紅蓮に誓う絆
鍛冶場に残る紅蓮の残光が、ゆらりと壁を染めていた。
炎翔を握るガルドの肩から、熱気がまだ淡く漂っている。
リーナはその光に一歩近づき、弓を胸に抱いたままじっと見つめた。
「……すごい。さっきまでの剣とはまるで別物みたい」
リーナは思わず息を呑む。
「炎の精霊が宿ってるような……いや、それ以上の力を感じるわ」
ガルドはゆっくりと刃を下ろし、穏やかに答えた。
「俺自身が試されたんだろう。剣が、俺を認めてくれた」
その言葉を聞き、リーナの胸にあの時の記憶がよぎる。
春の国で、ガルドが身を挺して自分を救ったあの日。
深い傷を負いながらも、仲間を守る剣を決して手放さなかった姿――。
リーナは小さく微笑み、そして真っ直ぐに言った。
「……あの時も、あなたは迷わず私を守ってくれた。
今日この剣があなたを選んだのは、あの時から決まっていたのかもしれないね」
ガルドはわずかに目を伏せ、照れくさそうに唇をゆがめる。
「お前にそう言われると、胸が熱くなるな。……ありがとう」
その隣で、セリスもまた炎翔を見つめていた。
星輪の杖の先端が微かに鈴音を響かせ、紅蓮の光と呼応するかのように淡く揺れる。
「この剣の炎……氷冥王の放つ凍てつく闇をも、焼き払える気がする」
セリスは静かに言葉を紡いだ。
「私の杖も、星の理を示すために女神から授けられた。
ガルド、あなたの剣と私の杖――どちらも未来を切り開くための力なのだと思う」
ガルドはゆっくりと頷き、その視線をセリスへ向けた。
「……そうだな。どんな闇も、俺たちで切り拓く。
この剣の炎は、きっとそのためにある」
リーナが弓を軽く持ち上げ、明るく言葉を添える。
「私たち全員が揃えば、どんな敵も怖くないよ。
蒼天の刃は、きっと誰も折れさせないから」
ハルトが静かにその言葉を受け、仲間たちを順に見渡した。
「氷冥王も黒羽も、まだ大陸を脅かし続けている。
でも――俺たちなら、必ず道を切り開ける。
この炎翔の光は、その証だ」
鍛冶場の天井に揺れる紅蓮の影が、まるで太陽の揺らめきのように彼らを包む。
リュシエルは柔らかく微笑みながら、風の気配を静かに呼び寄せた。
「……これで帝国も、一時の安らぎを得られるはず。
だけどこの戦いは、これからまだまだ続く。
次に来る嵐に、私たち自身も備えなくては」
ガルドは炎翔を肩に担ぎ直し、深く頷く。
「――ああ。これからも世話になる」
紅蓮の光が、仲間たちの顔を順々に照らす。
その炎はただ熱く輝くだけではなく、共に歩む五人の絆を鮮やかに映し出していた。