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第25話「第3回Arc全体会議」

ハロワン第25話「第3回Arc全体会議」


転生も執行も効かない異例の個体”レベッカ”。

その対応を協議する最中、時折、朧が見せる不自然な拒絶の数々に、久遠は一人確信を募らせていく――


P.S.

いつもながら雰囲気の悪い”会議回”、きました。笑

回を増すごとに”世界の核心”に近づく、死神たちの協議――

それを必死に隠そうとする朧――

そんな朧を揺さぶる久遠――


物語後半戦の序章となるような回です。是非!


――――――――――――――――――――――――――――――

今回は、残酷な描写はありません。


独自用語や舞台設定が多いので、リンク先に解説をまとめています。

物語の進行に併せて随時更新してまいります。

宜しければご覧くださいませ。

https://ncode.syosetu.com/n9351kp/1/

――――――――――――――――――――――――――――――

【Arc第二回目派遣から一週間後 ―― クロノス本部大会議室にて】


クロノス本部の会議室は、張り詰めた静寂に包まれていた。

巨大な楕円形のテーブルを囲む面々の視線は、一人の男に集中している。


テーブルの端――産土(うぶすな)が腕を組み、浅く腰掛けていた。

先ほど任務報告を終えたばかりの彼の表情には、珍しく疲労と苛立ちが滲んでいる。


「……つまり討伐に失敗した、と?」


低く重い声が、テーブルの反対側から響く。

声の主は(おぼろ)だ。しわがれた声と険しい面差しが、その長き地位を物語っていた。


産土は鈍く光る視線を向ける。

口元に浮かぶ薄笑いは、明らかに皮肉の色を帯びている。


「失敗? おじいちゃん、俺の話ちゃんと聞いてた?」


低く抑えた声に、棘が混じる。


「執行の手順を踏んでも消えなかったオーデなど、これまで見たことも聞いたこともない」


朧が鋭い視線を投げる。

会議室の空気は一層冷たく張り詰めた。


「はいはい、頭柔らかくしてねぇ〜」


産土は軽く煽るように言い、苛立ちを隠さずテーブルを爪で叩きながら、わざとらしく肩をすくめる。


「固定観念に囚われるのは、歳いってる証拠よ?」


皮肉が走り、室内の温度がさらに下がる。

朧は険しい視線を向けるが、産土はそれを真正面から受け流した。


沈黙を破ったのはダリウスだった。


「産土がやってその結果なら、おそらくここにいる誰がやっても同じ結果になるでしょう」


低く落ち着いた声が、場を引き締める。


「先ほどの報告によれば、産土が読んだレベッカの記憶には執行対象となる罪状は見つからなかった……しかし反対に、転生処理にもならなかった、ということですね」


産土が軽く頷く。


「つまり、そのどちらにも該当しない記憶情報だった、と解釈すべきでしょうかね」


ダリウスは顎に手を当て、目を細める。


「それが事実なら、我々はもう少し柔軟に視野を広げ、執行と転生の二分法では対処できない新しいタイプの存在の可能性についても考えなければならないかもしれませんね」

「可能性としてはある」


産土は淡々と相槌を打った。

そこで珍しく、不意に久遠(くおん)が口を開いた。


「つーかさ、」


頬杖をつき、気怠げな態度のまま、彼がちらりと視線を送ったのは朧だ。


「そもそも、執行と転生以外に方法ってないんですかぁ?」


その挑発的な口調に、朧の視線が細く鋭くなる。

久遠は朧の返答を待つ間も、わざと間を空け、薄笑みを浮かべて言葉を続けた。


「そうだなぁ……たとえばぁ…………ふう――」


「何も無い」


その瞬間、朧が遮るように声を放つ。

まるで久遠が言おうとした言葉を封じるかのように。

冷たく硬い響きが、それ以上の憶測を封じ込める。


「この長い歴史において、御霊の辿る道は執行か転生か、二つに一つ。そのどちらかと決まっておる。例外など考えること自体、先代への冒涜に等しい」


再び静寂が落ちる。


朧の言葉を聞いた久遠は、長い前髪の隙間から彼をじっと見据えた。

その金色の瞳には朧への懐疑心があふれているようだった。

やがて肩をすくめ、薄くニヒルに笑う。


「……そりゃまた潔いご意見で」


皮肉混じりに言いながらも、久遠はそれ以上の追及はせず、今度は産土へと視線を向ける。

細い脚を投げ出し、欠伸混じりに言う。


「ま、聞いたとこ、普通に考えたら転生ルートの記憶だろぉ? なのに転生処理が行われなかった……そりゃその記憶がぶっ壊れてたからだろ。判定に必要な重要箇所の記憶がねぇとか、なんなら記憶自体がデタラメだったとか……要は産土に、偽りの記憶を読ませたって考えるのが自然なんじゃねぇの?」


