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霧の退路

霧深い森を抜けた先での、黒羽「碧刃」との激闘。

リーナの胸に残るのは、仲間を危険にさらした自分への深い悔恨だった。

ガルドの重傷、そしてハルトたちの心に刻まれた敗北の痛み――。

今回はその戦いの余波と、それぞれが抱いた決意を描きます。

 ――碧い炎の残光が、まだ森の奥で燻っていた。

 燃えるはずのない霧が熱を帯び、葉の先から淡い蒸気が立ちのぼる。

 その静けさの中で、四人は朽ちた倒木の陰に身を潜めた。


 ハルトの腕に、ガルドの重い体がずしりとのしかかる。

 鎧の隙間から血が溢れ、霧に赤黒い筋を描いて消えていった。

 リュシエルが膝をつき、光の術式を唱える。

 彼女の指先から温かな輝きが放たれ、傷口を覆っていく――けれど、額には汗が滲んでいた。


「……これ以上は、一時の癒ししかできない。出血が多すぎる。」


 震える声が、霧に吸い込まれていく。

 ハルトは顔を上げ、背後の暗闇を見据えた。

 風の奥で、まだ“あの剣”の残響が唸っている。

 碧刃の気配は遠のいた――だが、完全に消えたわけではなかった。


「リーナ、周囲を頼む。」

 短く告げると、リーナは唇を噛んで頷き、弓を構えた。

 指先が震える。矢羽がかすかに擦れた音を立てた。


「……私が、あんな真似をしなければ。」


 掠れるような声。

 リュシエルは首を横に振り、静かに言葉を返す。

「悔やんでも戻らないわ。今は彼を生かすことだけ考えて。」


 その声には、戦場を知る者の静かな強さがあった。

 リーナは小さく息を呑み、弓を握る手に力を込めた。


 ガルドがわずかに瞼を開く。

 痛みに霞む視界の中で、彼は苦笑を浮かべた。

「……俺はまだ、倒れん。あいつに――終わりを告げるまではな。」


 その声に、霧がかすかに揺れる。

 まるで森そのものが、彼の誓いを聞き入れたように。


 リーナは俯き、唇を噛みしめた。

「……わたしが軽率だった。あの時、冷静でいられたら……。」


 その瞳に、悔恨と決意が宿る。

 ハルトは仲間を見渡し、静かに頷いた。

 ――ガルドは倒れた。碧刃の力は圧倒的だった。

 だが、今ここで終わらせるわけにはいかない。


「退こう。森を抜けた先に避難小屋がある。夜明けまでに辿り着く。」


 ハルトの声に、リュシエルが頷く。

 彼女はガルドの肩を支え、光の糸のような治癒の力で出血を抑えた。

 リーナは背後を警戒し、弓を構えたまま歩を進める。


 霧は相変わらず濃く、夜が森を完全に呑み込もうとしていた。

 その奥で、碧い光が一瞬だけ揺らめく。

 ――まるで獲物を逃した狩人が、次の獲物を見定めるように。


 ハルトはその光を背に感じながら、仲間を導いた。

 冷たい風が頬を刺すたび、胸の奥で小さな炎が強く燃える。


 ――このままでは終わらせない。

 必ず、あの剣を打ち砕く。

 そう誓うように、ハルトは霧の闇を睨みつけた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

戦いを経て、リーナが自らの未熟さを痛感し、成長への第一歩を踏み出しました。

仲間を守りたいという気持ちが、今後どのように彼女の強さへと変わっていくのか。

次話からは、新たな試練と、それぞれの心の変化をさらに掘り下げていきます。

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