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黒羽の影

初依頼を終え、安堵の空気の中で突きつけられた黒羽の痕跡。

街に忍び寄る影と、ハルトに告げられた自らの剣技への評価――物語は一段階、緊張を増していきます。

 夕暮れの橙が街の屋根を染め、蒼風ギルドの窓から差し込む光がゆっくりと傾いていた。

 森での初討伐を終えたハルトとリュシエルは、土と血の匂いをまとった外套のまま、重い扉を押し開ける。


 広間に入ると、昼の喧噪はすでに去り、代わりに暖炉の火がぱちりと弾ける音だけが響いていた。

 木の梁に灯る橙の明かりが、冒険者たちの顔を柔らかく照らす。


 受付のセシルが二人を見つけて笑顔を向けた。

 「おかえり。初依頼はどうだった?」


 ハルトは手にした麻袋をカウンターへ置く。

 中には討伐した〈シェイドウルフ〉の牙が三本――依頼の証が収められていた。


 「依頼通り、三体討伐してきた。これで達成のはずだ。」


 セシルは袋を開け、丁寧に中身を確かめる。

 だが、その指が一瞬、止まった。


 「……これは?」


 袋の底に、ひらりと黒い羽根が一枚、紛れ込んでいた。

 淡い灯りの中で、それは光を吸い込むように鈍く輝いている。


 「黒羽……?」

 リュシエルが小さく息を呑んだ。


 セシルの唇がわずかに震え、声が落ちる。

 「どうしてこんなものが――」


 その時、背後から重い足音が響いた。

 低く鋭い声が、広間の空気を裂く。


 「黒羽の印だ。」


 振り向くと、赤銅の髪をした大剣の男――ガルドが立っていた。

 琥珀の瞳が鋭く光り、羽根を一瞥する。


 「どこで見つけた?」


 リュシエルはすぐに答えた。

 「森の外れ。〈シェイドウルフ〉の群れを討伐した場所に落ちていたの。」


 ガルドは羽根を受け取り、低く息を吐く。

 「……やはり奴らの手が伸びているか。」


 広間の空気が、一瞬で張り詰める。

 薪のはぜる音すら遠のくようだった。


 ガルドの声が、低く、しかしはっきりと響いた。

 「黒羽――氷冥王ノクトに仕える闇の眷属。

 街道沿いで旅商人を襲い、村を焼き払ったという報告もある。

 思ったよりも早い動きだ。」


 セシルが不安げに呟く。

 「黒羽が……街の近くにまで……?」


 リュシエルは静かに眉を寄せる。

 「女神ルミナの加護を弱めるために暗躍している――ただの噂じゃなかったのね。」


 ハルトは無意識に拳を握りしめた。

 森で感じた、あの微かな殺気。

 あれは――この羽根の主のものだったのだろうか。


 ガルドがハルトに目を向けた。

 その視線には、試すような鋭さがあった。

 「初依頼にしては上出来だったな。お前の剣筋、報告で聞いた。無駄がない、戦場慣れした動きだ。」


 ハルトは思わず息を呑んだ。

 「……あんたがそう言うなら、少しは自信がつく。」


 だがその胸の奥で、ざらりとした違和感が蠢く。

 ――なぜ、自分は戦える?

 記憶を失っているはずなのに。


 ガルドは視線を外さず、低く告げた。

 「黒羽の動きが活発になれば、街道も危険になる。

 俺は明朝、近郊の調査に出る。お前たちも気を抜くな。」


 その声には、戦場を幾度もくぐり抜けた者だけが持つ、重い響きがあった。

 リュシエルは小さく頷く。

 「わかったわ。ハルト、今日は休みましょう。明日は次の一手を考えないと。」


 ハルトはガルドの背を見送りながら、静かに息を吐いた。

 黒羽――その名が胸の奥で再び冷たく沈む。


 きっと、あの闇は偶然ではない。

 そして――その影は、自分の失われた過去にも繋がっている。


 燃える暖炉の光が、羽根の黒に反射してわずかに揺れた。

 その微かな揺らぎが、これから訪れる運命の影を、静かに告げているようだった。

森での戦いが終わったその夜、黒羽の存在が現実として迫ってきました。

ガルドの言葉が示す通り、これからハルトたちはより大きな脅威に立ち向かうことになります。

ハルトの過去と黒羽の暗躍、その二つがやがて交わる日は近いのかもしれません。

物語の続きが気になった方は、ブックマークや感想で応援していただけると励みになります。

これからもハルトとリュシエルの旅路を見守っていただければ嬉しいです。

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