ソルディアへの旅立ち
鍛冶場の奥、ハルトは研ぎ澄まされた長剣を手に取った。
鍛冶師が腕を組み、真剣なまなざしで刃を見つめる。
「最近、この辺りでも妙な噂が立ってる。黒い羽根を残して消える賊がいるとか……。
真偽はわからんが、物騒なのは確かだ。――気をつけなよ」
ハルトは剣を光にかざし、静かに頷く。
「……ありがとう。心しておくよ」
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一方、風の練技場。
リュシエルは両腕を広げ、蒼い風を纏わせるように駆け抜けていた。
風の流れが旋回し、軽やかな足取りが空気を切り裂く。
その姿を見守るセリスが、小さく息を吐く。
「……リュシエル、私も一緒に修練していい?」
声にほんのわずかなためらいが混じっていた。
リュシエルは軽く頷き、柔らかな笑みを浮かべる。
「もちろん。蒼天の刃の一員として――あなたの力は、これからもっと必要になるわ」
セリスの手に星輪の杖が淡く光を宿す。
リュシエルはその光を見つめながら、穏やかな声で続けた。
「どんな困難があっても、私たちは一緒に超えていく。
あなたも、その仲間として――もう一人じゃない」
セリスは微かに震える唇をかみしめ、やがて小さく頷いた。
「ありがとう、リュシエル。私……みんなとなら進める」
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旅立ちの時。
街の門に集った仲間たちは、それぞれの支度を終えていた。
ガルドは大剣を背負い、軽く肩を回す。
「南へ向かう道は長い。ソルディアに着く前にいくつかの村を経由することになる。
その間に、黒羽の痕跡も探っていこう」
リーナが弓を背にかけ、明るく笑う。
ハルトは皆を見渡し、ゆっくり頷いた。
「これから先、氷冥王も黒羽も――そして俺自身の謎も待っている。
けれど必ず、ソルディアで手がかりを掴もう」
リュシエルが風をまといながら、澄んだ蒼い瞳を細める。
「南の帝国――紅蓮の溶岩に囲まれた炎の都、イグナリア。
太陽の精霊を祀るその地で、きっと新たな試練が私たちを待っているわ」
セリスが星輪の杖を握り、静かに微笑んだ。
「その試練を、みんなと一緒に越えていく。……それが今の私の道だから」
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街道の彼方、遠く霞む地平は淡い群青に沈み、旅立つ者たちを静かに包み込んでいた。
蒼天の刃――五人はその道を見据え、揺るぎない足取りで歩みを始めた。
氷冥王ヴァル=ノクトとの因縁を胸に、
そしてソルディア帝国に潜む黒羽の新たな影を追って――
彼らの新たな旅路が、いま静かに幕を開ける。