表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/127

長吼、北の峡谷に咆哮す

北の山々を震わせる“長吼”の咆哮――。

ラルティアでの合流を果たしたハルトたちは、クラン《灰岩の誓い》と共に岩鬼討伐へ向かう。

緊張と冷たい夜気に包まれた一行が、夜明けとともに歩み出す。

 ギルドを後にした九人――ハルト、リュシエル、ガルド、リーナ、そしてクラン《灰岩の誓い》の五人は、夜風に揺れる街灯を背に静かな石畳を歩いていた。

 昼の喧噪が嘘のように、ラルティアの通りは沈黙に包まれている。

 遠く北の山並みが月光に淡い輪郭を描き、そのさらに奥――黒々とした森の深くで、何かがゆっくりと目を覚ましていた。


 先頭を歩くダインが振り返り、短く言葉を落とす。

「夜は冷える。宿に戻ったらすぐに休め。明日は夜明けと同時に発つ」


 ガルドが頷き、低く問い返した。

「依頼の魔獣――《岩鬼》。どんな奴だ?」


 ダインの声が夜気に溶ける。

「山奥に棲む岩肌の巨躯。石を砕く腕力に加え、地を震わせる咆哮で仲間を呼ぶ。……最近、その群れを束ねる“王”が現れたと報告があった」


「群れを……率いる?」

 ハルトが目を細める。


 エマが弓を肩に掛け直し、月明かりを反射する緑の瞳を細めた。

「岩鬼は本来、単独で行動するはずよ。群れを導く個体が現れるなんて、数十年に一度の異変ね」


 リュシエルの唇がわずかに震える。

「じゃあ今回の依頼は、その“王”を討つこと……?」


「そうだ」ダインは重くうなずいた。

「ギルドでは“長吼”と呼ばれている。咆哮ひとつで峡谷を崩すと言われる化け物だ」


 その名を聞いた瞬間、夜の空気が張り詰めた。

 胸の奥で、誰もが同じ想像をしていた――山そのものが怒りに目覚めたかのような怪物の姿を。


 セオが小さく呪文を唱え、掌に風の灯をともす。淡い光が一行の足元を照らした。

「明日は本番だ。今夜は体を休めよう。疲れを残せば、奴の咆哮に足をすくわれる」


 グロウは無言で頷き、星のない夜空を仰ぐ。その無骨な仕草だけで、覚悟のほどが伝わった。

 そんな彼を見て、セオが苦笑する。

「グロウが黙ってる時ほど、本気で燃えてる証拠さ」


 マリエルは短剣の柄に手を置き、冷えた夜気を読むように目を細めた。

「……明日の山は危険が多い。洞窟も崖道も、何が潜んでいるかわからないわ」


 リーナは肩の力を抜き、小さく息をついた。

「それでも進むしかない。私たちの旅は、いつもそうだから」


 仲間のやり取りに、ハルトの緊張が少しだけほぐれる。

 だが胸の奥では、未知の強敵への予感が確かに脈打っていた。


 ――


 翌朝。

 薄明の光が山肌を染め、霧が金に揺らめく頃、一行は北の峡谷へと足を踏み入れた。

 岩道には夜露が残り、足元で白い蒸気が立つ。

 吹き下ろす風が、遠くから低い唸りを運んできた。まるで山そのものが息づいているようだった。


 やがて、峡谷の入り口に差しかかった瞬間――大地が鳴動する。

 岩の奥から放たれた重低音が空を震わせ、鳥たちが一斉に飛び立った。


 地を裂くような咆哮が、霧を突き破る。

 それは確かに、《岩鬼の王》――“長吼”の咆哮だった。


 ダインが大剣を構え、短く命じる。

「全員、構えろ――ここからが戦場だ!」


 ハルトは黎明の刃を抜き、光を反射する刃を握りしめた。

 リュシエルの風が背を押し、ガルドが前へと歩を進める。

 霧の向こうで、山の王がゆっくりと目を開けた。


 ――岩鬼との決戦が、いま始まろうとしていた。

ラルティアでの一夜から、ついに“長吼”との決戦の地へ。

《灰岩の誓い》の面々と共に挑む初めての大規模な戦いが幕を開けました。

それぞれの役割が交差する戦いの中で、ハルトたちはどのように力を発揮するのでしょうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