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第27話「英雄になるまでは」

ハロワン第27話「英雄になるまでは」


いよいよ白石の派遣日当日を迎えた。

全ては父に認めてもらうため――

打倒レベッカを掲げ、彼女が死地へと赴かんとするその裏では、とある約束が取り交わされていた。


P.S.

個人的に、今回が産土史上一番の男前回だと思ってます。

己の強さを、仲間のためにあんな風に使える産土は、やはり最強の名に恥じぬ男です。

実は皆に愛されているんだよと、白石に教えてあげたくなる回です。


――――――――――――――――――――――――――――――

今回は残酷な描写はありません。


独自用語や舞台設定が多いので、リンク先に解説をまとめています。

物語の進行に併せて随時更新してまいります。

宜しければご覧くださいませ。

https://ncode.syosetu.com/n9351kp/1/

――――――――――――――――――――――――――――――

【第三回討伐派遣 白石出発当日 ―― クロノス本部にて】


重い沈黙が支配する空間に、白石は静かにそこに立っていた。

全身を任務用の戦装束に包み、鋼鉄の扉の前、〈アルテリア〉へとつながる直通エレベーターを待っている。


門下を象徴する、早馬をモチーフとした雄々しい仮面の下、彼女は真剣な面持ちでそこにいた。

馬の鬣を模した意匠が、今日はどこかいつも以上に凛と見える。

これから向かう死地を前に、戦士としての気迫があふれていた。


支度はとうに済んでいた。

あとは、ただこの扉が開き、自分が足を踏み出すだけだ。

今回の任務は、これまでの二度とは違う。

標的は、QK(ロイヤル)ランクのオーデ。人智を超える脅威とされる存在。文字通り格が違う戦いだ。

対峙することが分かっていても、やはり緊張感はひとしおだ。


そして、白石は今回自ら立候補し、この討伐に臨んでいる。まさに狙い通りのポジション。

計画通りにことが運べば、勝算は――ある。

勝てる見込みは決して低くはない。


だが、肝心の“勝敗を分ける瀬戸際”となる場面は、白石自身の意志ではどうにもならない。

運任せ――いや、ほとんど博打に近いと言って良かった。

計画の要となる部分ほど、不確定要素に委ねられている。

そのことが、他の誰でもなく自分自身で立案した秘策であるにせよ、白石の胸を重くした。


「……ふぅ」


白石は心を落ち着かせるように、ひとつ、長く息を吐く。


(……大丈夫だ。何も……問題ない)


いつこの瞬間が訪れても良いように、自分はこれまで日々鍛錬してきた、と白石はこれまでの自分自身の努力を己の中で反芻した。

幾度となく繰り返してきた訓練、何通りものパターンシミュレーションの数々、戦術の最適化――。

今日この瞬間のために、自分は日々を削って積み上げてきた。誇っていい。

肉体も、精神も、今の自分は整っている――彼女は間違いなく、そう思える。


(……絶対に成功させなければ)


