プロローグ
300年前、世界は一度終わりを告げた。
魔王を名乗る七体の脅威とそれの眷属によって世界は滅亡寸前まで追い込まれ、人々はなすすべなく魔物に蹂躙され、終わりを待つのみだった。
ただ、ある時不思議な力を宿した七人の少年少女が現れた。
その力は神から授かった力で精霊と契約することで行使できる魔法というものだった。
彼らはその力で次々と魔物たちを薙ぎ倒し、とうとう七体の魔王までも退け、人類から英雄として讃えられた。
追い詰められた魔王たちは地下に逃げ延び、各地で迷宮を作り出した。
七人の英雄は再び訪れるであろう魔王の脅威から世界を救うため、選ばれたものが精霊の加護を受けられるように世界樹「ユグドラシル」を作った。
以降、ユグドラシルで精霊の力を得たものたちは「精霊魔法士」と呼ばれ魔王の復活を阻止すべく、迷宮攻略を目指した。
そして、七人は代々引き継がれ「英雄の七精霊」と呼ばれ精霊魔法士たちを導く存在が生まれた。
英雄の七精霊は精霊魔法士たちの憧れであり、英雄の象徴だった。
そして、300年後の現在。同じように英雄の七精霊を志す一人の少年がいた。
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「諸君。まずは入学おめでとう。」
「わしは本学院長、モーガン・キリシュタリアである。」
ーーそう。今日はここ、精霊魔法士を育成するための機関『ノイシュタイン精霊魔法学院』の入学式だ。
精霊魔法学院はその名の通り、精霊と契約して魔法を学ぶための機関である。
この学院で力をつけて、才能を認められれば精霊魔法士になることができる。
「これからの4年間、諸君らの頑張り次第で如何様にも将来が決まる。」
「精霊魔法士になって迷宮を攻略するもよし、魔法局で自分の研究をするもよし。この世界は無限に満ち溢れておる。」
この世界は300年で大きく変化した。精霊の力「魔法」は魔物を倒すだけのものではなく、魔法を用いることで物を温めたり、暗い場所に灯りをつけたり、非魔法士の生活を支えるために開発されたのが魔道具だ。
魔道具は世界に普及し、今や生活に欠かせないものになっている。
「仲間と切磋琢磨し、自分の目指す夢をぜひ叶えてほしい。」
「諸君らに精霊の導きがあらんことを。そして、願わくば英雄の七精霊に至らんことを。」
ーーそうだ、絶対になるだ。英雄に。
「これにて、入学式を終了いたします。新入生の皆さんは引率の先輩に従ってください。」
公道を後にした新入生たちは、先輩の生徒に連れられて屋外にある大きな大樹の根元まで移動した。
大樹の根元には空洞があり、そこには地下につながる階段が用意されていた。
「これは偉大な世界樹『ユグドラシル』の分体です。」
世界樹「ユグドラシル」。300年前、英雄の七精霊が作ったとされる大樹。
そこでは選ばれしものに精霊の力を与えるとされている。
この世界にはユグドラシルの力を分け与えられた分体があり、そこで同様に精霊に力を授かることができる。
そして、今目の前にある大樹に訪れたということはそういうことだろう。
周りの新入生たちも何やらそわそわし始めた。
「これからみなさんを地下の契約の間にご案内します。詳細はそこにいる先生方から説明があります。」
「それではついてきてください。」
大樹の中は思いの外明るく暖かい。壁には灯りの魔石がつけられているからだろうか。
石畳の階段を一段一段進んだ一行の先には地下とは思えない大きな空間が広がっていた。
ーーここが契約の間。
壁中には光源、真っ白な石畳の中央には大きな魔法陣。そして、魔法陣の上には台座が用意されていた。
「ようこそ、新入生諸君。私はケビン・ハイザック。君たちの担任教師だ。」
「もう知っていると思うが精霊魔法士はその名の通り、精霊と契約することでその力を行使することができる。」
「逆に言えば、精霊の力がそのまま君たちの力になる。」
ひとくくりに精霊と言っても様々な精霊がいる。
精霊には大きく分けて、低位種、上位種、幻獣種、竜種の4種類が存在する。
