王家の血
エルフの狩人たちに導かれ、蒼天の刃の一行は森の奥へと足を踏み入れていく。
道はあるようでなく、枝葉の隙間を縫うように細く続いていた。外の者なら迷うことは必至――それでも狩人たちは振り返りもせず、迷いのない足取りで進む。
その背中が見えなくなる前に。
ハルトが低く、しかしはっきりと呟いた。
「……姫、ってどういうことだ?」
その言葉に、空気がわずかに揺れた。
リーナは歩みを止めず、視線だけを前に向けたまま、肩越しに答える。
「言葉通りよ。フェリオーネ王イグレッタの娘――ただし、正妃じゃなくて、人間の側室の血だけどね」
ガルドとリュシエルは黙って頷いたが――
セリスは目を丸くしたまま、少しだけ早足でリーナの隣に並んだ。
「……本当に、お姫様だったんだ?」
「やめてよ。そんな顔しないでってば」
「え、いや……うん。びっくりしただけ。べつに、偉そうだったとかは一回も思ってないよ」
セリスはそう言って、慌てて両手を振る。
「むしろ……よく今まで言わなかったなって。私だったら、ちょっとくらい自慢しちゃうかも」
「しないってば。だって私、王族って扱われたこと一度もないもの」
リーナは肩をすくめ、ほんの少し寂しげに笑った。
「森では“混じりもの”って蔑まれて、人の里に出れば“森の者”って遠巻きにされてさ。王家の血だなんて、言ったところで信じてもらえないことのほうが多かったの」
セリスはゆっくりと頷きながら、それでもまっすぐにリーナを見た。
「……でも私は信じるよ。立場とか血筋とかじゃなくて、リーナがリーナだから」
リーナは一瞬だけ言葉を失い――そっと息を吐いた。
「ほんと、あんたは変にまっすぐよね」
「うん。よく言われる」
セリスが笑い、ハルトも小さく吹き出した。
その空気を、リュシエルがふっと風をひとつ起こして引き締める。
「話は歩きながらにして。油断してると置いていかれるわよ」
「……そうね。まだ“歓迎”されたわけじゃないんだから」
リーナは歩調を速め、狩人の背を追う。
森の奥――その先で待つものが、束の間の融和か、それともさらに深い溝かは、まだ誰にもわからなかった。