表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/127

天啓の庭

ルクシード大聖堂に到着したハルトたちは、聖王の勧めで厳しい修練に挑みます。

セリスは同行してはいるものの、その胸には、誰にも明かせぬ決意と秘められた力がありました。

 ――ルクシードの朝は、鐘の音から始まる。


 夜の冷気を押し流すように金色の光が白亜の回廊を満たし、

 床に刻まれた神々の紋章が淡く輝きを返す。

 その光景は、まるで天が人々に祝福を与えるかのようだった。


 ハルトたちはセリスの案内で、聖王が特別に許可した修練の地――天啓の庭へと向かった。

 透明な結界に包まれたその場所は外界よりも空気が澄み、天から降り注ぐ光がゆるやかに揺らめく。

 足元の白い大理石はひんやりと冷たく、肌を刺すような緊張を漂わせていた。


「ここで……それぞれの力を、さらに高めてください」

 セリスの声は柔らかく、それでいて強い。

「月影リュナを止めるには、今のままでは届かない。聖王陛下も、力を蓄えよと仰せです」


 ハルトは頷き、長剣を握りしめる。

 胸の奥には、あの廃塔で見た“月影”の漆黒の瞳が今も残っていた。

 あの冷たい闇に抗うには、己を越える力が必要だ――それを痛感していた。



■ガルド ― 剣の理を掴む者


 訓練場の一角。

 ガルドは大剣を構え、複数の聖堂騎士たちの木剣を受け止めていた。

 打ち合う度に雷鳴のような音が響き、結界が震える。


「剛力だけでは、この守りは崩せん……!」

 汗を飛ばしながらも、彼の視線は鋭く相手の動きを追う。

 一歩退き、次の瞬間には体を捻って反撃――木剣を弾き飛ばした。


 聖堂騎士が驚きに息を呑む。

 ガルドは大剣を肩に担ぎ、低く呟いた。

「力は、鋭さと理で初めて剣となる……肝に銘じておけ」



■リーナ ― 風と共にある弓手


 リーナは風の流れを読む訓練場に立ち、宙を漂う無数の光球を的に射っていた。

 光球は風に乗り、常に軌道を変える。

 それを読んで狙いを定めるには、風そのものと心を重ねるしかない。


「……よし」

 息を整え、一射。矢が光を貫く。

 さらに球が倍に増えても、リーナの手は迷いなく動いた。

 連続する矢の音が風を裂き、最後の光球を射抜くと同時に、淡い光の雨が降り注ぐ。


 訓練場に静かな歓声が広がり、リーナは小さく息を吐いた。

「まだいける……私は、もっと強くなれる」



■リュシエル ― 風を紡ぐ詠唱


 聖堂の奥、円環状の魔法陣の中心に立ち、リュシエルは風を操っていた。

 詠唱に合わせ、蒼光の糸が空気中に走り、細く複雑に絡み合って結界の模様をなぞる。


「力を削ぎ、必要なものだけを残す……」

 彼女の声は震えていながらも、美しい。

 魔法陣が完成した瞬間、やさしい風が頬を撫で、結界の光が静かに明滅した。


 見守っていた老魔導師が、目を細めて言った。

「無駄を削るとは、己を見つめることだ。お前はそれを掴みかけている」


 リュシエルは微笑み、静かに頭を下げた。



■ハルト ― 剣と己を一にする者


 ハルトは騎士長の指導を受け、新たな技――連撃と防御を同時に繰り出す「双牙」を磨いていた。

 斬撃と盾代わりの刃を一体化させるその技は、攻めながら守る極め技。


 何度も失敗し、腕が痺れても、彼は動きを止めなかった。

 やがて剣筋が光と共鳴し、二連の軌跡が一瞬にして走る。

 鋭い閃光が走り、師の木剣を弾き飛ばした。


 騎士長は頷き、笑みを浮かべた。

「……見事だ。あと一歩で真の剣となる」



■セリス ― 月光の下の祈り


 そのすべてを見届けたあと、セリスは一人、大聖堂の奥へと向かった。

 封印の聖室――外界の音が届かぬ静寂の空間。

 誰にも知られぬまま、彼女は夜ごとここに籠もり、治癒と再生の術を磨いていた。


 それは“光の祝福”とも“闇の残響”とも呼ばれる古の奇跡。

 リュナとの決戦に備え、彼女が唯一無二の術として選んだ力だった。


 月光が差し込む。

 掌から淡い光がこぼれ、枯れた花弁がゆっくりと蘇る。

 その光景を見つめながら、セリスは静かに呟いた。


「……リュナ。

 あなたが失った光を、私はもう一度取り戻す。

 たとえ、それが私の身を焼くことになっても――」


 鐘の音が夜空を震わせ、白亜の尖塔を包み込む。

 その音はまるで、近づく運命の鼓動のように――

 やがて訪れる決戦の始まりを、静かに告げていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は大聖堂での濃密な修練を描きました。

闇へ堕ちたリュナとの決戦を見据え、ひそかに治癒魔法を磨いています。

次回は黒羽が聖都を脅かし、闇がさらに近づく様子をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