紅蓮の誓い
鍛冶場の炉が轟々と唸り、炎翔の刃を包み込む。
紅蓮の光が渦を巻き、ガルドの顔を炙る熱気が押し寄せてきた。
だが、その熱は皮膚を焼くよりも、胸の奥の迷いを浮き彫りにするかのようだった。
――お前に、この剣を握る資格があるのか。
――誇りを守り、仲間を守り、帝国を守る覚悟はあるのか。
耳に届く声はない。だが、炎は確かに問いかけていた。
ガルドは瞼を閉じる。
幼き日に騎士を志した日、仲間と剣を交えた記憶。
そして春の国で、仲間を守るために受けた深い傷。
そのすべてが、紅蓮の中で鮮やかに甦る。
「……俺は、逃げない」
低くつぶやき、目を開いた。
「帝国の騎士として、蒼天の刃の仲間として――仲間を、そしてこの大地を守る。
そのためなら、この炎に身を投げる覚悟はある!」
叫びと同時に、ガルドは炎翔を高く掲げた。
刹那、紅蓮の渦が剣身を包み、鋭い光が鍛冶場全体を満たす。
炉から吹き上がる火柱がひときわ高く舞い、天井の紋章が淡く輝きを放った。
炎はやがて穏やかに収まり、剣から放たれた紅の輝きが空気を震わせる。
炎翔の刃は、これまで以上に深い赤を帯び、まるで太陽の心臓を宿したかのように脈打っていた。
レイナがゆっくりとハンマーを下ろし、満足げに頷く。
「……試練は終わった。炎翔は、お前を認めた」
その声に、鍛冶場を包む緊張が一気にほどける。
リュシエルが歩み寄り、穏やかに言葉をかけた。
「やっぱり、あなたは選ばれるべき人だったのね。
その炎――帝国だけじゃなく、この世界を照らす力になる」
ガルドは短く息を吐き、炎翔をそっと下ろした。
剣身から漂う紅蓮の気配は、ただ熱いだけではない。
仲間を守り抜くという、確かな誓いを宿していた。
ハルトが一歩近づき、静かに微笑む。
「これで、黒羽にも……いや、氷冥王にも引けを取らないな」
レイナは紅蓮の光を見つめながら、低く告げた。
「この剣は持ち主の闘志と共鳴する。
迷いを抱けば炎は鈍り、決意を抱けば太陽のごとく輝く。
その心を、決して曇らせるな」
ガルドは炎翔を肩に担ぎ、深く頷いた。
「――この剣と共に、必ず仲間を守り抜く」
その瞳に、迷いはなかった。
紅蓮の炎は鍛冶場を淡く照らし、これからの戦いの道を――
仲間と共に進むべき未来を、鮮やかに示していた。