光の国への道
古代遺跡で“月影”リュナと邂逅した一行。
セリスは故郷ルクシードへ向かい、自らの過去と黒羽の闇に決着をつける決意を固める。
廃墟を後にした一行は、夜風に揺れる草原を黙々と歩いていた。
霧が晴れた今もなお、あの漆黒の瞳と氷のような囁きが、誰の胸にも冷たく残っている。
やがて、ガルドが立ち止まり、沈んだ声で言った。
「……“月影”リュナ。黒羽の幹部の中でも、その名だけは聞いたことがある。
だが、実際に姿を見る日が来るとはな」
リュシエルが青い瞳を細める。
「黒羽の眷属とは違う……あれはもっと深い。まるで“闇”そのものが形を取ったみたいだった」
セリスは俯き、静かに息を吸い込む。
「――リュナは、かつて私が最も信じ、共に修練した神官。
けれど……彼女は神々の光に疑問を抱き、禁忌の闇へと身を委ねてしまった。
その時、止められなかったのは私の罪……ずっと、胸の奥に刺さったままなのです」
その声は微かに震え、夜の風に溶けて消えた。
ハルトは長剣の柄に手を添え、まっすぐセリスを見つめる。
「だからこそ、今度は止めよう。
お前ひとりの戦いじゃない。俺たちが一緒に立つ」
セリスは顔を上げ、月光を宿した瞳で静かに頷いた。
「……ありがとう。
ルクシード――光の国。
彼女が闇に堕ちた理由を確かめるには、そこへ行かねばなりません」
ガルドが腕を組み、低く唸る。
「決まりだな。黒羽の幹部を討つには、その真意を知る必要がある」
リーナが弓を握りしめ、前を見据える。
「神々の都、光の国……。その大聖堂で、何かが待っている気がする」
リュシエルはセリスの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫。あなただけに背負わせたりしないわ。私たちが一緒に行く」
セリスは小さく微笑み、囁くように答えた。
「……みんな、本当にありがとう」
東の空に、夜明け前の淡い星が瞬き始めた。
風に揺れる草原の彼方、白く霞む塔の影――それがルクシード。
黒羽の“月影”リュナを巡る、新たな試練の地である。
* * *
翌朝。
薄明の光を浴びながら、一行はルクシードへと続く街道を歩み始めた。
森を抜ける冷たい風が、旅衣の裾を揺らす。
「黒羽が光の国にまで手を伸ばすなんて……」
リーナが小声で呟く。
ガルドが前を歩きながら、険しい表情で答えた。
「奴らは恐怖を撒き、秩序を壊すことで支配を広げる。
“月影”が動くなら、狙いは聖都そのものだ」
リュシエルは空を仰ぎ、朝の光を見つめる。
「光の国なら、黒羽と渡り合えるだけの力があるはず……けれど、その“光”が本当に清らかかどうかは分からない」
セリスは拳を握りしめ、真っ直ぐに前を見据えた。
「――それでも行きます。
大聖堂で、私は自分の過去と向き合う。
そして……リュナに、今度こそ“答え”を返す」
その言葉に、ハルトが力強く頷いた。
「俺たちも行く。
闇がどれほど深くても、光を奪わせはしない」
朝日が地平を染め、雲の隙間から白い光が差し込む。
遠く霞む塔の影が、次なる戦いの幕開けを告げていた。
ルクシード大聖堂――
光と闇が交わる場所に、彼らの運命が静かに導かれていく。
月影リュナの存在がついに明かされていく。
次回、白き大聖堂を目指す旅路で、ハルトたちはさらなる試練と出会いを迎えます。