すらすらと言い切った久遠に、産土は満足げに頷いた。


「流石てんてん。俺もそれが一番しっくりきてんのよ」


しかし和みかけた空気を、朧が断ち切る。


「そんな馬鹿な話が本当なら、それは奴が記憶を操れるということだぞ」


拒絶の色をあらわにする朧に、ダリウスが横から冷静に口を挟んだ。


「その可能性は十分にあるでしょう」


ひんやりとした凪の様に静かなダリウスの声が響く。


「記憶情報を取り扱うのは、何もこちらの専売特許じゃないということですよ。オーデは実に多種多様。記憶を操れる個体がいたとしても不思議ではありません。なんなら、もしその仮説が本当なら、我々は記憶を“読む”ことしかできませんが、あちらは“扱える”分厄介。更に、扱えるということは、その下位概念の“読む”行為は難なくできるものと捉えるのが自然。記憶情報の取り扱いにおいては、レベッカの方が、我々より一枚も二枚も上手(うわて)と考えて良いでしょう」


そこまで聞くと、久遠は再び産土に向き直った。


「それをどうやってんのかは知らねぇが――要は、奴が記憶情報を操作できなくすりゃ、いつも通り執行できんだろ。……トリガーに心当たりは?」


沈黙の中、控えめに口を開いたのは陸だった。


「……ペンダントを……胸のペンダントを触ること、じゃないでしょうか」


その瞬間、産土の背後に立つ陸へ、死神一同とクロノス幹部たちの視線が一斉に集まる。

陸はその重圧に一瞬だけ肩をこわばらせたが、発言した以上はと覚悟を決め、慎重に言葉を続けた。


「報告書にも記載があった通りですが……彼女に特別目立つ行動や言葉はありませんでした。ただ、時折、胸に下げたペンダントを触っていたのを思い出したんです。ただの癖かと思っていたんですけど……ボスが記憶を読む直前にも触っていたので、もしかしたらと」


背後からの陸の発言に、産土は満足げに口角を上げ、すぐに追随するようにして相槌を打つ。


「じゃあ一旦、それをトリガーとして考えてみようか。

報告書にも書いたけど、“記憶”を使った攻撃も、その他の物理攻撃も向こうからは一切無し。レベッカは基本“逃げ”に全振り。唯一厄介なのは瞬間移動の力。これのせいで、今回も首輪をかけるまでにだいぶ手こずった。

問題は――仮にペンダントに触れることが能力のトリガーだと分かっていても、それを触らせないためには、奴よりも早く、動きを封じる必要があるってこと。……骨が折れるね」


「しかし、最終的には鎖を繋げられたのでしょう?」


ダリウスが冷静に問いかける。


「ならば、その要領でまずは彼女の四肢を切断して動きを封じれることに注力すれば、不可能ではないのでは?」


産土は首を横に振る。


「いや、多分それは無理。狙いを首から四肢に変えたところで結果は変わらない。

俺がレベッカと接触できた最初で最後は、()()()()()()()()だ。……んで、それができたのは、恐らくレベッカが“もう記憶を読まれてもいい”と思ったから。

つまり、こちらが彼女に触れることができるってことは、イコール、彼女の中では記憶の改竄が完了したってことだと思う。最初から戦闘に入らず会話を続けたのも、記憶をどう書き換えるか考える時間稼ぎってとこだったんだろうね」


産土が言葉を終えると、会議室には重苦しい沈黙が落ちた。


その沈黙を破ったのは、ずっと黙っていた白石だった。

静かに手を上げ、短く告げる。


「彼女を……私にやらせてくれないか」


この絶望的な状況に、何か突破口を見出したのかと、全員が驚いたように白石を見る。


「あれ、りんりん。何か秘策あり?」


産土はいつもの調子で問いかけるが、その声には期待とわずかに心配の色も混じっていた。


「あぁ」


白石は産土の方をちらりと見て短く返事をするだけで、この場でそれ以上は説明しようとしない。


「勝算はどの程度です?」


ダリウスの冷静な問いに、白石は即答した。


「分からない」


その答えに朧がふんと鼻を鳴らし、嘲るような態度を取る。

しかし、白石は意に介さず続けた。


「だが、読み通りにいけば、ほぼ確実に仕留められる。そして、これは私にしかできない」


他のメンバーは、その自信の根拠を探るように白石を見守っている。


「ふむ……」


ダリウスは顎に手を当て、思案顔で問う。


「しかしどうやって仕留めましょうね?対象は瞬間移動を使います。となると他のオーデの様に、活動領域の特定も難しい。現に今回の産土も、事前には出没情報のないエリアでの偶然の遭遇。神出鬼没で、遭遇するだけでも至難の業ですよ」


