星輪の杖
大聖堂の鐘が夕暮れの街に静かに響いていた。
ハルトたちは聖王の謁見の間へ再び呼び出されていた。
白亜の壁に差し込む淡い光が、荘厳な空気を一層際立たせている。
聖王は玉座から立ち上がり、深い眼差しをセリスへと注いだ。
「セリス――リュナの最期を見届け、氷冥王に挑むと決めたおまえの覚悟は、女神にまで届いた。
その証として、これを授けよう」
側近の神官が恭しく運んできたのは、黒檀色の箱。
蓋が静かに開かれた瞬間、箱の奥から淡く青白い光が広がった。
そこに収められていたのは、銀白に輝く杖。
軸に刻まれた古代の紋章が淡く光り、先端には結晶の輪が浮かび漂っている。
その輪は風と星屑を宿したかのように、静かに回転していた。
「――《星輪の杖》」
聖王は低く名を告げた。
「女神が時を紡ぐために残した宝具。
この杖は“時の揺らぎ”に触れることができる。
過去の一瞬を映し出し、未来を示唆する断片を見せる――
闇の理を見抜き、道を選ぶための“星の羅針”だ」
「時は決して形を見えぬ。だが、この杖は真実へ導く鈴の音を響かせるだろう」
セリスは驚きに息を呑み、ゆっくりと膝をついてその杖を両手で受け取った。
掌に触れた瞬間、微かな振動とともに、澄んだ鈴音のような響きが胸の奥に届く。
「……これが、女神の導き……」
セリスはそっと目を閉じ、静かに杖を抱いた。
聖王は頷き、言葉を重ねる。
「その杖は敵の魔の本質を映し出し、時の狭間に潜む因果の糸をも示す。
おまえが進むべき道を惑わせるものを、決して許さぬだろう」
ハルトたちが息を呑み、互いに視線を交わした。
ガルドは低く唸り、リュシエルは蒼い瞳を細める。
リーナは弓を胸に抱え、静かに笑みを浮かべた。
セリスはゆっくりと立ち上がり、仲間に向かって小さく頷く。
広間に澄んだ余韻を残し、蒼白に揺れる星輪の光が、彼らの次なる旅路を淡く照らした