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20話 そちら側

 剣を構えるジンとジャイアント・オーガは、しばらく互いの懐の内を探るかのように牽制し合う。

 彼は、震える手をなんとか力強く握り締めて誤魔化した。


「……っ!」

(早く片付けてアキラたちのほうに行かないと、向こうでも魔獣が出ている可能性があるな…)


 痺れを切らしたジャイアント・オーガが、ドスンドスンと地面を揺らしながら彼のほうへと走る。

 咆哮とともに振り上げた棍棒は、瞬く間に大地に叩きつけられた。

 その動きの素早さと力強さに、ジンは躱すことで精一杯で、しばらく防戦一方という状態が続いてしまう。

 棍棒が振り回されるたびに、その風圧が彼の黒髪を揺らし、頬を切る。

(くそ…っ、このまま躱し続けていても意味がない…!何かこいつの攻撃を止める手段は…!)

 そう考えながら、ジンはジャイアント・オーガの縦の大振りを横に躱すが、それは地面に着く前に止められる。


「フェイント…⁉︎」


 それは続けて彼の横腹を狙い、振り抜かれる。

 その不意打ちに彼は対応しきれず、剣で受け止めようとするが、あまりにも強力な力に吹き飛ばされてしまう。

 壁に叩きつけられ、意識が朦朧とするが、なんとか立ち上がる。

(なんてパワーだ…まともに食らったら、命がいくつあっても足りないぞ…)

 これが強者の余裕というものなのだろうか、無防備な彼を襲うことはなく、ジャイアント・オーガはただただ口角を上げるのみだった。


「これを乗り越えなければ…俺は…っ!」


 歯を食いしばるジンの握る剣から、何やら不気味な黒いオーラが漏れ出す。しかし、彼はそのことに気づかぬまま走り出す。

 攻撃を受け流し、相手の懐に入った彼は剣を振り上げてジャイアント・オーガの腕を斬り落とす。

 膝をついたそれの断末魔のような叫びがその場に響き渡るが、彼の動きが止まる気配は無かった。

 隙を見て背後を取ったジンは、自分の勝利を確信し、満身創痍で飛び出す。


「これでラストだ‼︎」


 勢いよく突き出した剣が、見事相手の身体に深く刺さる。返り血を浴びながら勝利を確信するが、それは残った片腕で容易く引き抜かれてしまった。


「——オマエ、ゴロスゾ」

「こ、こいつ、喋ったのか…ッ⁉︎」

「ユルザナイ、カクゴシロ」


 立ち上がるジャイアント・オーガから慌てて距離を取ろうとするが、素早く振り抜かれた棍棒に反応出来ず、彼は再び攻撃を食らってしまった。

 地面を擦りながら壁際まで飛ばされた彼の視界は、段々と暗くなってゆく。

 呼吸をすることすらも辛く感じるほどの激痛が、彼の全身を支配する。

(俺はここで死ぬのか…?エル兄と同じように、こいつにやられるのか…?)

 吐き出した鮮血が地を赤く染める。


「——オマエ、ジネ!」


 瞼を閉じる彼の瞳に最後に映ったのは、思い切り棍棒を振りかぶるジャイアントオーガの姿だった。

 しかし、ジンを目掛けて振り下ろされたはずの棍棒が、何故か大地に転がっていることにジャイアント・オーガは首を傾げる。


「…オレ、オチャメ。ツギハ、ゴロス」


 それを拾い上げろうとしたとき、残っていたはずのもう一本の腕が足りないことに気が付いた。

 予想外の出来事に気が動転しそうになるが、その前に何故か息絶えてしまい、ジャイアント・オーガはジンの隣に倒れる。


「ダメだよ、この人を殺したら。それは僕が許さないよ?……ねぇきみも、そちら側ではないはずだよ?」


 突如現れた少年が、意識を失ったジンに向けてそう言い残した。


 ・ ・ ・ ・


 月明かりが街を照らし、大人たちが酒を楽しみ賑わう頃、小さな歩道橋の下で男二人が何やら言い争いをしている。


「あの魔法が禁術だったなんて聞いてないぞ!」

「落ち着きたまえよ、アゴハくん。僕は、きみが望む通りに力を…そして知識を与えただけだ。それをどうするかは、きみ次第だと言ったはずだろう?」

「…っ!だからって禁術を教えるヤツが居るか!」

「はぁ、こっちだってタダでやってるわけじゃないんだ。僕は研究の結果を知りたかった。きみは強大な力を得られ、僕はその結果を知れる——何か問題でも?」


 アゴハは返す言葉が見つからず、ただ舌打ちをした。

 その話の相手は影で隠れてしまっており、彼からは姿が見えることはなかった。

 しかし、コツコツ、と足音を立てながら歩み寄り、ようやく姿を現した。

 黒のコートで身を包み、フードを深く被るだけでなく、仮面まで着けて顔を隠している。


「…相変わらず悪趣味だぜ」

「どうも人が苦手でね、こうしていないと落ち着かないんだよ。…ところでアゴハくん、きみはなんの為に行動している?」

「……ダグリス様の目的の為——」


 そう答える彼の瞳からは、まるで感情を全て失ってしまったかのように光が消え去ってしまっていた。


「良いだろう。きみは、これからも彼に全てを捧げるんだ。肉体も、精神も」

「はい、喜んで……」


 アゴハがそう答えるのを確認し、男はその場を後にした。


「彼はまだ使えるかな」

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