これが、最後の試練だ。この任務を果たせば、ようやく父にも胸を張って顔を向けられる。


『QKを倒すまで、顔を見せるな』


――こちらを見向きもせずに背中越しに発せられた、あの冷たい声。

それが、父から発された最後の言葉だった。

以来、白石は父と一度も接触していない。


鮮明に思い出されるのは、あの日の、父との最後の会話だ。


***


【数週間前 ―― 白石邸 応接間にて】


第二回討伐派遣から帰還後、白石は疲れた体に鞭打つって、父親のいる実家に直々に足を運んでいた。

直接、戦果の報告をするためだ。


ラヴィ班所属のFANG(ファング)の〈クグリコ〉の一斉弔いを担当した白石は、きっちり無事にノルマをこなした。

約数百個体ものクグリコを、正味約一瞬間程度で全てさばけたのは、やはり彼女が死神だからできる所業である。


同じ死神仲間は彼女の働きぶりがどれ程大変なものか想像できる分、誰もが彼女に労いの気持ちを持っていた。

しかし、彼女が一番認めて欲しい相手からは、今回も相変わらず罵倒される始末となった。


「父上。只今、オーデ領域より無事帰還いたしました」


白石は屋敷の正装である和装で居間に正座し、父親に報告をした。


「QKは討伐できたのか?」


威圧的な態度の父親に、臆する事なく正直に答える。


「できていません」


父親は嫌味な感じで片方の眉を吊り上げた。


「なんだと? お前、うちの家紋に泥を塗る気か」

「決してそのようなつもりはございません。ただ、今回の任務における私の担当は、前回派遣でラヴィ・アグニシャルとともに殉職した総勢数百名の弔い任務。その際、QKとの遭遇があればそちらを優先して良いとの条件下で臨みましたが、最後まで遭遇は無く、今回もQKの討伐にはいたりませんでした」


白石は感情をのせずに、事実を淡々と分かりやすく答えた。


「御託は聞いてない……まったく前回も遭遇できずのこのこ帰ってきたかと思えば、今回も、とは……引きも弱いときてるな。ならば次は必ずQKを仕留めよ。やるまで顔を見せる必要はない。不愉快だ」


父親はそれだけ言い放つと、後ろを向いてしまった。


白石はその大きな背中に向かって、静かに一礼し部屋を出た。


***


【そして現在――】


(本当に……これを成し遂げたら、父は私を……)


脳裏をよぎった疑問に、思わず手が止まる。

張り詰めていた覚悟が、わずかに揺らいだ気がした。


(……違う、考えるな)


白石は眉間にわずかに皺を寄せると、意識を切り替えるように前を向いた。

そして、エレベーターの呼び出しボタンに指を伸ばす――その時だった。


「おはよ、りんりん」


軽やかで、どこか気の抜ける声が、背後から響いた。

振り返ると、そこに立っていたのは産土だった。

予定では、彼の出発はもう少し先のはずだ。


(……わざわざ、見送りに来たのか?)


