霧の街道
黒羽の羽根を追って街道へと足を踏み出したハルトとリュシエル。
その先で待っていたのは、思いがけぬ少女リーナとの再会、そして不気味な黒い魔獣――。
霧の街道に潜む影が、彼らの運命をさらに深い闇へと導いていく。
灰色の空をかき乱すように、冷たい風が街道を吹き抜けていた。
濃い霧が立ちこめ、視界はわずか数歩先までしか見えない。
ハルトたち四人は、互いの気配を頼りに歩を進めていた。
霧の静けさの中で、風が草を揺らす音だけが響いている。
ハルトは隣を歩くリーナにちらりと目を向けた。
フードの奥からのぞく翡翠色の瞳はまっすぐ前を見つめていて、
その横顔に、どこか儚げな強さが宿っている気がした。
「リーナ。」
ガルドが静かに声をかける。
「どうして黒羽を追っている? 命を懸けるような覚悟があるように見える。」
リーナは一瞬だけ立ち止まり、うつむいた。
「……理由は、今は言えないの。でも、あいつらを見過ごすなんてできない。
もし本当にモルネを狙ってるなら、止めなきゃ。」
リュシエルが少し眉をひそめ、蒼い瞳でリーナを見つめる。
「黒羽の名前を知っている人なんて、ほとんどいないはずよ。
あなた、どこでその名を?」
リーナは唇をかすかに噛んだ。
「……昔、一度だけ出会ったの。任務のときに。
真っ暗な夜で、何も見えなかったのに――気づいたら仲間が……いなくなってた。」
小さく震えた声が霧の中に消える。
ハルトはその言葉に、胸の奥が締めつけられるのを感じた。
そのとき、突風が木々を揺らした。
ざわりと枝が軋み、どこか遠くで何かが這うような音が響く。
ハルトはすぐに剣の柄に手をかけた。
リュシエルも短剣を抜き、女神の加護を帯びた刃が淡く光を放つ。
ガルドが低くつぶやく。
「……嫌な気配だ。」
リーナはフードを深くかぶり直し、霧の向こうを見据えた。
「この風……おかしい。何かが近くにいる。獣じゃない……たぶん、人。」
ハルトも息をひそめ、耳を澄ます。
枝が軋む。葉が擦れる。――けれど、確かに“誰か”の気配がある。
「モルネまでは、もう少しだ。」
ガルドが手綱を握り直し、短く告げた。
「このまま進む。だが油断するな。」
「……うん。」
リーナが小さく頷く。その声には、恐れよりも決意がこもっていた。
霧が流れ、街道の影を飲み込んでいく。
白い帳の奥――そこに潜む闇が、確かに息を潜めていた。
今回はついにリーナが本格的に物語に絡み始めました。
彼女の矢が放つ一撃と、その瞳に宿る決意が、黒羽との戦いをさらに大きなものへと広げていきます。
次回からは三人がどのように黒羽に立ち向かうのか、ぜひ見守ってください。
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