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3. 真ん中の決別

俺は秋傘隼人、ただの喫茶の店員だ。

 ここは本当にいろんな人が来る。

 街のご老人、帰り際の高校生、休憩中のサラリーマンなど、人目につきにくくても客はけっこういる。

 常連さんが座る席はほぼ一緒だし、どのメニューが好きかも覚えているが、あまり客と会話はしない方だと思う。

 (さてと、店を開けるか...)

 時間を見ると6時ちょうど。この店はかなり早くからやっているのだ。

 店を開けて30分ほど待つと、ドアが開いた。

 「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ。」

 いつも通り席へ案内する…にしてもまだお客さんは一人しか来ていないから全部空いているが、他に話しかけることも考えられないのでいつも通りだ。

 彼女はいつも通り真ん中の席に座る。目立つ席ではあるが、あまり客同士で関わることはないのだ。

 「すみません」

 「はい、何でしょうか。」

 注文か?と思いつつ席に行くと

 「ココアお願いします。ホットで。」

 「かしこまりました。ココアのホットですね。」

 ココアを準備するためにカウンターへ戻る。

 まだこの時間帯は薄暗く、近くの大通りも人通りが少ない。そんな中、彼女は仕事用らしきカバンを持って毎朝来てくれている。

 (今日も平和になるかな〜)

 なんてことを毎朝考えながらココアを作っている。必ず平和になるのだが、なんとなくやめられないルーチンになっている。そうして考えていると、あっと言う間にできてしまった。

 「お待たせしました、ココアのホットです。」

 「ありがとうございます。」

 そんな短い会話を交わし、カウンターへ戻る。

 彼女は少しココアを飲んだあと、机に置き、冷めるのを待っている。その姿は少し寂しいように見えた。

 (今のうちに在庫確認しよう)

 そう思い席を立つと、彼女はココアを飲み終わっていて、レジの前に立っていた。

 「会計お願いします。」

 「はい、ただいま。」

 会計を済まし、彼女は店を出てどこかへ歩いて行く。

 時計を見ると7時半。

 (もうそんなにたっていたのか)

 歩いて行く彼女を窓から見送りつつ、客が来るまでカウンターで待つことにした。

 

 昼頃、ドアが開いた。

 「こんにちは~」

 「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ。」

 昼頃の人が集まってくる時間帯に、前に来てくれたお客さんが来た。彼女が来る頻度は増えて、お気に入りのメニューも決まったらしい。彼女はケーキが好きなようで、ケーキセットを入れた新しいメニューを見た瞬間、抑えきれない笑顔が溢れていて、それから毎回ケーキセットを頼むようになった。最近ずっと頼んでいるのはミルクティーとパンケーキで、最初の味が忘れられないのだと話してくれた。

 「すみませ〜ん。いつものお願いします。」

 「かしこまりました。ミルクティーとパンケーキですね。」

 常連さんの中で初めて『いつもの』を使うようになったのも彼女だ。初めて使われたときは緊張したが、今はもう慣れてきた。

 「お待たせしました。ミルクティーとパンケーキです。」

 「ありがとうございます〜」

 ミルクティーとパンケーキを届けてカウンターへ戻る。今日も何もない平凡な日だと思いながら椅子に座って考えるのであった。

 

 次の日、同じように6時に店を開ける。30分くらいたった頃、いつものお客さんが来た。

 「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ。」

 いつも通りに案内をして、カウンターへ戻る。鍋の準備をしようかと思ったら

 「ココアをお願いします。アイスで。」

 唐突な注文にびっくりしながらも

 「あっ、はい。ココアをアイスですね。」

 うまく返せた。しかし、何故かホットではなくアイスになっている。なぜだかわからないままココアを作る。できたココアを持っていくと

 「お待たせしました。ココアのアイスです。」

 彼女は受け取るやいなや一気に飲み干してレジに行ってしまった。

 「会計で」

 「はい、ただいま。」

 そうして会計を済ませて早足でどこかへ歩いて行ってしまった。

 (何があったんだ?)

 帰り際に窓から見えた彼女の顔は、どこか泣いているようにも見えた。

 コップを片付けようとすると、机の上に鍵と手紙が置いてあった。鍵は家の鍵にしては小さくて、手紙は、とても古くてところどころ破けていた。

 彼女は、何かとの別れをしたのかもしれない。恋人、友人、はたまた家族かもしれない。俺はそれを遠い目で見守ることしかできないのが残念だが、これは彼女が選んだことだ。俺が口を出すことではない。

 

 それから彼女は一度も来ていない。手紙も読んでいない。鍵と手紙はレジの横にある落とし物入れにひっそりと眠ったままである。

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