そして、精霊ごとに司る属性も多様だ。
火、水、風、土、雷、光、闇の7属性に派生の属性がいくつかある。
「入試の際に魔力測定をしたと思うけど、精霊は君たちの魔力の量・質・属性に呼応されて顕現する。」
ーーここで最低でも上位種以上の精霊と契約できればきっと。
「それじゃあ、君たちも我慢の限界だろうから早速契約の儀にうつろうか。」
「まずは誰から…」
ケビンの声を遮り一目散に手を挙げた生徒がいた。
鮮やかな青い長髪、透き通った空色の瞳の少女だ。
「君はたしか。」
「ステラ・アインシュタットです。私から行かせてください。」
「そうか、君は。いいだろう、祭壇に上がりなさい。タイミングは任せるよ。」
ケビンの言われる通り、祭壇に向かうステラ。
瞳を閉じて大きく一息深呼吸をすると右手を突き出し詠唱を始めた。
「我が贄、テミスの天秤、全てを汝に捧げん。求めるは力。汝、我が呼びかけに答えよ。」
魔法陣が青白いく発光し始めた。
ーーまさかこれって上位種以上の精霊なのか。
「この光。まさか初めから『幻獣種』を引き当てるとは。血統かな。」
ケビンは目の前で起こる現象に子供のように興奮していた。
光が徐々におそまっていき恐る恐る目を開けるとそこには上半身が馬で下半身が魚の美しい幻獣がいた。
「水属性の幻獣種。ケルピーだね。」
ステラはケルピーにそっと手を近づけると大人しく頭を近づけてきた。
するとケルピーは発光してステラの手の甲に吸い込まれていった。
「おめでとう。契約成立だね。」
「ありがとうございます。」
ーー幻獣種と契約できたのに嬉しくないのかな。
ステラは表情ひとつかえず壇上を後にした。
「今の人すごかったね。幻獣種と契約しちゃうなんて。」
「あ、ごめん。急に話しかけて。私、シャルロット・ミドガル。」
隣から明るい茶色の髪色、緑眼の少女が話しかけてきた。
「僕はアウル・ヴィルへイム。」
「幻獣種の数は珍しいからね。竜種なんてなおさらさ。」
「へえ、そうなんだ。詳しんだね。」
精霊は一度契約すると主人が死ぬまで離れることができない。
幻獣種は数が少なく契約できるものも稀だ。
竜種に限っては同様の個体と契約できた例がないくらいだ。
「それじゃあ、順番に契約をしていこっか。」
各生徒たちは順調に精霊との契約を結んでいく。
そして、アウルの順番が回ってきた。
「では、アウル・ヴィルへイムくん。祭壇へどうぞ。」
「はい。」
緊張した趣でそっと祭壇へ足を進める。
ここで自分の人生が決まる。これから先の人生、将来、夢。全てかが決定する瞬間。
アウルの緊張がその場にいた全員に伝わったのか。
先ほどまで一緒にいたシャルロットも固唾を飲んで見守っていた。
祭壇にたち深呼吸と共にそっと腕を伸ばした。
「我が贄、テミスの天秤、全てを汝に捧げん。求めるは力。汝、我が呼びかけに答えよ。」
すると、魔法陣が今までにないほど発光し始めた。
その眩しさにその場にいた全員が目を覆うほどの眩しい光。
「この発光の仕方は幻獣、、いや竜種か!?だが、発光色がない。これは一体どうゆうことだ?」
何年もこの学院に勤めていたケビンは幾度もこの契約の儀に立ち会ってきた。
本来、契約の際に発光する光でその精霊の属性がわかる。
火属性なら赤、水属性なら青、光属性なら黄色。
そのため、今目の前で起こっている光景は不可解だった。
「アウル・ヴィルへイム。君は一体、、。」
光が徐々に収まり、全員が発行元であるアウルへ目線を合わせた。
そして、そこにある光景に唖然としていた。
「え、、。」
発光が終わった、そこにいるはずの精霊。
しかし、アウルの目の前には契約の義の前と何も変わらない光景が視界に映っていた。
「精霊が顕現していない。まさか、そんなことがるのか?」
「そんなことって一体なんですか!?」
動揺を隠せないアウルはケビンの呟いた言葉に反応した。
「契約失敗。」
ーー嘘でしょう!!!!!!!
ここからアウル・ヴィルへイムの英雄譚が始まった。
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