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第48話「愚か者たち」

ハロワン第48話「愚か者たち」


朧の記憶――すなわち世界の秘密を見た産土と陸。

それを知ってしまった時、産土はどうしていいか分からなくなってしまった。

「いつかまた不意に、穏やかな日が訪れるなら、俺達が今できることは――ここで終わることなのかな?」

今際の際で産土に問われた陸は、果たして何を言う――。


P.S

屈指の好きな回です。

なぜ朧が新世界を臨んだのか。その痛みに共鳴した産土。そして後半の陸とのやり取り。見所の多い回です。

特に、世界平和のためには自分達が今ここで終わるのが正解なのかと自問しながらも、本能では生きることを渇望している産土のシーンがイチオシです。是非!


――――――――――――――――――――――――――――――

一部流血表現がありますが、残酷な描写には寄せていません。


独自用語や舞台設定が多いので、リンク先に解説をまとめています。

物語の進行に併せて随時更新してまいります。

宜しければご覧くださいませ。

https://ncode.syosetu.com/n9351kp/1/

――――――――――――――――――――――――――――――

「「――ッ!!」」



陸と産土(うぶすな)に意識が戻る。

二人がハッとしたように目を見開くと、そこは先ほどまでの光景――終焉のオーデとの戦闘中の景色に戻っていた。


「――今のは……なんだったんだ」


陸がぽつりと呟く。

何世紀も前の壮絶な歴史の記憶から戻ってきたばかりで、脳の処理がとても追い付かない。


「……」


これには産土さえも言葉を失って、動きが完全に静止していた。

しかし時間は待ってはくれない。


――ガッ!


「……っ!」


突然両腕を強く掴まれたことで、産土の意識は否応なく無理やり現実に引き戻された。

そこにいるのは、大粒の涙をこぼしながら産土を見上げる少年――先ほどの長い記憶の中で見た、幼き日の(おぼろ)がいた。

彼は産土を強く揺さぶりながら泣き叫んだ。


「ずっと、ずっと、ずっと。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……! 

たった一人でこの大陸を、終焉から守ってきた! 

ずっと一人で、だ!」


産土はただただ朧の主張を一身に受けていた。


「誰にも頼らず、誰にも褒められることもなく!

ずっとずっと一人で……!

長すぎた。重すぎる厳罰だった。

貴様らはその恩恵を……ただ家畜の様に何も知らずに、のうのうと受けていたんだ……!」


そこまで言うと産土を掴んでいた手の力がほんの少し緩んだ。


「私とて……はじめから己の保身ばかりだったわけではない」

「……」


産土は手を振り払うことなく、揺れる瞳でただただその叫びを受け入れた。


「長きに渡り、大陸の繁栄に大いに貢献してきた。

もうこれ以上、悲しい魂が生まれないように、哀れなクグリコが増えないように、来る日も来る日も、執行、執行、執行、執行……!」

「……」

「一人ずっと、大陸の治安を守ろうと全力を尽くした。

――しかし実際、クグリコは増え続ける一方だった。

人が増え、大陸が栄えれば栄えるほどに、人間同士の争いや犯罪は増え、どれだけ力を尽くそうともクグリコは増える一方……それに嫌気がさしたのだ」

「……」

「だからいつしか、私は思うようになったのだ――

“自分は何のために終焉を封印し続けているのだろうか?”と」


ぽつりと放たれたその言葉に、産土の目が少し見開かれる。


(あぁ、そうか……)


「こんなにも汚い人間の強欲が蔓延る世界ならば、いっそのこともう一度、終焉で消し去ってしまった方がいい。

今こそ、世界をもう一度リセットし、崇高な志を持つ者だけの“新世界”を作るべきなのだ」


両手を大きく広げ、嬉々としてそう語る朧は愉快そうに笑っていたが、目の奥は酷く悲しみを帯びていた。


「こんなにも腐った世界を、人は“最も安寧な時代”と謳うのだから誠に滑稽なことだ。

平和ボケした連中は、誰の手によってその脆すぎる偽りの安寧が維持されているのかも知らぬのだから……!

