赤黒い光
ヴェルネの声は、結界そのものに染み渡るように響き続けていた。
「抗う心は嫌いじゃないわ。けれどそれは、季節を逆さに流そうとする愚かさに過ぎない。いずれ枯れ、朽ち、葬られる――それが“秋”よ」
リーナは弓を構えたまま、震える声で吐き捨てる。
「……そんな勝手な“秋”なんて、私は認めない!」
ヴェルネは艶やかに微笑んだ。
「認めるも、認めないもない。あなたが手にしているそれさえ、秋の理を体現するために在るのだから」
一瞬、リーナの胸がざわめいた。
双剣を握る手が重く感じられる。だが――彼女は首を振り、仲間の方を見た。
ガルドが大剣を肩に担ぎ、低く声を響かせる。
「理だの運命だの……勝手に決めるな。俺たちが斬り開くのは“今”だ」
ハルトも剣を構え直し、赤い瞳を真っ直ぐに睨む。
「たとえ何も持たなくても……仲間を守る力は俺が掴む!」
セリスは星輪の杖を胸に抱き、震えを抑えながら強く言った。
「未来の兆しなんて、滅びなんて……! 私はそれを越えるために、ここにいる!」
リュシエルは静かに短剣を抜き放つ。
「言葉遊びはもう終わりよ。――ここであなたを止める」
ヴェルネの瞳が、わずかに細められた。
「……そう。ならば見せてちょうだい。その決意がどれほど脆いかを」
彼女が腕を広げた瞬間、瘴気が弾け、影の群れが一斉に吠え立った。
赤黒い光が闇を裂き、幾十もの魔の器が仲間たちに殺到する。
「行くぞ!」
ハルトの叫びと共に、全員が駆け出した。
――戦いが始まった。