ラルディアの風
ルクシードを目指す道のりで、ハルトたちは初めての中継地ラルティアへ向かいます。新しい剣を初陣で試すハルトの成長と、次の試練を予感させる影が描かれます。
王都を発って数日。
緩やかな丘陵を縫う街道を、ハルトたちは南東へと進んでいた。
風が野草を揺らし、遠くでは雲の切れ間から陽光が大地を照らしている。
朝の空気は澄み、旅路の始まりにふさわしい静けさを帯びていた。
だが、その静寂を破るように――。
風の流れの中に、微かな羽音が混じった。
リュシエルが足を止め、瞳を細める。
「……来るわ」
言葉と同時に、濁った風が裂けた。
群れをなして舞い降りたのは、薄緑の皮膜に鋭い爪を持つ巨大なコウモリ――《ガストバット》。
その翼が一振りするたびに風がねじれ、砂塵が渦を巻いた。
「試し斬りにはちょうどいい」
ガルドが短く呟き、背の大剣を抜く。
刃が光を弾き、風を切る音が空気を震わせた。
ハルトも腰の剣を抜き、黒燐のジャケットの裾を押さえる。
銀灰の刃――《黎明の刃》。
朝日を受けて淡く輝くその光に、胸の奥が静かに熱を帯びた。
最初の一匹が、弧を描いて滑空する。
ハルトは半歩踏み込み、反射的に剣を振るった。
横薙ぎの一閃が、唸る風を切り裂く。
次の瞬間――。
ガストバットの翼が真横に裂け、黒い血が霧のように散った。
悲鳴が響き、魔獣が地に叩きつけられて砂煙を上げる。
その一撃に、ガルドが片眉を上げる。
「腕を上げたな。刃の重みと振りが噛み合ってる。……もう剣が“お前を選んでる”」
ハルトは短く息を吐き、刃に付いた血を拭った。
鼓動がまだ早い――けれど、手の中の剣は不思議なほど安定していた。
恐怖よりも確かな手応えが、そこにあった。
残りの群れも、ガルドとリュシエルの連携によって次々と地に落ちていく。
リーナの矢が風を裂き、最後の一体を正確に撃ち抜いた。
やがて、草原を包んでいた唸りが消えた。
風だけが静かに通り抜け、朝日が霧を薄く照らしていく。
「先を急ごう。日が暮れる前に街に着きたい」
ガルドの言葉に、ハルトは頷き、剣を鞘に納めた。
ルクシードを目指す道のりで、ハルトたちは初めての中継地ラルティアへ向かいます。新しい剣を初陣で試すハルトの成長と、次の試練を予感させる影が描かれます。