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峡谷に轟く咆哮

ラルティア北方の峡谷へ挑む一行。

 霧に沈む岩場で待っていたのは、岩に擬態する“ロックバジリスク”――そしてその先に潜む長吼の影。

 前哨戦から始まる連戦の中で、仲間たちの連携と決意が試される。

 夜明けをわずかに過ぎた北の峡谷は、冷たい霧と沈黙に包まれていた。

 岩肌を伝う風が低く唸り、地の底から響くような振動が足元を震わせる。

 ――何かが、目を覚まそうとしている。


 グロウが先頭で槌を止めた。

「……足を止めろ。下が、揺れてる」


 次の瞬間、岩壁の一部が生き物のように蠢いた。

 霧の中から現れたのは、岩に擬態した蛇の魔獣――ロックバジリスク。

 鋭い牙と黄金の瞳が光り、空気が一気に凍りつく。


「視線を合わせるな!」セオが叫ぶや否や、結界の光が仲間を包む。


 リーナの矢が先陣を切り、リュシエルの風がそれを加速させた。

 矢は音を置き去りにして突き刺さり、魔獣が咆哮を上げる。

 ガルドとグロウが同時に突撃――大剣と大槌が轟音を立て、岩鱗を砕く。

 ハルトは地を滑るように踏み込み、白光をまとった刃を首筋の継ぎ目に突き立てた。


 瞬間、眩い閃光が走り、バジリスクの巨体が崩れ落ちた。

 霧が晴れ、谷に静寂が戻る。


 だがそれは、序章にすぎなかった。


 ――地鳴り。

 峡谷全体が呻き、岩壁が砕ける音が響く。


 霧を裂いて現れたのは、岩塊そのものが動くかのような巨影だった。

 二階建ての建物ほどもある巨体。

 全身を覆う灰色の岩板、紅蓮の光を宿した双眸。


「……長吼ちょうこう」ハルトが低く呟く。


 次の瞬間、巨拳が振り下ろされた。

 大地が裂け、岩塊が弾け飛ぶ。

 咆哮が空気を震わせ、耳鳴りが全身を突き抜ける。


「左右に展開!」ダインが号令を飛ばす。

「ガルド、グロウは正面を抑えろ! ハルト、リュシエルは俺と中央突破だ!」


 長吼の拳が再び落ち、ガルドが大剣で受け止める。

 火花が散り、足場が砕ける。

 グロウの槌が岩脚を叩き砕き、長吼が一瞬よろめいた。


 その隙を突いてリュシエルが風刃を放つ。

 旋風が巨体の間を切り裂き、装甲を削ぐ。

 ハルトは跳躍し、刃を閃かせた。


「――斬っ!」


 銀白の軌跡が長吼の胸を裂き、岩板の隙間から紅い血が溢れ出す。

 だが、それでも倒れない。むしろ怒りに満ちた光が目を燃やす。


 轟音とともに地面が隆起し、小型の岩鬼たちが群れとなって這い出してきた。


「援軍を呼んだか……!」リーナが矢をつがえる。

 エマの弓が風を裂き、セオの結界が仲間を包む。

 マリエルが罠を仕掛け、迫る岩鬼を転倒させる。


 混戦の最中、ハルトの耳に風の囁きが届いた。

 ――「ハルト、今!」リュシエルの声。


 風が彼の背を押す。

 ハルトは一気に跳び上がり、頂上の岩壁を蹴って宙を舞う。

 視界いっぱいに、長吼の紅い瞳が迫る。


「これで――終わりだッ!」


 黎明の刃が白光を放ち、胸の中心を貫いた。

 巨体が咆哮を上げ、空気が震える。

 裂けた岩板の隙間から光が漏れ、やがて全身が崩れ落ちるように沈黙した。


 ――静寂。


 誰もが動けず、ただ風が谷を抜けていく。

 崩れた岩の間に、長吼の赤い瞳が光を失って転がっていた。


 ダインが剣を下ろし、低く息を吐く。

「……終わったな」


 ハルトは剣を支えながら膝をつき、深く息を吐く。

 リュシエルが駆け寄り、そっと彼の腕を支えた。

 その頬にかかる髪が、風に揺れた。


「よくやったわ、ハルト」


 谷に射し込む朝日が、仲間たちの疲れた顔を黄金に照らす。

 その光は、勝利の証のように静かに輝いていた。

 ラルティアで冒険、ついに長吼討伐完了。

 連戦を乗り越えたハルトたちが、次の街でどんな新たな試練に挑むのか――次回もぜひお楽しみに。

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