魔王、誕生前夜
《極めるもの》が50%に到達してから、ノジュアスはさらに速度を上げて命を救っていった。
残り3000。
一人救うたび、彼の体から淡い光が立ち上る。
救済で得た“魂の光”は、ノジュアスの胸に吸い込まれていき、魔王への条件を満たしていく。
◆大災害 ―《瘴霧》の街
残り2000人を切ったある日。
ノジュアスはギルドから異常な依頼を受ける。
「街全体が瘴霧に覆われ、住民が倒れています!
冒険者たちも次々と……」
瘴霧は“生命を削る毒の霧”だ、普通の冒険者が入れば数分で命を落とす。
ノジュアスは迷いなく街へ飛び込んだ。
「全員、絶対に助ける!」
《極めるもの》を発動させると、ノジュアスを中心に霧が裂けていく。
最弱スキル《微力増加》は、今や“耐性強化の王”となっていた。
倒れた住民を次々に抱えて外へ運び、解毒魔法を極め、治療師の手を借りながら命を繋いでいく。
その数、1200人。
ノジュアスの胸の光が、さらに強く燃え上がった。
◆魔物の巣穴 ―《黒狼王》との対峙
残り800人。
奥地の村から悲鳴が届いた。
伝説級魔物《黒狼王フェンラード》が暴走し、村人を袋小路に追い詰めていた。
「うおおおおおッ!!」
ノジュアスは《極めるもの》を全開にし、黒狼王の牙を素手で受け止めた。
瞬間、骨がきしむ。
しかし、《極めるもの》はその瞬間ごとに筋力を補正し、ノジュアスの体を壊させない。
「逃げろ!! 俺が止める!」
黒狼王が咆哮し、闇魔法が爆発する。
ノジュアスはその中へ飛び込み、拳に魔素を集中させた。
「砕けろッ!!!」
轟音とともに、黒狼王が地に伏す。
その場にいた村人すべてを救い、ノジュアスはさらに前へ進む。
◆最後の200人 ― 崩れ落ちる主人公
あと200人救えば、魔王になれる。
だが――
「はぁっ、はぁっ……っ!!」
魔素の使いすぎで、ノジュアスは膝をついた。
限界はとうに超えている。
それでも、頭の中でエルミアの泣き顔と笑顔が交互に浮かぶ。
(守るって……約束したんだ……
ここで倒れるわけ……ないだろ……!)
歯を食いしばり、立ち上がる。
最後の200人は、地震で崩れた峡谷の底に取り残されていた。
ロープも魔法も届かない。
ノジュアスは飛び降りた。
「全員、俺が運ぶ!!」
落下しながら一人ずつ抱え、崖を壁走りして登る。
繰り返すたびに血が滲む。
肺が焼けるように痛む。
だが、誰ひとり諦めない。
そして、最後の1人を地上に上げた瞬間。
胸に宿った光が、爆ぜた。
◆魔王進化 ― 条件達成
《救済した生命:10000》
《魔王進化の資格を満たしました》
ノジュアスの体から天へ向けて光の柱が立ち上がる。
空が震え、風が渦巻き、地面が低く唸る。
周囲の冒険者、救った人々は息を呑んだ。
「な……何が……?」
「彼が……魔王に……?」
ノジュアスの視界が白く染まり、意識が浮かび上がる。
そして聞こえてくる声。
――よくやったね、ノジュアス。
リムリアの声だ。
――これで、君は“魔王”になる資格を得た。
光の中心で、ノジュアスは目を閉じた。
「待ってろ、エルミア……
今、必ず……助けに行く。」
強烈な進化の光が彼の体を包み込み――
――次の瞬間、ノジュアスは“魔王”へと変貌を始めた。




