帝都イグナリア・謁見の間
燃える溶岩の赤光が、厚い柱の影をゆらめかせていた。
ハルトたちは、ガルドの案内で帝都の奥へと進み、ついに中央城の謁見の間へと足を踏み入れる。
広間の奥、高座に座すのは若き帝国の王子――ソルディア帝国を束ねる第二皇子、そして剣聖と呼ばれる男だった。
銀の鎧に包まれた姿は、炎のように鋭く、同時に雪のような静謐を湛えている。
「久しいな、ガルド」
澄んだ声が響き、王子がわずかに微笑んだ。
「――いや、今は旅の剣士と呼ぶべきか」
ガルドは胸に拳を当て、深く頭を下げる。
「皇子殿下。帝国を離れて以来、長き年月が経ちました。
ですが今、黒羽の影がこの地に迫っています」
王子は頷き、視線をハルトたちへ向けた。
「氷冥王の直轄組織――黒羽。各地で封印を狙うその動きは、私のもとにも報が届いている。
だが、真にその脅威を知る者はまだ少ない。詳細を聞かせてほしい」
ハルトは一歩進み出て、これまでの戦いを簡潔に語った。
リュナとの死闘、氷冥王の出現、そして黒羽が各地で精霊の加護を断ち切ろうとしていること――。
皇子は深く眉を寄せ、静かに息を吐いた。
「やはり、黒羽が大陸全土を脅かしているか」
⸻
騎士団の再会
謁見が終わると、広間の外で一人の騎士が待っていた。
漆黒の鎧を纏った青年――かつてガルドと剣を交わし合った戦友、ルークだった。
「……本当に戻ってきたんだな、ガルド」
ルークは目を細め、わずかに笑った。
「帝国を去った日、お前は“己の剣を試す”と言っていたな。
あの日からお前の行く末を、ずっと気にしていた」
ガルドは腕を組み、わずかに口元を緩める。
「旅は俺を変えた。
だが、守るべきものの重さは何も変わっていない」
ルークは真剣な面持ちで頷いた。
「黒羽の動きは、俺たち騎士団も警戒している。
皇子殿下の命で、近く精鋭部隊を編成する予定だ。
――お前の力が必要だ、ガルド」
その言葉に、ガルドは一瞬黙し、ゆっくりと仲間たちを振り返った。
ハルト、リュシエル、セリス、リーナ――旅で得た新たな仲間たち。
「……俺だけの戦いじゃない」
ガルドは静かに答えた。
「共に戦ってくれる仲間がいる。
それでも――故郷を守る剣を振るうことに、ためらいはない」
ルークは満足げに笑い、そっと肩を叩いた。
「その言葉を聞けただけで十分だ」
⸻
炎の都の夜
その夜、イグナリアの街に赤い灯火が連なった。
溶岩の川を渡る橋に炎の光が反射し、街全体が巨大な灯籠のように揺らめく。
宿の屋上に立ち、ハルトは長剣を握りしめる。
黒羽――氷冥王ヴァル=ノクトの直轄組織。
その影が、再び彼らの前に現れる日は遠くない。
背後から、セリスが静かに近づいた。
「……ここからが本当の戦い。
星輪の杖が示す道も、まだその全ては見えない。
けれど、仲間となら必ず越えられる――そう思える」
ハルトは頷き、夜空を見上げた。
冬の星々が、炎の都の空に淡く瞬く。
彼らの旅は、ここソルディア帝国で新たな局面を迎えようとしていた。