蒼風ギルドと冒険者への第一歩
いつもお読みいただきありがとうございます。
ハルトとリュシエルがたどり着いた街で、
初めてギルドの空気に触れます。
活気ある冒険者たち、掲示板に並ぶ依頼。
ハルトにこの世界の広さを実感させていく――。
ハルトのギルドでの第一歩、どうぞお楽しみください。
昼下がりの陽光が街を包み、穏やかなざわめきが石畳の上を流れていた。
露店から漂う焼き菓子の香りと、遠くの鐘の音。
そんな中、ハルトとリュシエルは街の中央へと向かって歩いていた。
「外と違って、どうして街はこんなに明るいんだ?」
ハルトの素朴な疑問に、リュシエルが足を止め、中央広場を指さす。
「――あれが“大霊灯”。
女神ルミナの力を宿した灯火で、昼は太陽、夜は月の代わりにこの街を照らすの。
でも光が届くのは都市の周囲だけ。外は今も、灰色の薄明に沈んだままよ。」
「なるほど……村があんなに暗かったのも、そういうわけか。」
リュシエルは静かに頷く。
「そう。村には大霊灯なんてない。人々は小さな霊灯や家の灯火に頼るしかないの。
――だからこそ、この光に慣れすぎると、外の闇を忘れてしまうわ。」
ハルトは大霊灯の蒼白い輝きを見上げた。
その光は、どこか彼女の髪の銀紫に似ていて、言葉にならない温かさを感じた。
やがて二人は、街の中心にそびえる大きな建物の前に立った。
青い旗が風にはためき、女神の紋章が陽光を反射してきらめく。
――〈蒼風ギルド〉。
この街で最も歴史ある冒険者組織だ。
木製の大扉を押し開けると、焚き火のような温もりと活気ある声が広がった。
掲示板にはびっしりと依頼書が貼られ、剣士や魔術師たちが真剣な眼差しで任務を吟味している。
そのとき、奥のカウンターから黒髪の若い女性がこちらに気づき、明るく声を上げた。
「リュシエル、いらっしゃい!」
ハルトが振り向くと、彼女は軽やかに駆け寄ってくる。
受付嬢セシル。柔らかな笑顔の奥に、確かな信頼と温かさがあった。
「ただいま、セシル。」
リュシエルが微笑むと、セシルも嬉しそうに頷く。
「あなたの活躍、皆が話してるわ。若手で最前線に立てる子なんて、そういないのよ。」
その言葉に、ハルトは思わず背筋を伸ばしていた。
――自分も、いつかこんなふうに名を呼ばれる日が来るのだろうか。
リュシエルがハルトの背に手を添え、セシルに言う。
「今日は彼を登録したいの。見習いからのスタートよ。」
「了解。まずはステータス測定からね。」
セシルが水晶を取り出し、カウンターに置く。
ハルトが手を触れると、水晶が淡く光を帯び、空中に文字が浮かび上がった。
セシルはそれを見て、微笑む。
「悪くないわね。素質としては十分。」
リュシエルが小さく頷く。
「でしょう? きっとすぐ慣れるわ。」
セシルは次に掲示板を示しながら説明を続けた。
「冒険者はまず〈見習い・Fランク〉から始まるわ。
依頼をこなして実績を積めば、〈Eランク〉、〈Dランク〉と昇格していくの。
ランクは次の八段階――」
彼女は指を折りながら読み上げた。
「F:銅〈カッパー〉
E:鉄〈アイアン〉
D:銀〈シルバー〉
C:金〈ゴールド〉
B:白金〈プラチナ〉
A:ミスリル
S:オリハルコン
SS:アダマンタイト――最高位よ。」
「アダマンタイト……」
ハルトはその名を反芻した。言葉だけで、胸の奥が熱くなる。
「高ランクの冒険者は、国の遺跡や禁書庫にも立ち入れる。
つまり“真実”に最も近づける存在でもあるの。」
リュシエルの言葉が静かに響く。
ハルトは思わず拳を握り、深く息を吸い込んだ。
セシルが銅色の仮証を差し出す。
「これがあなたの見習い証よ。」
ひんやりとした金属が掌に沈む。
その重みが、“ここから始まる”という実感を与えてくれた。
続いてリュシエルが水晶に手をかざす。
瞬間、まばゆい光が弾け、周囲がざわめいた。
「リュシエル、Cランク昇格おめでとう!」
セシルが嬉しそうに声を上げると、他の冒険者たちもどよめいた。
「あの年でCランク……!」
「蒼風の中でも数えるほどしかいないぞ。」
リュシエルはわずかに微笑み、落ち着いた声で答える。
「ありがとう、セシル。……これで、また一歩進める。」
その姿を見つめながら、ハルトは心の中で強く誓った。
――いつか、あの背中に並び立てる冒険者になろう。
ギルドの喧騒の中で、ひとりの新人の旅が静かに始まった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ギルドにて見習いとして登録を果たしたハルト。
初めて目にする冒険者たちの世界に、胸の奥で小さな熱が灯りました。
次回はいよいよギルドの奥にある 霊装庫 へ。
初めて自分の手で武具を選び、
そしてこの大陸の広がる世界を少しずつ知っていくことになります。
ハルトが剣を握りしめ、未知への一歩を踏み出す瞬間を、
ぜひ次話でお楽しみください
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