最弱スキルと少年の名
薄暗いオフィスの天井を見上げながら、山口健太は深くため息をついた。
残業続きの毎日。
コンビニ飯。
休日は寝るだけ。
「……俺の人生、こんなはずじゃなかったんだけどな」
だが、その独り言は最後まで言い切られることはなかった。
突然、視界が白く染まり、足元が消えた。
◆ 異世界の森
目を開けると、そこは知らない森だった。
高い木々、濃い湿気、見たこともない草。
そして何より――
自分の体が小さい。
「え……? 俺、縮んでない?」
反射的に手を見る。細い。
足も短い。
体全体が、明らかに**“子どもサイズ”**になっている。
その瞬間、脳内に機械的な声が響いた。
◆【スキルを付与しました】
●固有スキル:最弱
●固有スキル:極めるもの(???)
「……最弱……?」
最初に目に入った単語を理解した瞬間、膝が崩れかける。
「ふざけんなよ……転生したのは分かるけど、俺……“最弱”なのかよ……?」
しかし同時に、“もう一つのスキル”が気になった。
極めるもの
ーー説明:なし。
「説明なしって……バグじゃねぇのか?」
嘆きながら立ち上がったとき、先の茂みが揺れた。
◆ 魔獣との初遭遇
姿を現したのは――黒い狼のような魔獣。
体長は自分の三倍近い。
「やばいやばいやばい……!」
走ろうとした瞬間、違和感を覚える。
足が、やけに速い。
視界の端が鮮やかになる。
狼の動きが“遅く見える”。
「……なんだこれ?」
脳裏に再び、声。
◆【極めるもの:発動】
《対象:回避行動
進捗:1%→3%》
狼が飛びかかる。
健太は反射的に横へ跳んだ。
――スッ。
たったこれだけで躱せた。
「……俺、こんな動きできたっけ?」
次の瞬間、狼は逃げていった。
自分に反撃の気配がないと悟ったのかもしれない。
◆ 新しい自分の名
激しい鼓動を沈めながら、健太は呟いた。
「俺は……山口健太じゃなくなった。
だったら、名前も変えないとな」
日本の名をそのまま使う気にはなれない。
この世界で生きるための、新しい名。
健太は、自分の胸に手を置きながら言った。
「今日から俺は――」
少し考え、口元に微笑みを浮かべる。
「ノジュアス。
“最弱”でも、“極めるもの”が俺を強くする……」
森の風が吹き、黒い髪が揺れた。
154cmの小柄な少年が、異世界で最弱から成り上がる物語は、ここから始まる。