私は二度も――、この世界に失望させられたのだ……!」


「……」


産土は、嘲笑する朧をじっと静かな表情で見下ろしていた。

今の産土には、朧の言葉を止める気にはなれなかったのだ。


(――お前だって、可哀そうだったんだよな)


「毎日ひたすらにバケツで水を運び、忘れ去られた石像を磨く。

一人孤独な、長すぎる“生”を与えられたとしても、大陸のため終焉を封じ続ける。

そうすることが誰かのためになる、そしてそれはやがて自分のためになる。

そうすれば皆に、愛してもらえる――そう信じていた」


あまりにも重すぎる宿命を背負わされた、そのたった一人。

誰にも頼れない。誰にもその運命を代わってもらえない。

そんな朧の姿が、産土の目にはどうしても自分自身と重なってしまう。


(……一人で、辛かったんだよな)


朧が言う。


「私は、ただ……一度でいいから、愛されたかった」


力無く、ただ切実に響く、朧の本音。


(そうだよな。お前だって――)


終焉という強大な力を持った彼すらも、この世界のただの被害者でしかないその無力な様に、産土は小さく拳を握ることしかできずにいた。


「悪いのは私だったのか?

縋った先がたまたま強大な力だっただけだ」


語るうちに募る怒りに、再び朧の語気が強まっていく。

しかし産土は全てが吐き出されるまで黙っていた。


(分かってるよ。お前だって、何度も――)


それは産土が、朧の痛みをこの世界で唯一理解できるのは自分なのではないかと感じたからだ。

朧が再び産土の肩を強く揺さぶる。


「そんなにいけないことだったのか?

愛されことを渇望するのは、そんなに悪いことだったのか……!」


悔しそうに、やるせない表情で産土の胸板を叩く。


「……」


産土は何も言わず、朧の目をしっかりと見つめる。その奥底にある、たった一人の少年の、かつての願いを。


(分かってる。お前だって、何度も――)


産土の目から一筋の涙がこぼれ落ちる。


(ささやかな幸せを、当たり前の日常を――)


頬を伝い、やがて雫となったそれが眼下の朧の頬に落ちる。


(愛を、希望を――。世界の平和を――)


産土を見上げる朧も涙を流していた。


今、運命に縛られし二人の死神が、この世で唯一互いにしか分からぬ痛みに共鳴する。


(――願ってたんだよな)


救いたい者と救われたい者――。

それはパズルのピースの様に一見はまるように見えても、二人にとっては難しいことだった。


一度運命を違えた二人が目指す結末は、もう決して交わることはないのだ。


「……もう沢山だ。もう罰は受けきった……。

誰がなんと言おうと、今度こそ私だけの――私の“理想の世界”を作る……!」


朧の声は、張り裂ける寸前の神経のように震えていた。

その叫びと同時、彼の足元に束縛されていた“枷”が、鋭い破裂音とともに断ち切られる。


空気が、一瞬にして変わった。


「――やめろ!!!!!!」


産土が叫んだ。伸ばした手が朧に届くよりも早く、世界そのものがひっくり返ったような衝撃が走る。

同時。

止めようと手を伸ばした産土の腕は、終焉が開いた衝撃によって跡形もなく吹き飛んだ。


今――、終焉のオーデが全解放されてしまったのだ。


「ボス!!!!!」


陸の絶叫。

産土は耐え難い痛みに身体を折り、膝から崩れ落ちる。

陸は必至で止血を試み、産土の意識をこの世に留めなければと、何度も何度も必死に声をかけた。


「しっかり……しっかり! ボス……っ!!」


陸の叫びも、空気の震えに飲まれていく。


その中で――朧が、天を貫くように両腕を広げた。


「終焉のオーデよ!!

貴様の力は今この私によって解放された……!