彼の佇まいは相変わらず、緊張感とは無縁の風をまとっている。ラフな姿勢で手をひらひらと振りながら、軽やかに白石に近づいてくる。

早馬の仮面越しにじっと彼を見つめる白石は、その様子に思わずわずかに眉をひそめた。


「……なんだ。軽口に付き合ってる余裕はないぞ」


仮面の奥の表情こそ見えないが、声音にははっきりと苛立ちがにじむ。

せっかく整えた戦意が、まるで冷水を浴びせられたように削がれたからだ。


「つれないなぁ、折角会いに来たんだよ?」


産土はいつもの調子で笑っている。飄々として、掴みどころがない。

だが、彼がこうしてこの場所に姿を見せるということ自体が、特別だった。


アルテリアへの直通空間は、クロノスでも限られた者だけに許された特権区画。

ここに立つ者は、基本的に死神か、彼らと血誓(けっせい)を結んだ専属FANGのみだ。

白石のように、専属を持たない者は、FANG部隊とは現地合流が常。ゆえに、この場で誰かと会話を交わすということ自体、彼女にとっては珍しいことだった。


普段は一人で気持ちを整えるための空間。

孤独には慣れているつもりだったが――

この能天気な男の姿を目の前にすると、苛立ちと同時に、どこか心が和らぐのを白石は感じてしまった。

だからこそ、その声には鋭さが滲む。


「……何か、忠告か?」

「ん?」

「非番の日に、何も無しに、こんなところまで会いに来ないだろう」


その問いかけに、産土は肩をすくめて苦笑する。


「まぁね。……りんりんじゃなきゃ、来なかったよ」


どこか茶化すような口調で応える産土を、白石は黙って見上げる。

産土の顔からは、いつの間にか揶揄いの色が消え、ごく自然な穏やかな微笑み――真剣な眼差しだった。

その変化に気付き、白石もまた真っ直ぐに産土を見返す。


仮面越しに見つめ合うその刹那、産土は静かに口を開いた。


「りんりんさ、自信持って行ってきなね」


その一言が、思いのほかシンプルで、白石は一瞬拍子抜けする。


「……え?」


いつものように軽口のひとつでも続くのかと思えば、それきり。

ポケットに手を突っ込んだまま、嫌味なくらい長い脚を突っ立てて仁王立ちする産土は、いつも通りの雰囲気だ。

しかし、見慣れた軽薄な立ち姿なのに、ふっと微笑む産土とその言葉がなぜか今日は深く胸に刺さった。


(……それだけ? ただそれだけのために、わざわざここへ……?)


