蒼天の刃
聖王からの謁見を終え、ハルトたちは大聖堂を後にした。
夜の気配が薄れはじめた白亜の街に、朝を告げる鐘が小さく響く。
戦いと別れを経た空気は、どこかしっとりと静まり返っていた。
街外れの小高い丘に出ると、東の空がゆるやかに明るみ始めていた。
丘の頂きからは、ルクシードの尖塔と朝靄に包まれた家々が見渡せる。
仲間たちはしばらく言葉もなく、その景色を見下ろしていた。
「……長い夜だったな」
ガルドが穏やかに呟き、肩に担いだ大剣を軽く叩いた。
「これからは、黒羽だけじゃなく氷冥王やその幹部とも向き合わないといけない」
リーナが弓を抱えたまま、淡く微笑む。
「私たち、もうただの旅の仲間ってわけじゃないよね。
ここから先は、同じ覚悟で動かないと」
セリスは星輪の杖を抱きしめたまま、朝空を見つめていた。
瞳の奥には、リュナを失った痛みがまだ薄く残っている。
リュシエルはその横顔を見て、そっと一歩近づいた。
「……セリス」
柔らかな声に、セリスがわずかに肩を震わせて振り返る。
リュシエルは穏やかな笑みを浮かべ、蒼い瞳を細めた。
「あなたはリュナを救おうとして、最後まで諦めなかった。
それだけで、あの人の心は闇から解き放たれたはず。
私たちは、その想いをこれからも背負っていく。
だから――あなた一人がその痛みを抱え込む必要はないわ」
セリスの瞳が揺れ、唇がわずかに震えた。
「……ありがとう、リュシエル。
リュナが取り戻した光を、私も……みんなと一緒に守っていく」
リュシエルは小さく頷き、セリスの肩にそっと手を置いた。
「そのために私たちは一緒にいる。
そして、これからも――」
風が丘を渡り、淡い朝の光が彼女たちを包んだ。
リュシエルがゆっくりと口を開く。
「――“蒼天の刃”。
夜を越え、新たな光へ飛び立つ翼のように。
青く澄んだ天を目指して、闇を断ち切る刃。
その名を、私たちの誓いにしたい」
その響きに、仲間たちは自然と息をのんだ。
ガルドが大剣を支えながら静かに微笑む。
「いい名だ。空を貫く刃――俺たちに相応しいと思う」
リーナが頬を染め、弓を握り直す。
「蒼天の刃……うん。私たちにぴったりだと思う」
ハルトは一度深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。
「これから先、どんな闇が待っていようとも――俺たちは蒼天を目指して刃を振るう。
“蒼天の刃”、それが俺たちの名だ」
風が吹き抜け、東の空に薄い雲が流れていく。
初めて昇る朝日が、その名を祝福するかのように丘を黄金に染めた。
こうして――
ハルト、ガルド、リュシエル、リーナ、そしてセリス。
五人の新たな旅が、「蒼天の刃」という名の下で始まった。
その誓いは、これから彼らが向かうソルディア帝国、そして氷冥王ヴァル=ノクトとの戦いへの、揺るぎない第一歩となったのである。