代わりに――この私に、お前の全てを寄越せ!!!!」


狂気の声が、次元の膜を震わせる。

世界が軋み、床が波打ち、光と闇が音を立てて混ざり合う。


陸は産土の身体を必死に抱き寄せたが、視界が砂のように崩れ、色が流されていった。

両手で天を仰ぎながら朧が大声で叫んでいる光景を最後に、再び視界がぼやけていく。


――…

―…


目を開けると、陸は先ほど産土と合流したあの場所に立っていた。審議署空間が解けたのだ。

産土の右腕――否、“導守の力”が宿っていた象徴そのものが消滅したことで、彼の能力は完全に断たれ、審議の“道”も描けなくなったのだ。


「これでもう“道”は描けまい。

私を執行することも叶わない……!」


空に浮かぶ朧の瞳は、もはや正気の色を失っている。

勝ち誇ったように、狂ったように、二人を見下ろしていた。


「終わりだ!私の勝ちだ!!

終焉の力は、全て私の掌にある……!」


だが――


その狂喜は十数秒も続かなかった。


終焉のオーデ本体の力が、朧の身体を内部から食い荒らし始めたのだ。

完全復活を果たした終焉のその闇は朧の皮膚を走り、骨を侵し、肉を砕いてゆく――。


「すごい……!すごいぞ!私の力だ!

私が世界を、正しい形に戻すのだ……!

あはははははははは……!」


朧は自分の崩壊に気付いていない。気付かぬふりで笑い続けているのか。


いつしか体は砂粒のように砕け、風に混ざり、光と闇の境界に飲まれていった。

彼は最後の瞬間でさえ、幸福そうに笑っていた。

そして塵のように完全に消え去る。壮絶で、あまりにも儚い最期だった。


しかし、まだ何も終わっていない。


朧は消えても、完全復活を果たした終焉のオーデが、豪風を巻き起こしながら再び世界を飲み込まんとしていた。

陸の腕の中では、導守の力を失った産土がぐったりと横たわっている。

この絶望的状況に、陸は言葉を失っていた。


「……」


産土の血が、止まらない。

彼は右腕を失ったばかりでなく、間近で受けた終焉の衝撃波で胸部から腹部にかけて大きく損傷していた。

携帯していた凝固剤を全て使い切っても止まらない血を、陸は何とかして今なお止血を試みていた。


不意にその腕を、産土の左手が掴む。


「……!」


驚きそちらを見ると、額に脂汗を浮かべた産土が呼吸を整えていた。


「大丈夫、今なんとか止めるから……!」


陸が言うと、産土が何か言いたげに薄く口を開いた。

それを視界の端にとらえた陸は、声を拾えるよう顔をグッと近づけた。


「お前も見たか……さっきの……あの走馬灯みたいなの」


掠れる声に耳を澄ませる陸に産土は続けた。


「……あれは朧の記憶、だ」

「記憶……?」

「そ」


陸も確かに見た。朧が見せた彼の悲痛な記憶を。


「……あれを見て……俺は……どうしていいか、分からなくなった」


言いながら、出欠の痛みに顔をゆがめる産土の身体を、陸はなるべく楽な姿勢となるように配慮しつつ支え直す。

産土は委ねるように陸に身体を預けると、頭上で膨れ上がっていく終焉のオーデをじっと見据えた。


「……いっそこのまま、一回全部終わってさ……オーデも導守も……一度全部、生きるもんがもう一度、ぜーんぶ消え去ったら……そうしたらいつか、また素晴らしい世界が始まるのかな……」

「……」


陸は何も言い返せずに、産土が見据える先の終焉を共に見つめていた。

「……」

「……」


静かに目を閉じる。


産土の朦朧とする意識の中に、志乃の姿が浮かぶ。

こちらを振り返ってふっと笑いかけてくれるその姿は、まるで白昼夢の中の天使の様だ。


(志乃さんが笑って生きていられる、オーデも導守もいない、素晴らしい世界が――)


薄く開いた産土の目には、柔らかな日差しの中、花薫る野原で志乃が転寝している――優しい世界が広がっていた。


「……」


たとえそれがいつになるか分からなくとも。いつか――

いつかそんな世界が来てくれるなら――


自分はここで終わってもいいと、産土は思った。


しかし――


「ボス……?」


その声に再び目を開けると、自分を心配そうにのぞき込む陸が居た。

その瞬間、産土の心は大きく揺れる。


(あぁ、そうだ。俺は終わって良くても、陸は――)


