15話 十三年前の厄災
薄暗い校舎の中、職人による繊細な装飾の施された分厚い木造の扉を一人の女性がノックする。
「入りたまえ」
その声を確認すると、彼女は恐る恐る中に入る。
ギギギ、と軋む扉を閉めて、奥に座る男の前に立った。その男は彼女に背を向けたままで、なぜだかずっと遠い目をして窓の外を眺めている。
「…リリーくん、忙しいところ申し訳ない」
「構いません。それで話というのは、ジン・エストレアのことでしょうか…?」
「いいや、今回は彼のことではなく、ワシの見た夢についてじゃよ」
「夢…というとこは、何か視えたのですか⁉︎」
「嫌な夢じゃ。街に魔獣が溢れかえり、人々は悲痛な叫び声を上げながら逃げ惑う。木々は焼かれ、崩壊した街には、幼子の泣き声が響き渡る…」
夢で見た光景と、窓の外に見える景色を重ねる。
「それだとまるで十三年前の…!」
「”厄災の日”と同じじゃな。知っての通り、ワシの予知夢が外れることはない。必ず厄災は訪れる。街を守れ、とまでは言わないが、自分たちや大切な人たちを守れるよう、生徒たちの指導を頼む」
「……っ、承知しました。それでは、失礼します」
リリーは、眉を顰めたまま部屋を出た。
厄災を経験した彼女には、受け入れ難い事実だったのであろうが、学園長の話を疑うことはしなかった。それほどに、彼の予知夢というものは正確なのだ。
原因不明の厄災を未然に防ぐ手立ても無い現状に、彼女は頭を抱える。
「…予知夢というのも、良いことばかりではないのぉ。避けられぬ運命を知るというのは、非力な人間には酷なことよのぉ…。老骨は大人しく死を待つべきか、それとも——」
学園長は一人呟きながら机と向かい合い、引き出しを開けた。
そこには古びた短剣が入っており、彼はそれをそっと取り出して見つる。
(奇跡を待ち、望むだけならば愚者にもできる、か…)
「——以前、お主に愚者と罵られたこともあったかのぉ…」