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桃色と紫水晶

カルネ村での黒羽襲撃を目にしたハルトたちは、緊張を胸にエルナへと到着します。

そこで出会ったのは、桃色の髪と紫水晶の瞳を持つ魔術師セリス。

黒羽の噂と魔力の異変を追う彼女との邂逅が、新たな物語の扉を開きます。


 カルネ村で黒羽の襲撃を確認したハルトたちは、村人の無事を確かめ、壊れた家屋や柵の修繕を手伝った。

 小さな感謝の声に背を押されながらも、胸の奥には重たい影が残る。

 ――黒羽。再び現れたその名は、確かな脅威として刻まれていた。


 休息を終えると、一行は再び東へ進むことを決めた。

 朝靄の街道を抜け、まだ見ぬ地――エルナの街を目指す。


 ――


 数日後。

 丘を越えた先に、青灰色の石壁が現れた。

 陽光を反射するその城壁の下では、荷車と旅人が行き交い、商人の声が絶え間なく響いている。

 交易都市エルナ――東方の玄関口と呼ばれる賑わいの街だ。


 ハルトたちは門番に通行手続きを済ませ、真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。

 石畳のロビーには多くの冒険者が集まり、依頼掲示板の前では賑やかな声が飛び交っている。

 金属のきしむ音、紙をめくる音、緊張と日常が混ざり合う独特の空気。


 ――その中で、ふと目を引く少女がいた。


 淡い桃色の髪が肩で揺れ、薄暗い室内でもやわらかく光を帯びている。

 春の花弁のようなその色合いに、紫水晶のような瞳が映えていた。

 ただそこに立つだけで、場の空気が静まり返るような存在感。

 それが、彼女――セリスとの出会いだった。


 カウンターで受付と話していたセリスは、こちらに気づくと小さく会釈をした。

 無駄のない所作には、華やかさよりも研ぎ澄まされた気品がある。


「旅の方々ですか?」

 少女は穏やかに微笑んだ。

「私はセリス。魔術師をしています」


 その声は鈴のように澄み、同時に芯のある落ち着きを帯びていた。

 見た目の柔らかさに反して、瞳の奥には静かな意志の光が宿っている。


 ハルトが名を名乗り、仲間たちも順に挨拶を交わす。

 セリスは一人ひとりの顔を確かめるように目を合わせ、わずかに頷いた。


「カルネ村から来られたのですね? ……黒羽を見た、という噂を聞きました」

 その言葉に、ハルトたちは一瞬だけ視線を交わした。

 セリスは続ける。

「実は、私もその件を調べにここへ来たんです。東の森の奥に、魔力の“歪み”を感じます。――普通ではないものが、うごめいている」


 ガルドが腕を組み、低く唸る。

「やはりか。黒羽の動きは、もう偶然じゃない」


 リーナが眉を寄せ、問いかけた。

「セリスさん、一人で調べに行くつもりなの?」


「そのつもりでした。でも……あなた方も同じ目的なら、協力したほうがいいでしょうね」

 セリスは小さく笑い、紫の瞳が柔らかく光を宿す。

 その眼差しは不思議と温かく、同時にどこか切なげでもあった。


 ――


 ギルドの奥、地図室。

 東の山脈と森を描いた詳細な地図の上に、セリスが細い指先で一点を指し示した。


「ここです。黒羽が目撃された場所。そして、数日前からこの周辺で魔力の濃度が急激に変化しています」


 ハルトはその印を見つめたまま、無意識に拳を握りしめる。

 カルネ村で感じた焦げた匂い、夜風に舞った黒い羽根。

 あの記憶が、鮮明に蘇っていた。


「行ってみる価値はあるな」

 ガルドが短く言い、リュシエルも静かに頷いた。


 セリスは一瞬だけ迷うように視線を落としたが、やがて顔を上げた。

 その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。


「もしよければ、私も同行させてください。魔力の流れを読むことができるのは……おそらく私だけです」


 紫水晶の瞳が、真っすぐハルトを見据える。

 その強い光に、ハルトは小さくうなずいた。


「――わかった。一緒に行こう」


 短く交わされたその言葉が、不思議な確信を伴って響く。

 偶然の出会いは、やがて運命の絆へと変わる。

 黒羽の気配が漂う森の奥へ――

 ハルトたちの、新たな戦いが静かに幕を開けようとしていた。

セリスの登場で、黒羽を巡る旅は一層複雑さを増してきました。

魔力の歪み――その先に潜む脅威は何なのか。

次回、彼女と共に森の奥へ踏み入るハルトたちが、さらなる真実に近づきます。


挿絵(By みてみん)

セリス

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