あの時――

産土が孤独と恐怖に飲まれながら開廷を唱えたあの時、迷わず駆けつけてくれた陸。


『俺がここに来たのは、FANGだからでも、世界を救うためでもない――』 

『傍に居て、励ましたくてここに来た――』

『もっと巻き込んでよ』


陸の言葉の数々が鮮明に思い出される。


『これが最後なんだろ。――あの人に、会うんだろ』

『俺たちはここで終わる気なんてさらさらない。そうだろ?』


身を挺して、自ら産土のために、巻き込まれに来てくれた陸。

あの時産土は、本当に嬉しかった。心強かった。

どんな言葉でも足りないほど、心から陸に感謝していた。


しかしそんな彼には、「必ず戻る」と兄と交わした約束がある。

そのことを産土は強く覚えていた。

まだ陸を、こんなところで終わらせるわけにはいかない――本心でそう思うが、でも、それでも――


「……」


産土はなんともいえぬ表情で、可愛い弟分の顔を見つめた。

黒髪を強風にあおられながら、ジュニパーグリーンの瞳は不安げに終焉を見あげている。


「陸……」


呼ばれた陸は、産土への心配とこの状況への緊迫で複雑な面持ちだが、産土の声に素早く反応しふと視線をおとした。


「……ん。どうした?」


優しい調子で呼びかけに応じる陸。


「……」


そんな陸を見れば見る程に、産土はどうすべきか余計に分からなくなる。


否、それは分からなくなったのではない――()()()()()()のだ。

諦めかけた命を再び繋ぎとめるべきか、はたまたこのまま終わりを迎えるべきか――。


これまでどんな窮地も、己の意志に基づいて脱してきた。

一度たりとも自分以外の誰かに舵をとらせることはなく、決して意思決定をゆだねずに、産土は乗り越えてきた。


しかし今回だけは、その産土でもどうするのが正解なのか、決断できずにいたのだ。

陸と志乃――産土の頭の中では、そのかけがえのない両者が天秤の上にずっと立ったままだ。


(どうしたらいい……?)


逃げたいとすら思ってしまう。

世界でたった一人、開闢の力を有しているというこの立場から。


産土の目の淵がじわりと水気を帯びる。


「……分からないんだ」


ぽつりと言った産土の目には大粒の涙が溜まっていた。


「……!」


陸は初めて見た産土の涙に、思わず声を失い、目を見張った。

産土の睫毛はまるで夜露が落ちたように涙で濡れていて、底知れぬ憂いの色を宿した金色の目が陸を見上げた。


「どうしよう、陸……どうしよう……分からない」


そう言って涙をぼろぼろと落とす産土を陸はただただ大事に抱き留める。

こんなにも他人に弱さを見せる産土を、陸は初めて目の当たりにした。

だからこそ陸は、今は何も言わずに、産土の弱さ全てを受け入れたかった。


「……いつかくるその日のために、俺達が今できることは――。

ここで終わることなのかな?」


産土の揺れる瞳が陸をまっすぐに見上げている。

朧の記憶を見た陸には、産土の気持ちが痛いほどによく分かった。こみ上げるものが涙となって、陸の視界も潤んだ。

産土が陸の腕を握る力が少しだけ強くなる。


「――“良い人生だったね”なんて……無理矢理笑い合ってさ。

痛みも寒さも我慢しながら目を閉じて……ここで終わること?

陸も、俺も」


言葉とは裏腹に、まるで本能はそれを拒んでいるかのように、陸を揺さぶる産土の腕はぷるぷると震えていた。

陸は酷く切なげな瞳で、言葉を繋ぐ産土を見つめ返す。


「また……いつかは穏やかであたたかな平和が訪れるって望みを託して。

この人生を終えることが――

ここで冷たくなって朽ち果てることが――

それが――世界のため?」


陸は暫く何も言えなかった。

陸にも正解は分からなかった。かといって、産土にかける言葉を探すがそれも見つからないままだ。


周囲では、大地が唸り、空が啼き、多くの命が終焉の渦の中に飲み込まれていった。

それでも吹き荒れる豪風の中、二人の間だけは、まるでそこだけが世界から切り離されたかのように静かだった。


決して考えることを放棄している訳ではない。むしろその反対だった。

しかし、世界が終ろうとしているこの時に、何をすべきかの最適解など、陸には導き出せるはずもないのだ。


「…………わからない」


沈黙の末に、陸がやっと絞り出した言葉はそれだった。

陸は、腕の中で浅く息をする産土をじっと見つめた。


「……」


――もう、眠らせてやった方が良いのだろうか、そんな想いが陸の中をふとよぎる。

こんなにも衰弱した産土を鼓舞してもう一度終焉に向き合わせることが、果たして自分のやるべきことなのだろうか、と。


その時――

陸の頭上に、豪風で飛ばされたブリキ板が差し迫った。


――パァン!!!


