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霊装庫と大陸の国々

ご覧いただきありがとうございます。


フロリエールの蒼風ギルドに初めて足を踏み入れたハルト。

見知らぬ大地で記憶を失いながらも、彼は新たな一歩を踏み出すため、霊装庫で長剣を手にする。

リュシエルから語られるこの大陸と五つの国の存在――そして正式な冒険者として歩み始める決意。

不安を抱えつつも、胸の奥に芽生えた期待が、彼を次の物語へと導いていく。


第5話お楽しみください。

 蒼風ギルドの奥深く。

 厚い石壁に囲まれた通路を抜けると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。

 そこは――〈霊装庫〉と呼ばれる場所。

 無数の武具が静かに並び、漂う魔力の気配が、空気そのものを微かに震わせている。


 鉄扉を押し開けた瞬間、ハルトは思わず息をのんだ。

 整然と吊るされた剣や鎧、盾の数々が、淡い光を帯びて規則正しく並んでいる。

 それぞれの刃に刻まれた古い紋様が、かすかに呼吸をしているように見えた。


 案内役のセシルが、ゆるやかな声で言う。

 「ここが霊装庫。ギルドの武具を管理している場所よ。

 見習いが初めて依頼に出るときは、ここから装備を貸し出すの。」


 「……すごいな。」

 ハルトは目を見張った。

 剣、槍、弓、斧、杖――種類も形も多様だが、どれも一線を越えた者たちの気配を纏っている。


 「ええ、全部ギルドの備え。

 ここで装備を整えることが、冒険者としての第一歩なの。」

 セシルの声音には誇りが滲んでいた。


 ハルトはゆっくりと歩を進め、壁に並ぶ武器たちを一つずつ見ていった。

 そして――ある一本の長剣の前で足が止まった。


 淡い銀光を放つ刃。

 余計な装飾のない造りが、むしろ美しかった。

 黒革の柄は手のひらにぴたりと吸い付き、まるでずっと前から自分の手に馴染んでいたかのようだ。


 胸の奥が、わずかに震えた。

 初めて見る剣のはずなのに、どこか懐かしい。

 ――まるで、過去の自分がこの刃を知っているかのように。


 セシルがその視線を見て微笑む。

 「いい選択ね。扱いやすく、長く使えるわ。

 ……その剣、以前も不思議と“選ばれる”ことが多かったの。」


 「選ばれる?」

 「ええ。触れた者の中で、ほんの一握りだけがその光を見えるのよ。」


 ハルトは小さく息を呑んだ。

 手の中で、刃がかすかに脈打つような感触があった。


 ――これが、俺の剣。


 そう確信した瞬間、胸の奥に火が灯った。


 セシルは帳簿に記録をつけながら言う。

 「この剣を貸与品として登録しておくわ。

 初級防具も一式貸し出しておくから、自分の装備が整ったら返却してね。」


 「ありがとう、セシル。」

 ハルトは深く頭を下げた。

 礼の言葉の裏に、胸の奥の熱を押さえきれなかった。


 リュシエルがそっと隣に寄り、柔らかく微笑む。

 「長剣、よく似合ってるわ。」


 「そう見えるかな。……不思議だけど、手にした瞬間に“わかる”気がしたんだ。」

 「きっと、それが“運命の武具”ってことね。」


 その言葉に、ハルトの胸が静かに高鳴った。

 剣の重みが、これから始まる旅の現実を確かに刻み込む。


 霊装庫を出ると、リュシエルがギルドの地図を広げる。

 「次は依頼の前に、この大陸のことを知っておきましょう。」


 地図の上で、五つの色が花弁のように広がっていた。


 「この大陸には五つの国があるの。

 中央――春を司る〈ルミナリア王国〉。

 西の〈フェリオーネ公国〉は秋を司り、

 東の〈ルクシード聖国〉は光を、

 南の〈ソルディア帝国〉は夏を。

 そして北――氷冥王ヴァル=ノクトが支配する〈ノクトヘイム〉。冬の国よ。」


 ハルトは静かに地図を見つめ、目を細める。

 「五つの季節が一つの大陸に……女神が創った世界、って感じがするな。」


 リュシエルはその言葉に微笑む。

 「そうね。けれど今は、春の国ルミナリアさえも外敵の影に怯えている。

 ――だからこそ、冒険者の存在が必要なの。」


 ハルトは長剣の柄を握りしめた。

 「……まずは依頼をこなして、正式に冒険者にならないとな。」


 「ええ。きっとあなたならできるわ。」


 その声に背を押され、ハルトは前を見据えた。

 恐れと期待が入り混じる胸の奥で、確かな鼓動が鳴る。


 ――ここから、俺の最初の冒険が始まる。


 淡い光に照らされた剣の刃が、静かに彼の決意を映していた。

ご覧いただきありがとうございました。


この章では、ハルトが「冒険者」としての第一歩を踏み出す姿を描きました。

長剣を手にした瞬間の高鳴り、そしてリュシエルから語られる大陸の全貌が、これからの壮大な物語を暗示しています。

次回からはいよいよ初めての依頼へ。

彼がどのようにこの世界で成長していくのか、ぜひ見守ってください。

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