蘇生、時空の「ズレ」発生
ノジュアスの身体を包んでいた光が、ゆっくりと収まっていく。
魔王進化、完了。
その姿は以前の少年ではなかった。
身長は伸び、瞳は蒼炎の魔力を宿し、身体中を巡る紋様が淡く光を放っている。
ノジュアス
「……これが、魔王の力……」
胸の奥で鼓動が重く響く。
魔王としての魔素が、血のように流れ始めていた。
だが、彼が向かう場所はひとつだけ。
エルミアの亡骸が安置されている神殿。
ノジュアスは空間を裂き、転移して現れた。
ノジュアス
「エルミア、戻ってこい」
白い布をかけられた少女の身体。
胸は動かず、肌は冷たく、死という現実だけが静かに横たわっていた。
ノジュアスはそっと手を伸ばし、布をめくる。
エルミアは、まるで眠っているように穏やかな顔だった。
ノジュアス
「……ほんとに、死んだんだな」
声は震えなかった。
もう迷いはなかった。
魔王の紋様が彼の腕に広がり、鮮烈な青白い魔素が吹き上がる。
リムリア
『蘇生魔法は……魔王にしか扱えない。
でも君はできるよ。《極めるもの》がある。
魂さえ繋ぎ止めれば、彼女は……!』
ノジュアス
「助けるさ。絶対に」
彼は静かに手をかざし――
《魔王術式・魂還元》
魔素が渦を巻き、神殿全体が震え始めた。
床に描いた魔法陣が、一斉に青い光を放つ。
エルミアの胸の上に、淡い火の粉のような魂の破片が集まっていく。
リムリア
『……すごい……最弱スキルで魔王進化したのに、
ここまで魂を引き寄せられるなんて……!』
ノジュアス
「エルミア……帰ってこい」
その瞬間、空間が“バキッ”と音を立てた。
リムリア
『……え?』
ノジュアス
「……!? 今の……何だ?」
魔法陣が明らかに“ひずむ”。
円が歪み、線が波打つ。
リムリア
『ノジュアス……やばい……!
その魔力の流れ、絶対に正常じゃない!』
ノジュアス
「もう止められない……! ここで止めたら、
エルミアの魂がまた散る!!」
魔法陣の中心、エルミアの胸が少しだけ光る。
……成功しかけている。だが――
――次の瞬間。
時空が裂けた。
---
リムリア
「ノジュアス、そこから離れて!!」
リムリアの叫びはもう届かない。
ノジュアスの身体が黒い影に引きずられるように“後ろへ”引っ張られる。
ノジュアス
「な……なんだこれは……っ!?」
リムリア
『魔王進化の魔素が足りない!
君の《最弱スキル》は……本来、蘇生なんてできない……!
《極めるもの》で無理やり補ってるせいで時空そのものが……歪んでる!!』
ノジュアス
「そんな……!」
光が跳ね、神殿の壁にひびが走る。
ノジュアスはエルミアの手を掴もうと伸ばす。
だが、手は空を切った。
ノジュアス
「エルミアああああああああッ!!」
リムリア
『ノジュアス!! つかまって!!』
ノジュアス
「リムリア……っ!」
ノジュアスの身体は強制的に引き戻される。
白い光に包まれ、視界がねじれ、音が遠のき、彼は深い闇へ落ちていく。
リムリア
『待って!! ノジュアス!!
行かないで!!』
最後に聞こえたのは、魔王の少女の声だった――
――そして、目を開くと。
ノジュアスは固い地面の上に倒れていた。
耳に入るのは、車の音。ビル風の音。人の話し声。
ノジュアス
「……え?」
見上げると、そこには――
――日本の空。
ビル街。サラリーマンの人混み。コンビニの看板。
ノジュアス
「ここ……俺の……元の世界……?」
そこに魔王も、仲間も、エルミアの身体すらない。
ただ一人、山口健太として転生前にいた“現実”だけが広がっていた。
ノジュアス
「嘘だろ……俺、異世界から……
戻ってきちまったのか……?」
魔王として進化したノジュアスは、時空の歪みによって現実世界へ強制転移させられてしまったのだ。
そして、魂の蘇生も、途中で途切れてしまった。
彼の両手は震えていた。
ノジュアス
「エルミア……」
ビルの上、空を見上げる。
そこにはもう異世界の空はなかった。




