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3.この世界はファンタジー

2022年8月13日


僕の朝は早い。まだ太陽が昇りきっていない5時に目覚め、朝の運動を始める。




10kmのランニング、懸垂50回、腹筋100回、腕立て伏せ50回、体幹トレーニング15分、これが朝の運動だ。魔法少女として戦う桜花さんを見て、変わることを決めたあの日から三ヶ月。僕は毎朝欠かさずこの運動を繰り返している。





「ふぅ...」





朝の運動の後はシャワーだ。清潔感はモテる男にとって必須な要素、入念に汚れた身体を清める。風呂場を出て脱衣所で着替えた。その時、鏡を見る。





「...三ヶ月前の僕が見たら気絶するだろうね...」





鏡に映る僕の姿は控えめに言ってイケメンだ。いや控えめに言う必要ない、イケメンだ。醜く太っていた腹は細身で筋肉質になり、152cmだった身長は165cmを超え、脂肪とニキビで汚れていた豚のような顔はシャープなイケメンフェイスへと変貌を遂げていた。





「すべては......野望の実現がため」





桜花さんにとってかけがえのない人、つまりは彼女の恋人になる。そして魔法少女として戦う彼女に殺されるに相応しい宿敵にもなる。この野望を果たすために僕は血反吐を吐く努力をした。





自由に行動するための1人暮らし、朝の運動、ダイエットと身長を伸ばすため生活習慣改善、勉強、恋愛漫画で乙女心の勉強、魔法少女と怪人の調査、朝の運動の内容を三倍にした夜の運動、規則正しい生活習慣の習得、桜花さんのストーキング...etc。





狂愛が僕を突き動かし、自らを変えるための行動を即した。創作物ではよく超常の力でイケメンになる展開がある。僕にそんなご都合主義はない。純粋に努力したのだ。すべては努力と狂気の賜物である。





「いや...痩せたらイケメンはご都合主義だな...」





そう言いながら髭を剃って洗顔する。痩せた僕の顔はイケメンだった。痩せていた時期がなかったから知らないのは当然だ。整形する気だったのでこれは本当にラッキー、幸運でしかない。




ミディアムヘアな髪の寝癖を直し、スキンケアと美顔ローラーを終えた僕は脱衣所を出る。ベッドと勉強机、ゲーム機とアケコン、少女漫画ばかりの本棚、至って普通の中学生の部屋だ。





「さて、朝食だ」





冷蔵庫から食パン、サラダチキン、カット野菜、牛乳を取り出す。牛乳を流し込みながら、パンにチキンと野菜を挟んで噛り付き、三口で食べ終わった。




壁に掛けられた時計を見る、時刻は7時半過ぎ。今は夏休み真っただ中、やることはない。日課の格闘ゲームでもして時間を潰すか?





「...馬鹿だな、やることあるよ」





自分を罵倒して机に向かう。椅子を引いて座り、引き出しを開けて黒いノートを取り出す。ノートをひらく、計画を練ろう。





***




ノートを見ながら思考を巡らせる。僕の野望は桜花さんに殺されて、僕という存在を彼女の人生に刻み付けることだ。桜花 京香という少女に永遠とこびり付く記憶として添い遂げる...ソレが僕の野望だ




この野望を叶えるには必須条件が2つある。




一つ目は容姿端麗、成績優秀のイケメンになって桜花さんと付き合うことだ。最初からクライマックスだ。高嶺の花である彼女を振り向かせるには、自身もそれに近しい存在にならなければならない。




イケメンにはなった、成績も必死の勉強をしたおかげで期末テストの点数は学年3位だった。後は何とか関係をもって彼女と付き合うだけだ。それが困難で、現状何も関係は進展していないが……まあ、どうとでもなる条件だろう。





問題は二つ目、これが最難関だ。





二つ目の条件は魔法少女の敵になること、僕は魔法少女として戦う彼女に殺されたい。その為には魔法少女の敵になる必要がある。こればかりは努力しても無理、どうにかしなければいけない。





当てが何も無い訳ではない。僕はこの3ヶ月間で徹底的に調査した。魔法少女とは何なのか、彼女が戦っていた機械の怪物は何なのか、この世界にファンタジーは存在するのか、徹底的に調べた。




その調査をメモしたのが今僕が目を通しているノート、非日常調査記録ノートだ。魔法少女として活躍する桜花さんをストーキングして、何とか入手した情報をまとめたノートである。





命がけの調査の結果【機械生命体、怪人、吸血鬼、魔法具店、妖魔、現人神】これらの非日常的存在は現実に実在していることが分かった。




彼らはそれぞれ組織を作り、目的のために日本を暗躍している。そしてそれに対抗しているのが桜花さんが所属している組織、超常対策省なる組織だ。





***





「超常対策省...」





ノートをめくり、組織について分かっていることを見る。桜花さん以外の魔法少女が大勢いる、魔法少女ではないが超常の力を使う者も確認できた。非日常的存在を撃退している組織で実態は不明。国家機関なのかすら不明だが、市民を超常的存在から陰ながら守っているのは確かな組織だ。





「ここと敵対している組織...」





ノートをめくる、今度は確認できた悪の組織を確認する。現在確認できた悪の組織は全てで4つ。





円柱頭の機械生命体、サワコラが所属していた目的不明の組織、ケオスギア。




人を凶悪な怪人に変化させる力を持った異形の天使達を崇める危険な新興宗教、トランペッター。




人間を家畜にして支配することが目的の吸血鬼や食人鬼たちの組織、貴い血の集い。




神出鬼没かつ目的不明、一歩間違えば恐ろしいことになる魔法具を売り捌く店、さすらい魔法具店。





妖魔も組織を組んでそうだが不明り妖魔は世間一般で言う妖怪、怪異とも呼ばれる存在だ。本やゲームに出て来そうなオーソドックスな妖魔もいれば、形容し難い悍ましい妖魔もいる。積極的に人を襲う妖魔もいれば人と共存している妖魔もいた。




現人神に関しては一度も遭遇したことがない。魔法少女の会話で存在は判明しているが詳細は不明。恐らく...神の力を有した人間のことだろう。





「...この世界、めちゃくちゃファンタジーだな...」





ノートを閉じながらつぶやく。これらの組織は桜花さんをストーカーすることで判明した情報だ。彼女は学生として平穏に暮らす陰で、魔法少女としてこれらの悪と戦っていたのである。




まさしく正義のヒーローだ。つまり、何かしらの非日常的存在になれれば、魔法少女として戦う桜花さんに殺されることができる。





「...夏休みのうちに終わらせたいね」





計画の段取りは決まっている。中学のうちに容姿を整え、魔法少女の敵になり、桜花さんと同じ高校に進学してそこで恋人になる。十分に関係が進んだタイミングで...彼女に殺される。そういう計画だ。まずは早く魔法少女の敵になることだ。





「焦らず、だが素早く済まそう」





そう言いながら僕は壁に掛けられた時計を見る。時刻はいつの間に午後の6時を過ぎていた。思考に浸り過ぎた、反省しながら夕食を作ろうとして...やめた。ウー〇ーしよう。面倒になってしまった。





「なるぞ...魔法少女の敵に」





そう呟きながらスマホを操作し、僕は普段の健康的な食生活を無視したハンバーガーを注文した。

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