灰岩の誓い
ラルティアの街で出会ったクラン《灰岩の誓い》。
彼らは険しい山道を熟知し、これから先の行路を導いてくれる頼もしい仲間となる。
ハルトたちにとって初めての、他クランとの交流――新たな出会いは旅をどんな風に広げるのか。
掲示板の張り紙を見終えた一行は、そのままギルドの受付へ向かった。
木造の扉を押し開けると、夕暮れの光が差し込むホールには、酒と笑い声が入り混じっていた。
木の床は足音に合わせて軋み、焼かれた肉の香ばしい匂いが旅人たちの疲れを和らげている。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から、帳簿を片手にした中年の職員が顔を上げた。
「遠方から来た一行だな。王都の冒険者か?」
ガルドが頷き、一歩進み出る。
「北の山岳に魔獣が出たと聞いた。討伐依頼を受けたい」
職員は帳面を繰りながら、低い声で答える。
「北方の岩山で“岩鬼”の群れが確認されている。岩を砕く腕力を持ち、旅人を襲って村を荒らしてる。討伐には手練れが必要だ」
リーナが眉をひそめた。
「岩鬼……聞いたことはあるけど、群れで動くのは珍しいわね」
「だから厄介なんだ」
職員は視線を奥へ向け、軽く顎をしゃくった。
「だが幸い、地元クラン《灰岩の誓い》が案内と支援を申し出ている。山を知り尽くした連中だ。組めば心強い」
その言葉に応えるように、奥のテーブルから五人が立ち上がった。
灰色のマントに岩を象った紋章。厚い皮鎧と無駄のない動き。彼らの存在は、場の喧噪の中でもひと際際立っていた。
「俺たちは《灰岩の誓い》だ」
先頭の青年が歩み出る。淡い金髪を後ろに束ね、鋭い灰の瞳が仲間をまとめる。
「リーダーのダイン。山岳地帯なら任せてくれ。案内と後方支援を引き受けよう」
その隣から、一人の女性が静かに前に出た。
深緑のローブに弓を背負い、森の風を思わせる瞳がこちらを見据える。
「エマ。弓と風魔法を扱うわ。遠距離の援護は任せて」
凛とした声が響き、ハルトは無意識に背筋を伸ばした。
続いて、茶髪の青年が革袋を提げて軽く笑う。
「セオ。補助魔法と戦術支援担当。結界や強化術でみんなを守るのが仕事だ」
軽い口調の裏に、磨かれた魔具の数々が信頼を物語っていた。
その後ろから、無言の巨躯が影のように立つ。
刈り込まれた黒髪、分厚い腕、背に揺れる巨大な大槌。
「こいつはグロウだ」
ダインが代わって紹介する。
「口数は少ないが、岩壁すら砕く。我らの盾だ」
最後に、一人の小柄な女性が前に出る。
栗色の髪を肩で切り揃え、腰には二本の短剣。柔らかな笑みとともに深く礼をした。
「マリエルです。罠の解除と索敵が得意です。洞窟や崖道の隠れた危険を見抜くのが私の役目です」
透き通る声と落ち着いた動作に、熟練の自信が滲む。
ガルドは一行を見渡し、ゆっくりと頷いた。
「頼もしいな。こちらはガルド、ハルト、リュシエル、リーナだ。よろしく頼む」
ダインが軽く笑みを返す。
「夜明けと同時に出発しよう。奴らは朝晩に活発だ。途中で“ロックバジリスク”が出るかもしれん。岩に擬態して待ち伏せする厄介なやつだ。気を抜くな」
ハルトは無意識に長剣の柄を握った。
黎明の刃が微かに光を反射し、胸の奥で何かが熱を帯びる。
――新しい出会い、新しい戦場。
試されるのは、己の力と覚悟。
ギルドを出ると、夜風が頬を撫でた。
ラルティアの街の灯が遠くで瞬き、北の山並みが月光に沈んでいる。
その奥深く、誰の耳にも届かぬ場所で――岩を砕くような咆哮が、闇を震わせていた。
今回は地元クラン《灰岩の誓い》のメンバーを詳しく紹介しました。
彼らの役割や個性が、これからの山岳での戦いにどのように活きるのか楽しみにしていただければと思います。
ハルトたちが初めて他のクランと共に行動することで、これまでにない経験を積んでいくことになります。