表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/127

朝靄の訓練所

王都の朝。傷を癒したガルドが再び剣を振るう中、ハルトは自らの成長を報告する。

次の旅路に備え、二人は武具店へ――ハルトが自分の武器を選ぶ時が来る。

 朝靄がまだ薄く漂う訓練所に、剣を振るう音が規則正しく響いていた。

 湿った空気を裂くように、風が剣先をなぞる。砂塵が舞い、静かな朝に力強い軌跡を残した。


 ガルドはゆっくりと息を吐き、大剣を構え直す。

 左肩にはまだ包帯が巻かれているが、腕を動かす感覚は戻っていた。

 痛みは残る。それでも剣を握る手に、確かな力が宿っているのを感じる。


 背後から、足音が近づいた。

 振り向かずとも分かる。ハルトだった。


「……傷は、もう大丈夫なのか?」


 ガルドは最後の一太刀を振り抜き、剣を下ろした。

「万全とは言えんが――」

 軽く息を吐き、肩をぐるりと回す。「この通り、剣を振れる程度にはなった」


 その言葉に、安堵の笑みがこぼれる。

 ハルトは頷き、手にしていた剣の柄を軽く叩いた。


「なら、よかった。……実は、ガルドが休んでいる間にいくつか依頼をこなしてたんだ。Eランクに昇格した」


 ガルドが初めてこちらを振り向き、わずかに眉を上げる。

「ほう……やるじゃないか」


「まだ始まったばかりさ」

 ハルトは小さく笑い、その目に確かな光を宿した。

 モルネでの戦いを経て生まれた決意が、静かに彼を形づくっている。


 ガルドは剣を肩に担ぎ、少し口元を緩めた。

「頼もしい限りだ。次の地では、俺より先にお前が前へ出るかもしれんな」


 軽口のように聞こえたが、その声には確かな信頼が滲んでいた。


 ハルトは一呼吸置き、真剣な表情で言った。

「ガルド。旅立つ前に、自分の武具を整えたいんだ。……ついて来てくれないか?」


「いいだろう」

 ガルドは即座に頷き、口の端を上げる。

「備えを怠る奴は、戦場で長生きできんからな」


「ありがとう」

 ハルトはわずかに笑みを返した。


 ――


 二人は訓練所を後にし、王都の大通りへと向かった。

 鍛冶屋や武具店が並ぶ一角には、鉄の香りと油の匂いが満ちている。

 朝の陽射しが金属の表面をかすかに照らし、まるで火花のような光を放っていた。


 鉄扉を押して入った武具店の中は、壁一面に鎧と剣が並び、鈍い輝きを放っている。

 カウンター越しに顔を上げた店主が、ハルトを見るなり笑みを浮かべた。


「おや、見覚えがある顔だな。昇格したって聞いたぞ。今日はどんな武具をお探しだ?」


 ハルトは軽く会釈し、並んだ剣を見渡した。

 これからの旅に備え、より確かな刃と堅牢な防具が必要になる――

 その思いが胸の奥で静かに燃えていた。


 ガルドが隣で腕を組み、低く言った。

「焦るな。剣は腕の延長だ。軽すぎても、重すぎても命は守れん。……お前に合うものを選べ」


 ハルトは小さくうなずき、並んだ剣に手を伸ばした。

 冷たい金属の感触。握った瞬間、胸の奥でわずかに火が灯る。

 新たな旅路へ向けて――自らの手で、力を掴むために。


 訓練所の空に流れていた朝靄は、すでに薄く晴れ始めていた。

 王都の大霊灯が淡く光を返し、二人の背を静かに照らしていた。

ハルトがEランクへ昇格し、新たな武具を選ぶ場面でした。

仲間たちの絆が少しずつ深まる中、それぞれが次なる国へ向けて力を蓄えていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