舞台裏の道化
屋上に至る扉を後ろ手で閉ざす。
あれほどお膳立てしてやったんだ。もうあとは若い人たちに任せていいだろう。
えんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいやあ。
聞こえるように歌ってやろうかしら。ちょうどそんな気分だし。
僕が空気の読める男でよかったな、感謝してもらいたいわ。
もしこの作品が舞台化したら、観客のみなさまにはこれ以上お目にかけられません。
だってここからは二人だけの時間ですから。
恋は盲目と言った物ですし、お互いしか見えない世界にいるのだから、覗き見するのは野暮ってもんです。
さて、やるべきことは無事終えた。これからどうしようかね。
演劇部に居場所は残されているだろうか。この先、脚本にこだわる理由はないが、作劇の楽しさを知ってしまった今では辞めるに辞められん。さっきのムーブとか完璧だったでしょ? すべてわかってて、掌の上ですよ感だけは絶対にアピールしておきたかった。
彼女たちにとって、僕にとっても、特別な日になったはずだ。
二人がいつか、始まりを思い出すときに、今日の出来事を忘れないでいてくれたら。絆の結び目を確かめ合う、幸せな回想のほんの僅かな隙だっていい、僕は君の時間の中にいたい。
何年経っても、今日のはじまりが深く心に根ざしたまま、愛する相手を思いやりながら、いつまでも二人であれと願う。
そして、僕もまた、初恋で……大好きだった女の子の、きらきら光る、宝石のような声を貰ったんだと、大切に抱きながら、励みにしながら
「…………っ」
想いを思い出にかえながら
このさきも
生きて
いくんだ、ずっと。
一つの物語は終わっても、僕の人生は続く。続いていってしまうから。
ポケットを探ると、○棒と、一つだけ残された飴ちゃんがあった。
袋の封は切らずにおこう、賞味期限とかやばそうだしな。一年前のものだしね。
さて、部のミーティングはすっぽかしてしまったから、後日怒られるとして、もう今日を閉じてしまおう。家に帰って休ませておくれ。
みながキャンプファイヤーに見惚れているうちに。
脇役の存在など、忘れてしまっている間に。
ひっそりと、舞台の袖から退場する。
こんな顔、ぜったい誰にも見せられないのだから。
そうして僕は、小説を書き上げたときに似た、心地よい疲労を感じながら。
一人、歩き出す。




