プロローグ「はじまりの日」
残酷な描写はまだありません。
独自用語や舞台設定が多いので、リンク先に解説をまとめています。
物語の進行に併せて随時更新してまいります。
宜しければご覧くださいませ。
https://ncode.syosetu.com/n9351kp/1/
太陽が照り付ける。
人間の痛みなど意にも介さないような灼熱。
大地はじりじりと焼かれ、地表は熱気で小刻みにうねり、陽炎の向こうの景色は輪郭をゆがめている。
その中を――今日も一人、歩いているのは、まだ幼い痩せた小さな影。
固く乾ききって、干ばつでひびの入った大地のような唇を固く結び、誰に教わったのか、こぼれ落ちないよう必死にバケツを運んでいる。
とぼとぼとした足取りで、渇きを癒してくれぬ己の影に恨めしく目線を落としながら。
くたびれた雑巾のような服に覆われた身体は、骨と皮ばかり。日に焼けた四肢はところどころ皮がむけている。
一体どれほど歩いているのだろう。
両手に持ったバケツの持ち手は、細い指のスキマから今にも滑り落ちそうで、貧相な針金のような腕が、その重みに耐えられていることはもはや奇跡にちかい。
ただひたすらに、歩く。
うねる灼熱の大地を、裸足で。
痛くはない。既にぼろぼろの足裏は、いつしかその熱に慣れてしまって、もう痛みも感じなくなっているのだ。
胸の奥底に秘めた、たった一つの願いを込めて。
耐え難い喉の渇きに、手にしたバケツに何度も唇を寄せたくなった。
しかし、それすら我慢して、ただ、ただただ歩くのだ。
歩いて、水を運ぶ。
そうすればいつか――と、信じていた。
信じていたのだ。