表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/127

紅蓮の灯

 崩れかけた峡谷から抜け出した一行は、ようやく平地へと辿り着いた。

 背後では、なおも小規模な落石が断続的に響き、白い粉塵が夜風に流れていく。

 戦いの熱気も冷え、空気は凛と張りつめていた。


 ハルトは深く息を吐き、長剣を鞘に収める。

「……何とか抜け出せたな」


 リーナが肩の弓を下ろし、胸に手を当てる。

「ガルド……大丈夫? さっきの戦いで……」


 ガルドは短く息を吐き、炎翔を軽く地面に突き立てた。

「傷は浅い。リーナ、お前が無事でよかった」

 その声は穏やかで、戦いの最中に見せた鋭さはもうない。


 リュシエルが風を纏わせた手で粉塵を払いながら、険しい表情を崩さずに言う。

「バルドス……あれだけの傷を負って生き延びるとは考えにくい。けれど……姿が消えた以上、断言はできないわね」


 セリスが星輪の杖を胸に抱き、うつむいた。

「黒羽の幹部を退けても、氷冥王の計画は止まらないはず。これからどう動くべきか……」


 その時、遠くで馬蹄の音が響いた。

 振り向くと、数騎の兵とともにソルディア帝国の王子――剣聖アレウスが馬を降りて近づいてきた。

 紅い外套を翻しながら、殿下は静かにガルドへ歩み寄る。


「ガルド。……見事な戦いだった」

 その眼差しには、仲間に対する揺るぎない信頼が宿っていた。


 ガルドは炎翔を見下ろし、淡く燃える刀身に視線を落とした。

「殿下、この剣――炎翔。帝国が長く秘匿してきた理由が分かった気がします。

 俺が持つべき時が来た……殿下も、そうお考えだったのですね」


 アレウスは微笑を浮かべ、ゆっくりと頷いた。

「その通りだ。お前だからこそ、この剣を託す価値がある。

 炎翔の力は、真に信念を持つ者の手でこそ輝く」


 リーナは安堵の笑みを浮かべ、ガルドの横顔を見上げた。

「あなたが持つからこそ、この剣は本当に力を発揮するんだと思う」


 ガルドはわずかに微笑み、炎翔を背に負う。

「……ならば、この力で黒羽を止める」


 その言葉に、誰もが自然と頷いた。

 峡谷を抜ける風は冷たくも澄み、これから訪れる帝都への道を告げるかのように吹き抜けていく。


 氷冥王ヴァル=ノクトの影は、なお大陸全土を覆っている。

 だが、炎翔の紅蓮が灯した一筋の光が、仲間たちの胸に確かな決意を刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