その問いに答えたのは、意外にも陸だった。


「それなら、多分心配ありません」


確信を帯びた静かな声で、陸が顔を上げる。


「どういう意味です?」


ダリウスが眉を寄せる。


「レベッカと遭遇した時、彼女はゼファルグの墓参りをしていました。なら彼女は、あの場所に、また必ずお供えに来るはずです。そしてそれは……十中八九、今から十日後でしょう」

「……その、根拠は?」


ダリウスの鋭い眼差しを受けても、陸は落ち着いて答えた。


「その日は、ゼファルグが執行されてちょうど二度目の“幽澄の日”だからです」


明らかに白石の背を押すその言葉に、白石ははっとしたように陸を見る。

幽澄の日は、この大陸の大部分の地域で古くから執り行われるもので、死者を敬い鎮魂する日として認知されている。


「……尤も、レベッカにその習慣があれば、の話ではありますが……」


言い切った後、少し自信なさげに目線を落とす陸だったが、久遠は思わず「ひゅ〜」と口笛を鳴らして反応した。


その一瞬緩んだ空気を断ち切るように、朧が低く重い声で白石に言い放った。


「待て。対象は記憶を操る力を持つ。その意味を……お前は分かっていないな」


朧の視線が鋭く細まる。


「もしお前が、その中途半端な根性で妙に生き延びでもして、向こうに利用されたらどうなる? こちらの記憶を読まれれば、我々の策がオーデ側に筒抜けだ。それこそ最悪の事態だ。……ならば、いっそ潔く死んでくれた方がまだマシよ」


冷酷な眼差しが白石を射抜く。


「失敗は許されない。失敗すれば死神失脚はおろか、白冠(はっかん)剥奪――いや、敵対勢力への情報漏洩の罪で処刑台行きだ」


まるで脅迫めいた朧のその言葉は、会議室の空気をさらに重たくよどませた。

しかし白石は、その重苦しい空気の中、一切動じず、揺るぎない声で答えた。


「構わない」


その動じぬ彼女の無表情が気に入らないのか、朧は眉を吊り上げる。


「成果をあげたくて必死か?」


嘲りを混ぜた声にも、白石は淡々と返す。


「何とでも言えばいい。私には成功のビジョンしかない。……しかしもし仮に、貴様の言ったような最悪の事態を招くくらいなら、自死でも何でもしよう」


その言葉には、産土も久遠もわずかに息を呑む。


(たかむら)の言う通り、十日後にポイントに付けるよう、派遣の手配を進めてほしい」


白石は毅然ととした態度でクロノス幹部に指示を出す。

朧は面白くなさそうに鼻を鳴らし、他の面々に視線を向けた。


「……他の者の出発はいつになる?」

「私は骨がくっつけばいつでも」


悪夢のオーデとやり合い、重傷を負っているダリウスは、包帯の巻かれた腕をひょいと軽く掲げて淡々と答えた。


「てか、いいかげんおじいちゃんが行ってくれてもいいんですよー?」


かったるそうに耳を下記ながら産土が、横から口を挟む。


「朕は大陸の執務で忙しいのだ。そんな暇はない」

「はいはい、またそれね」


産土があきれたように舌を出し、嫌味たっぷりの表情で受け流す。

朧は更に追い打ちをかけるように、わざとらしく目尻を下げて言い放った。


「貴様こそ、執行できずに尻尾を巻いて帰った汚名返上を急ぐといい」

「言ってろ、禿げ」


軽口を交わす産土から視線を外し、朧は白石を見据える。


「白石、出発まで時間があるな。父君のところへ顔を見せに行ってやるといい。……これが最後の任務になるかもしれぬのだからな」


嘲笑を含んだ言葉に、白石はわずかに表情を曇らせた。


「父との再会はQK(ロイヤル)の討伐後と約束しているのでそれまでは必要ない。……自室に籠もって次の作戦を練るとしよう」


朧はわざとらしい笑みを浮かべ、幹部に指示を出す。


「それはいい。待機中に他の任務は入れぬよう十分に配慮してやれ。作戦成功のためだ」


その一連のやり取りを、久遠は何も言わずにじっと見つめるだけだった。

背後の高嶺も、何かを思案している主の背中を静かに見つめていた。

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