それを僅かに視界にとらえた産土は、瞬間陸を逃がすようにして突っぱねた。


「!?」


陸は身体すれすれを吹きぬけていったブリキ板を見て、その状況を理解した。

不意の一突きとはいえ、衰弱しきった産土からは到底想像できないような強烈な力に、陸は驚き産土の方を見た。


一方、やっとの思いで陸を逃した産土はというと、陸を突き放した時の体勢のままじっと動けずに瓦礫の中に突っ伏していた。

陸が掛けてやった上着はべろりとめくれて、青白い背中に開闢の印が無防備に晒されていた。


「……!」


力無く横たわる産土。

つい先ほどまで、終わることが正解なのかと問い、自らの終末を悟ろうとした彼は、今際の際にもかかわらず陸を助けたのだ。


その行動が示すものはまさしく彼の本能が、陸の“生”を望んでいるということ。


(――そうだ。そうだよな)


その姿を見た瞬間、陸はもう迷わなかった。


(俺だって、そうなんだよ……!)


自分の気持ちに正直になることを。


「――でも」


言いながら、震える指先で産土の肩に手を置く。


「大勢の人達にとっての――世界にとっての最適解は分からなくても、

今自分がどうしたいかだけは……分かる気がするんだ」


産土の薄くなった体温をこれ以上逃がさぬように、陸はそっと両手で包み込む。


「……それくらいしか俺には分からないよ」


陸は涙で濡れた頬をふと緩め、そっと顔を伏せる。

そして迷うように、しかし決意のように、産土の背中――開闢の印に額を添えた。

なぜそうしたのかは自分でも分からない。


しかし一つだけ分かっていることがある。

今、目を閉じて、陸は大切に祈るように告げた。




「もっと皆と一緒にいたい」




だって――

『――それが、世界のため?』

そう問うた産土(あなた)の顔が、あまりにも悲しそうだったから。



その瞬間だった。

まるで陸の言葉が“鍵”だったかのように、産土の背中がじんわりと熱を帯びる。


――開闢の力が、開いたのだ。


音もなく、しかし圧倒的な輝きを伴い、眩い白光が、陸と産土を中心に爆ぜるように広がった。


花弁にも羽にも見える光の欠片が、風に乗ってふわりと舞い上がる。

その光は、どす黒い紫で渦巻く終焉のオーデを呑み込み、覆い隠し、まるで世界そのものを書き換えるように、空間を塗りつぶしていく。

終焉は憤怒の咆哮を上げ、開闢は静かにそれを押し返す。

二つの力がぶつかり合い、火花のような光が散った。


一瞬か、はたまた永遠か――時間の感覚が消えるほどの攻防だった。


そして、二つの巨大な力は、最後の最後で均衡を保ったまま、音を立てて弾け霧散し、まるでそれぞれが“元の居場所”に戻るかのように、静かに消え失せていった。




そこには、ただ柔らかな風と、薄明るい空間だけが残った。


こうして世界は――

再び、人類史の終末を覗きこむ淵から、奇しくも引き戻された。


かつて一人の赤子――ウブスナが、この地に突如産み落とされたときとは決定的に異なるリスタートだ。

それは、神から賜りし試しの箱庭でもない。世界平和のためでもない。


背中に開闢の力を宿した産土と、変わらぬ明日を願った陸――

二人のごく私的で、愚かで、必死な叫びが――

開闢をひらき、終焉を押し返し、この大陸を存続させたのだ。


世界は再び続いていく。


たった二人の愚か者の手によって繋ぎ止められた、明日を。

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