東への旅立ち
ルミナリア王国での戦いを終えたハルトたちは、次なる目的地ルクシード聖国へ向けて王都を発ちます。仲間と共に踏み出す新たな道、その道中に待つのはまだ見ぬ街と試練――新章の始まりです。
王都の朝は、澄みわたる空気とひんやりした風に包まれていた。
大霊灯の白光がゆるやかに薄れ、城壁の影が東へと伸びていく。
ハルトたちは荷を整え、静かに王都の東門へと向かっていた。
門前にはすでに多くの商人や旅人が集い、馬車の荷を括る音、馬の嘶き、金属のきしむ音が重なり合っていた。
石畳に残る夜露が陽光を受けてきらりと光り、その一歩一歩が新たな旅立ちの鼓動のように響く。
ガルドは背負った大剣を軽く持ち上げ、朝の光を受けた刃が銀色に閃く。
左肩の包帯は外れ、彼の動きにはもはや痛みの影もない。
「さて――ルクシードまで、ここからが本当の道のりだ。気を引き締めていくぞ」
ハルトは肩の鞄を締め直し、しっかりと頷いた。
「心配いらない。もう依頼の感覚にも慣れてきた」
その横顔を見つめ、リュシエルが柔らかく微笑む。
「私たちにできることを、一歩ずつ積み重ねていけばいいわ。
――ここで学んだことを、次へつなげましょう」
リーナは背中の弓を握り直し、やや緊張した声で呟く。
「黒羽の影はどこにでも潜んでる。油断はできないわ」
ガルドは短く頷き、遠く霞む街道を見つめる。
「魔獣も増えるだろう。長旅になる、覚悟しておけ」
ハルトは深く息を吸い込み、東の空を仰いだ。
門の向こうには、朝霧に包まれた街道がまっすぐに延びている。
振り返れば、王都の大霊灯が遠く小さく輝き、まるで見送るように白光を放っていた。
「行こう」
ハルトの短い言葉に、仲間たちは迷わず歩を進めた。
――
東門を抜けると、街道は緩やかな丘陵地帯へと続いていた。
朝日が霧を透かして黄金色に輝き、草原の露が風に乗って煌めく。
鳥の声が遠くで響き、荷馬車の車輪が規則正しく軋む。
ハルトは歩きながら、これまでの旅を思い返していた。
モルネの夜、燃え落ちる家の光。
白花の草原で見たリュシエルの瞳。
すべてが、今の自分を作り上げてきた。
そして――これから向かうルクシード聖国。
女神の光が揺らぐという噂、黒羽の新たな影。
その全てが、彼の運命とどこかで結びついている気がしてならなかった。
リュシエルが横で静かに口を開く。
「この道を進めば、いくつか村を越えてルクシードに入れるはず。……何事もなければいいけれど」
「何も起きない旅なんて、俺たちらしくないだろ」
ハルトが微笑むと、ガルドもわずかに口の端を上げた。
「確かにな。だが、どんな敵が待っていようと退くな。道は自分の足で切り拓くものだ」
リーナは弓を握りしめ、決意のこもった声で言った。
「次こそは……冷静に戦う。あの夜みたいな無茶はもうしない」
ガルドは何も言わずに頷いた。その瞳には確かな信頼が宿っていた。
東へ――。
朝霧の向こう、白く輝く光が街道を照らし始める。
露を散らす草原の先には、まだ見ぬ村々と、新たな試練が待っている。
やがて四人の影が、黄金に染まる地平の中へと静かに溶けていった。
東への旅がついにスタートしました。まだ旅立ったばかりで平穏な景色が広がっていますが、道中にはいくつもの出会いと戦いが待っています。仲間たちの成長と、これから訪れる新たな試練をぜひ見届けてください。