帝都の同盟会議
翌朝、蒼天を渡る冷たい風が帝城を包んでいた。
騎士たちの足音が白い回廊に響き、各国の使者たちが次々と謁見の間へ集う。
ハルトたちもアレウスの案内を受け、荘厳な大扉をくぐった。
黄金の太陽を象った天蓋が、光を淡く反射する。
大理石の床に敷かれた深紅の絨毯の先、帝国皇帝と重臣たちが威厳を湛えて座していた。
その両脇には、各国の代表者たちが整然と並び、皆一様に緊張の面持ちを見せている。
アレウス殿下が一歩進み出て、朗々と声を響かせた。
「諸国の代表たちよ。氷冥王ヴァル=ノクトと、その配下たる黒羽の脅威は、もはや一国で抗しきれるものではない。
我らソルディア帝国は、このたび蒼天の刃と盟を結び、大陸全土を護るための共同戦線を提案する」
低いざわめきが広間を走る。
各国の使者たちが互いに視線を交わし、慎重に頷いた。
ハルトは仲間たちを見渡し、一歩前に進んだ。
「蒼天の刃も、この同盟に力を尽くします。
氷冥王の影が広がる前に、私たちは共に戦うべきです」
その言葉に、北方の代表がゆるやかに頷く。
「勇敢なる旅人たちよ。その決意に異議はない」
リーナが小さく微笑み、弓を胸に抱えた。
「国が違っても、守るものは同じ――私たちがその証になれればいい」
セリスも杖を抱き、静かに続けた。
「女神の導きは、人と人の絆を試しているのかもしれません。
この同盟こそ、その答えになるはずです」
その言葉に、リュシエルが静かに頷き、淡く微笑む。
「国境を越える風があるように、心を繋ぐ道もまた、境界を持たないわ」
皇帝はゆっくりと立ち上がり、力強い声を響かせた。
「諸国の意志はひとつ。ここに、氷冥王討伐の同盟を宣言する。
蒼天の刃――その名に、我ら全ての願いを託そう」
重厚な鐘の音が広間に響き渡り、諸国の代表たちは次々と右手を胸に当てて誓いを示した。
その瞬間、帝国と蒼天の刃を中心とした大陸規模の同盟が、正式に結ばれた。
* * *
会議が終わり、広間を出た一行。
廊下に差し込む朝の光は、戦いの影をほんの一瞬和らげていた。
ガルドがゆっくりと歩きながら、炎翔の柄に手を添える。
「……これで、帝国だけでなく大陸全土が一つになる。
だが、黒羽が黙っているとは思えん」
ハルトは長剣の柄を握り直し、静かに頷いた。
「必ず次の動きを仕掛けてくるだろう。
だが、この同盟がある――もう一人ではない」
リーナが軽く笑みを見せ、セリスの肩に手を置いた。
セリスは小さく息を吸い、星輪の杖を見つめた。
「……ええ。女神の導きがどこへ向かおうとも、私たちは必ずその先へ辿り着く」
リュシエルが窓の外へ視線を投げた。
遠く広がる帝都の街並みは、まだ戦いの傷跡を抱えながらも、新たな息吹を感じさせる。
「風が変わるわ。次に待つのは――秋の国。黒羽は必ず、そこでも動く」
ハルトはその言葉に深く頷いた。
氷冥王との戦いは終わっていない。
同盟の鐘が鳴り響いた今、新たな戦場への扉が、静かに開かれようとしていた。