なぜだか白石には、彼が発したその短い言葉がとても重大な意味を持っている様に思えた。

しかし、その正体は分からない。


余計な同情も、無責任な楽観も、戦術的な忠告の類のどれでもない、ただ同僚を励ますだけの、シンプルな短すぎる激励の言葉。

白石の長い孤独と、彼女の重圧を知っている者だけが発するからこそ、その言葉は特別な力を持っていた。


つくねんとする白石の背中を押すように、産土はもう一度微笑む。


「また今度、話聞かせてよ」


そう言って、産土は軽やかに踵を返した。

背中を向けてそれ以上何も言わず、振り返らずに歩みを進める。


再び一人きりになった白石は、正面に向き直る。

胸の奥に浮かんでいた迷いが、すっと消えていく。

揺らぎがあったとしても、それでも自分は前に進む。その覚悟が、より強く、確かに、根を張ったように感じた。


エレベーターの呼び出しボタンに、静かに指を乗せる。

白石の瞳には、まっすぐな決意だけが宿っていた。


***


【数日前 ―― ラヴィ・アグニシャルの墓標前にて】


ラヴィの墓は、風がよく通る高台にあった。

静かな空気に、風が葉を鳴らし、墓標のまわりに置かれた供花の香りを遠くまで運んでいく。

彼の墓は、いまだに多くの者から手向けられる花や供物であふれていた。語らずとも、その光景は、彼がどれほど人に慕われていたかを物語っている。


墓前にひとり、膝をついて黙とうを捧げている男がいた。

袴をまとう白髪交じりの中年――白石の父であった。


強く握られた両の手は、節くれだった骨張りの指が深く組まれ、ただ祈るように、しがみつくように墓標の前に置かれていた。

その背中には、かつてより“軍の白冠”として名を馳せてきた名門・白石門下を長きに渡り束ねてきた、男の重みがにじんでいる。

眉間に刻まれた深い皺は、長い人生で刻まれた頑固さと揺るがぬ信念の象徴。

そんな男が、今、ただ一人の――

それもいち地方豪族出身の死神の名が刻まれた墓標に、手を合わせる理由など――

たったひとつしかなかった。


ふと、背後から風に紛れて声がかかった。


「……やっぱりここにいましたね」


声の主をわざわざ振り返らなくとも、男はその存在を察していた。

静かに瞼を上げ、ただ風の向こうの墓を見据え続ける。


「予定より早く来ました。話をするには、ここが一番良さそうだったんで」


そう言って産土は後ろから、二歩、三歩と白石父の隣に歩み寄る。

二人の影が、墓前に並ぶ。

しばしの沈黙のあと、産土が無遠慮に口を開く。


「あなたの妙な意地のせいで、娘さん……三日後にオーデ討伐に出ますよ」

「……」


産土の声は、どこか呆れたように、刺さるように落とされた。


「本当に勇ましい限りで……。お望み通りですか?」


父は微動だにせず、ただ目の前の墓標を見つめ続ける。

その揺るがぬ静けさの奥に痛みがあることを、産土は知っていた。


「……それでいい」


重たく搾り出すような言葉が、やっと男の口からこぼれた。

産土は表情を崩さずにため息混じりに言う。


「……ったく、いつまでつまらない意地張ってるんです」


沈黙がまた流れる。


「……俺が、ただのいち腐れ”ダービー”プレイヤーのために、わざわざ会いに来ると思いますか?」


言葉は尖っていたが、その棘の奥には、はっきりとした信頼と確信があった。

その言葉に、白石父の肩がわずかに揺れる。


「アンタが毎回、りんりんにだけベットしてるの、知ってますよ。それで大損こいてることも。他のプレイヤーから馬鹿にされてるのも」


白石父はそれでも何も返さなかった。

しかしその沈黙が何より雄弁だった。


「それでもそうし続けるのは、りんりんが――娘さんが奪還した土地とその所有権を、他の誰でもなく、彼女自身に返すためでしょ」


産土は一歩踏み込んだ。


「ダービーに参加したのは、娘さんが命がけで奪還した土地を、あの賤しいクロノス連中の手に渡さないように守るため……違いますか?」


全てを言い当てられ、父は、ふうとわずかに息を吐き、目を閉じた。

まるで、ようやく腹を括るかのように。己の胸に手を当てるように。


長い沈黙のあと、彼が静かに口を開いた。


「……老人の、つまらん独り言だ。……黙って聞いておけ」


産土は真顔のまま、黙ってその背中を見つめた。


「……ただ、生きていてくれれば、それで良いと思っていた。………だが長らく、言いそびれたのだ」


ぽつりと、男が呟く。小さく、しかし確かに心の奥からすくい上げたような言葉だった。

産土はわずかに目を細め、何も言わずにその背中を見つめていた。


父の肩は落ち、わずかに揺れている。風に吹かれて揺れる墓前の草花のように、彼の影もまた、わずかに揺れて見えた。


「あいつは――凜は、私に認めて欲しくて、ここまで必死にやってきた。全てを我慢して、だ。誰にも頼らず、泣き言一つ言わずに、ただまっすぐに。

逆にだからこそ、ここで妥協することなどできない。今更、父親のこんな本心を聞かされたところで、誰が喜ぶ? 強くなるためだけに人生を捧げてきた者に対して、それはあまりに無礼だろう」


声はかすれている。

それでも語り続ける父親の横顔は、自分の今までを、まるで罪と捉えているかの如く深い懺悔の色を宿している。


「娘は、誰よりも努力している。誰が見ても、誰が聞いても、文句なしに立派だと、称賛されて然るべきだ。

私なんかではなく、そうやってこの世界に認められた方が、娘は結果、幸せになれよう」


産土の眉がわずかに動く。

なんとも不器用な男だ――だが、それが彼のすべてなのだ。


言い聞かせるように語る声が、微かに震えていた。


「そのためには、討伐実績がいる。実績という揺るぎない事実のもと、娘を、英雄にしてやらねばならない。それまでは、この本心を決して打ち明けず、冷徹な父親のまま……それが私の人生の禊だ」


言葉が終わると、白石父はふっと息を吐き、肩をわずかに落とした。

風の音にかき消されそうになるほどに、か細く、けれど確かに、魂を削るように絞り出された本音だった。


産土は思わず、奥歯を噛みしめる。

「それを娘に直接言ってやれよ」と叫びたい気持ちが、喉までこみ上げては飲み込んだ。

無性に悔しかった。

なぜ、こんなにも不器用なのか。

なぜ、ここまで黙ってきたのか。


「私がこんなにも関わらず……娘は、よく腐らずここまで来てくれた。……それは間違いなく、この人のおかげだ」


そう言って、男は静かにラヴィの墓標をまるで敬意を伝えるようになぞった。

白石父の声が、少しだけ、柔らかくなる。哀悼と、深い感謝が混ざりあった声だった。


「言葉は尽くせずとも……私は、娘のことを、見てきたつもりだ。……あの子を一番支えてくれていたのは、きっとこの男だ。太陽のように明るく、道を照らしてくれた……。彼には、感謝してもしきれん」


