18話 開拓者
「…にしても、なんで俺たちがこんなことしなきゃなんないんだ…?」
「卒業してギルドに所属したら、魔窟調査なんて毎日のようにすることになるのよ」
「開拓者にならずに花屋にでもなろうかねぇ…」
「あんたのその顔じゃ、花なんて似合わないわよ」
ぐだぐだと文句を垂れるアキラに、サラが冷たく言う。そんな彼らを含め、ジンとクリスも共にこの魔窟へとやって来ていた。
厄災の話を学園長から聞いたリリーが、いつものように突然生徒たちに提案したものであった。
セトラーと呼ばれる開拓者たちが一度調査し終え、学園の生徒が入っても危険性は無いと判断したものを、二組のバディで再調査するというものだ。
一度人間が潜入したとは言えども、魔窟は際限なく魔獣を生み出し続ける。まるで、失った命の数だけをちょうど補うかのように。
四人は薄暗く、岩肌の露出した細い道を奥へ奥へと進む。
そこで、とある質問をジンが投げかける。
「こういうことは、俺が編入する前からよくしていたのか?」
「いいや、これが初めてだな。俺たちが入学してからもう一ヶ月は経ったが、今までこんなことはなかったぞ」
アキラがそう答える。
「…まぁ、どうせ皆んなも、子どもの頃から魔窟には入ってただろうし慣れてるだろ?」
ジンの言葉で、一同が『えっ…?』と声を漏らして凍りついた。
どうやらやはり、彼は一般人とはかけ離れた常識を持っているようだ。そんな彼に、サラが問う。
「はぁ⁉︎子どもが魔窟に入るわけないじゃない!もしかして、ジンくんは行ってたの⁉︎」
「えっ…と、俺は兄とか町の人とかの付き添いでよく行ってたんだが、普通はそうじゃないのか…?」
「そんな危ないこと、世間は許してくれないわよ…。魔法は上手く使えないし、剣の扱いだって慣れていないのに…」
「そういうものなのか…?」
いかに自分が世間とは違うのかを痛感する。
「ジンに私たちの常識は通用しないのよ」
「確かに、クリスちゃんの言う通りかもしれないわねぇ…。そんな人がバディって、なんだか心強そうで羨ましいわ」
「へいへい、サラの言う通り、どーせ俺は役立たずですよ」
「ごめんってアキラ、そういう意味じゃないからぁ!」
そんなやり取りに、全員が声を上げて笑った。
緊張感などは微塵も無いのだろうか、軽い足取りで次々と先へ進む。
奥へ進むにつれ穴が広くなり、終いには大男が数十人並ぶ程度では埋まらないほどになっていた。
冷たい空気が鼻を通り、少し肌寒さを感じるようになる。
「——ねぇ!あそこに今誰かいたよ⁉︎」
会話が途切れた頃、サラが遠くのほうに小さな人影を見た。
「んん、誰もいねぇじゃねえか…。先生かなんかが隠れて見守ってくれてんじゃねえの?」
アキラがそう答えながら、サラの指差すほうを見るが、彼の言う通りそこには誰も居なかった。同時にクリスとジンも目をやるが、やはり人間はおろか、魔獣さえ見当たらない。
(う〜ん、見間違いなんかじゃないと思うんだけどなぁ…)
サラは自分が見た人影を、教師や兵士など大人のものではなかったと考えて気にかけるが、今は他の三人に意見を合わせることにしておいた。
しばらく進み、何処からともなく聞こえてくる魔獣の唸り声に彼らは足を止め、誰に指示されるでもなく近くの岩陰に身を隠した。
視認できる魔獣は二体。それらが居る場所のみ広場のようになっており、そこは魔獣たちの縄張りとなっているようだった。
それらは白い毛の生えた狼のようなもの——ホワイト・ウルフで、自分たちの縄張りを見張るかのように、周囲を見渡している。
その嗅覚は人間の数十倍は優れているものだと知っていた彼らは、自分たちの居場所がバレてしまうのも時間の問題だ、と決意を決めた。
その中でも、一番目の特攻を名乗り出たのはジンだ。
「…俺がまず最初に飛び出して、ホワイト・ウルフの注意を引きつつ傷を負わせる。その後は…頼んだぞ」
三人とも『了解!』と声を揃えた。
そして、ジンの立てた三本の指がゼロになるとき、彼は宣言通りに飛び出した。
「こっちを見ろ…っ!」
飛びかかってくるホワイトウルフたちの腹の下を、姿勢を低くして『バウンドもどき』を使うことで上手く潜り抜ける。
このときにジンに腹を斬りつけられ、二体とも怒りを露わにさせた。
「——今だ!やってくれ!」
ホワイト・ウルフたちはジンを睨みつけるが、その無防備な後ろ姿に、剣を抜いた三人が襲いかかる。
一体は、アキラとサラで難なく倒すことができたのだが、クリスのほうは相手の反応が速く、後方へ跳ねることで斬撃を躱されてしまっていた。
しかし、彼女は着地する直前を狙い、もう一度剣を振り抜き、無事全てのホワイト・ウルフの討伐が完了した。
「ま、こんなものね」