帝国の盟約とそれぞれの想い
謁見を終え、ハルトたちは帝城の客間へと案内された。
高い天井に描かれた太陽の紋章が、揺らぐ灯火を柔らかく映す。
戦いの余韻がまだ体の奥に残っていたが、誰もが束の間の静けさに息を整えた。
ガルドは椅子に腰を下ろすと、そっと大剣――炎翔を膝に置いた。
鍛冶の儀式を経て紅蓮の輝きを増した刃は、灯火に呼応するように淡く揺らめく。
その熱は不思議と柔らかく、ただの炎ではない確かな力を感じさせた。
「……これが帝国に伝わる宝具の真の輝きか」
ハルトが目を細め、長剣の柄に軽く手を置いた。
「ガルド、その剣があれば黒羽も容易には近づけないだろう」
ガルドは一度刃を見つめ、わずかに息を吐いた。
「武器の力だけじゃない。これは、俺たちがここまで来た証だ。
そして……仲間の支えがあって初めて応える剣だ」
その言葉に、リーナが柔らかく微笑む。
「そうね。ガルドが傷を負っても前に進み続けたから、私たちも戦えた。
その炎は、あなたの決意そのものだわ」
セリスも星輪の杖を胸に抱え、静かに続けた。
「この杖も……女神が導いてくれたもの。
けれどそれを生かせるかどうかは、私一人の力ではない。
みんなと共にあるからこそ、星の導きは形になる」
リュシエルは窓辺に立ち、遠く赤金の塔を見やった。
「帝国と私たち。国を越えて戦うことになるなんて、昔は思いもしなかったわ。
でも、今なら分かる。絆は国の垣根を超えて広がる――それが私たちの強さよ」
ガルドは短く頷き、炎翔を鞘に収めた。
その動きは静かだが、決意を宿している。
* * *
その夜、アレウスが再び客間を訪れた。
鎧を外し、ひとりの王子としての顔を見せると、深い声で言葉を紡ぐ。
「明日、帝国と諸国の代表が集い、黒羽討伐のための同盟を正式に交わす。黒羽はまだ古代の大書を探している。大陸の命運を握るその遺産を、我々は必ず守らねばならない。蒼天の刃にも列席を願いたい。――諸国を繋ぐ力として」
ハルトは一瞬視線を仲間たちに向け、静かに頷いた。
「もちろんです。私たちも氷冥王を討つために、この同盟に力を尽くします」
殿下は微かに微笑み、目を細める。
「心強い。……そしてガルド、あの戦いぶり、騎士団でも語り草になるだろう。
君の剣は帝国の希望だ」
ガルドは少し照れくさそうに、しかし真っ直ぐに答えた。
「帝国を守るために、これからも剣を振るう。
そのために、この仲間たちと共に歩むと決めました」
殿下はその言葉に満足げに頷き、静かに客間を後にした。
* * *
夜更け、窓から見える帝都は戦いの傷を癒すように、あちらこちらに灯火が揺れていた。
その光はまるで、遠く離れた大陸に広がる未来への道を、ひとつひとつ照らすかのようだった。
ハルトは窓辺に立ち、仲間たちを振り返る。
「この戦いは、まだ序章に過ぎない。
けれど――この同盟が、次に迫る闇を越える力になるはずだ」
リーナは弓を抱えながら小さく微笑んだ。
「私たちはその先に進むために、ここまで来たんだもの。
これからも、一緒にね」
セリスも杖を抱きしめ、静かに頷いた。
その瞳には、新たな決意が揺るぎなく宿っていた。