そして、深く、深く、頭を下げた。

墓標に向けるその敬意と感謝は、口先だけではないことが、ただその姿勢だけで伝わってくる。


「……私には、この男の代わりはできん。……今の娘に、どんな言葉をかければいいのかもわからん……情けない、どうしようもない父親だ。……だからこうして、神頼みに来た」


両の掌を合わせる。


「……私では、あいつを守れない。……どうか、娘に、お力をお貸しください……」


その祈りは、風に溶けて、空へと昇っていった。

沈黙の中で、産土はじっとその祈りの姿を見ていた。目元に落ちる長いまつげの影が、風に揺れる。


やがて、産土は口を開き、本題を口にする。

いつもの皮肉めいた声はひそめられ、落ち着いた響きだった。


「娘さんの担当する相手、戦闘力は低級ですが、どういうわけか執行難易度が極めて高い、特殊な個体です」


そう言って、資料を肩越しに差し出す。

白石父はそれを受け取るが、視線は落とさずただ手元に添えるだけだった。

資料を読む気配すらない。


産土にはわかっていた。

この男は、娘が対峙する敵の情報などに興味はない。

ただひたすらに、またいつもと同じように――娘の勝利に賭けるのみなのだと。


「……今回の賭けに失敗すれば、あなた、今度こそ破綻するんじゃありませんか?」


しばしの沈黙。

臆せず産土の言葉が静かに、鋭く革新に切り込む。


「というか……もはや、“ベットできるもの”すら、残ってないんじゃ?」


図星だった。

父親はこれまでいつも娘の討伐成功に賭けてきた。

全ては、娘の無事を祈る気持ちと、利益とその権利の全てを、娘に譲渡するために。

しかし生憎、これまで過去二回の討伐派遣で、白石はQK討伐の機会に恵まれず、父は賭けに負け続けていた。

そのことを産土は知っていた。


「……それが、どうした」


ようやく、しぼり出すような声。けれどそれは強がりでもなく、投げやりでもない。

ただ静かに、遠くを見るような、少し乾いた声だった。


産土はその声の底に、父が娘にかける祈りの重さを聞き取っていた。

この男にとって「賭ける」という行為は、理屈でも利益でもなく、願いなのだ。

誰になんと言われようとその決意が揺らがないことを、産土はよくわかっていた。

データや理屈を並び立てて説得したところで、この男の決意は決して揺るがない。


ならば――と、産土はその背中に向き合う。


この場で提案することなど、ひとつしかない。


「俺にも、賭けてください」


その大胆な言葉に、白石父の肩が揺れた。

静かに、しかし確かに、息をのんだ音が聞こえた。

思わず顔をあげ、彼は産土の方を振り返る。


「オッズは低いけど、確実です」


産土は手をポケットに突っ込んだまま、背後から吹き抜ける風に髪を遊ばせたまま淡々と続ける。


「それを元手に、娘さんにベットすればいい」


そして、ふっと笑う。

鼻で抜けるような、皮肉と優しさがごちゃまぜになった、産土らしい笑みだ。


「どうせ、あんた……無理してでも娘に賭けようとしてたんでしょ?」


その言葉に、白石父は何も言わなかった。

ただ、産土の想いを受け取るように、彼の言葉をしっかりと聞き、口元をぐっと結んでいる。


風が、二人の間を吹き抜ける。


産土は、コートのポケットから缶ビールを一本取り出すと、ラヴィの墓前にそっと置いた。

それは供物というより、旧友への無言の合図のようだった。


再び、ふたりの肩が、墓前で並ぶ。


「大胆にかけてもらっていいですよ。今日、言いたかったのは――それだけです」


そう言って、産土は振り返らず、静かにその場を離れた。


男は、なにも言わない。

ただその場に、長く、長く、立ち尽くしていた。

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