帝都に集う剣
帝都イグナリアの城門前は、黒羽との戦いを終えた余波に満ちていた。
焦げた岩肌と、戦いで崩れた城壁の一部。
市街では人々が互いに手を取り合い、傷ついた家を修繕し、失われたものを確かめるように声を掛け合っている。
ハルトたちは騎士団の先導を受け、帝城の謁見の間へと向かった。
玉座の間は、戦乱の後にもかかわらず静謐な気配に包まれている。
炎の都の象徴たる赤金の柱が、ゆらめく灯火に淡く輝き、凛とした空気を漂わせていた。
玉座の奥で、アレウスがゆっくりと立ち上がった。
黒羽を退けた後も、その若き瞳には決して消えぬ緊張が宿っている。
「――よく戻った、蒼天の刃の皆」
アレウスは一歩、玉座から降り、ハルトたちを迎えた。
「バルドスとの激戦を制した功績は、帝国にとっても大きい。
だが、黒羽の影は未だ大陸に広がり続けている。
氷冥王ヴァル=ノクトを討つためには、これから帝国と諸国が力を合わせねばならない」
ハルトが深く頭を下げ、仲間たちもそれに倣った。
その背に、鍛冶場で得た炎翔の紅蓮の光が確かな余韻を宿している。
殿下は視線をガルドに向け、静かに言葉を添えた。
「ガルド。お前の剣は、もはや皆を守る象徴のひとつだ。
炎翔は帝国の宝。だが、そなたが持つに値する」
ガルドはその言葉に短く息を吐き、ゆっくりと頷いた。
「……この剣は、仲間と共に未来を切り拓くために使います。
仲間を守るため、そして氷冥王を討つために」
その言葉に、騎士団長たちの顔がわずかに緩む。
長く苦渋を共にした旧友たちもまた、かつての戦友の決意を受け止めるように深く頷いた。
リーナが一歩前に出て、軽く微笑む。
「ガルドがこの剣を手にした時、私たちの戦いもまた一段と強くなった気がする。
きっと、この力が次の闇を打ち払うはずよ」
セリスも穏やかな声を添える。
「この炎は、太陽の祝福を宿している。
それはただの武具の力ではなく、私たちの絆をも照らす光――。
ガルド、あなたがその炎を導く限り、闇は決して勝てません」
リュシエルも二人の言葉に続いた。
「帝国と私たち――国を越えた絆が、ようやくひとつになった。
これから訪れる嵐にも、この風と炎で必ず立ち向かえるわ」
アレウスは一同を見渡し、凛とした声で宣言した。
「蒼天の刃――これより帝国は、諸国と共に黒羽討伐のための同盟を結ぶ。
皆の力を、共に未来へと示そう」
その声が玉座の間に響き渡った瞬間、赤金の柱に宿る炎の光がいっそう強く輝いた。
帝都の夜を包む灯火が、まるで太陽の萌芽を思わせるかのように――。
その炎が、これからの戦いと、そして大陸を覆う闇へ立ち向かう希望を確かに示していた。