、殺人事件であるということだ。
血まみれの服も最近の記憶がないことも殺されたせいだと考えたほうが辻褄はあっているのだろう。
だとしたら、なぜ自分がこの世にまだ残っているのか。
成仏するには、この事件を解決し、犯人に罪を償わせるしかない。
実のところ、犯人の見当はまったくない。
交友関係の中の誰かが犯人だと思うと、余計に怪しく見えてきてしまう。
信頼できるのは、幼馴染の真壁迅と篠宮澪の二人しかいない。
最近はあまり迅とは会っていない。
まあ、スマホがない時点で誰とも連絡を取ることができないだろう。
第一、死んでいる自分の声が電話越しにでさえ届くかどうかすらわからない。
辺りは徐々に明るくなってきた。
陸斗はアパートへの帰路へついた。
不思議なほど人とすれ違わずに、何事もなく自分の部屋に帰ることができた。
起きたときと何も変わらない部屋には、先ほどとは違い朝日が差し込んできており、どこか物寂しい雰囲気を見せていた。
大学で使っているノートパソコンを取り出し、高校時代の友人と多くつながっているSNSを開いた。
澪と迅ともつながっていたはずだ。
澪とのメッセージのトーク画面を開いた。
最後に澪とこのSNSで話したのは高校卒業した直後だった。
澪には高校時代に僕のことを恨んでいたような人がいないかを聞いた。
一応、迅にも同じような内容のことを送った。
澪からはすぐに返信があった。
僕が死んだと僕の実家から連絡があったこと、そして僕を恨んでいるような人に心当たりがないと言っていた。
どういうことか心配されたが、今朝のことと自分の今の考えを話したことでとりあえず、自分に協力はしてくれるらしい。
誰が犯人かはわからないから僕と連絡が取れていることは口止めをした。
警察が犯人を捕まえる前に逃げられたり、澪に危害が加わったりすることを避けるためだ。




