ランキング御礼SS コンラート・サイラス
やっぱり勢いで書きました!
6/13ランキング一位ありがとうございました!
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです
――まただ。また……。
その日も僕は魔力切れで倒れていた。
ぶっ倒れるまで魔術を使い続けるのは悪い癖だな。
だが、求める効果を確認するためには検証する時間が必要だったのだ。
「あの、大丈夫ですか……?」
ふと目だけで見上げると、そこには同じ師匠の元で訓練をしている兄弟弟子の少女の顔があった。
「大丈夫だ。少し休めば立てるようになるだろう」
「でも、きっと魔力切れですよね? 少しあげます」
そう言ってその子は僕の肩に手を置くと、魔力を送ってくれた。
みるみる元気になる僕の姿を見て、その子はにっこりと嬉しそうに笑った。
その顔がなんだか眩しかったのを、僕は今でも覚えている。
可愛い子だな、その時はそう思っただけだったけれど。
数年後
「第三王女さまがまたお前を指名してきている。いいかげんお呼びに応えないとそのうち怒りだしてとばっちりをくうのは私たちなのだぞ。王女の家庭教師など光栄なことではないか」
「でも嫌ですよ。どうせ僕の顔が目当てなんです。行ったって魔術の勉強なんてする気がない上に僕にベタベタ触ってくるんですよ?」
「仕方なかろう。適当に相手をすればよい」
「嫌ですって。そんなの時間の無駄だ。それに下手に愛想良くしたら愛人にされてしまうかもしれないじゃないですか!」
「そうは言っても王女さまからの命令なのだぞ。王女さまが気に入るほどの顔の良い若者もほかにいない。どうしても王女さまから逃れたかったら、もう結婚でもしてしまうほかなかろうよ。だがどうせ相手もいないのだろう。諦めろ」
「……結婚ならしてもいいですよ? 彼女となら」
そう言って僕が指名したのは、あの時からずっと気になっていた子だった。
気がついたら目で彼女の姿を追うようになっていた。
気がついたら彼女の笑顔が見たくて、必要もないのによく周りをウロウロしてしまう自分がいた。
成長した彼女は可愛くて、誰にでも優しいから皆から頼られていた。
そんな彼女に話しかける男の存在が僕はなんだか嫌だった。
ほかの兄弟弟子が食事に誘っているのを見た時は、その兄弟弟子のことが嫌いになった。
彼女を独占したい。
そう思うようになったのはいつからか。
「あの子は……同意するかわからんぞ? お前とはそんなに仲良くないだろう。それより第三王女の機嫌をとれ」
「仲良くないのは彼女が忙しすぎるからでしょう。知っていますよ? 彼女にまた山ほどの護符を作らせているのを」
「! あの子が言ったのか!?」
「いいえ? でも知っています。彼女の護符がとんでもなく効くからって大量に作らせて、それをあなたがとんでもない金額で売っているのをね。なのに彼女には普通の護符作成の手間賃しか払っていない」
「いや……それは……そうだな、お前、何がほしい」
師匠はじろりと僕を見た。
まさか彼女の護符を使って裏で私腹を肥やしていることを、知られているとは思わなかったのだろう。
だから言ってやったのだ。
「僕はあの子が欲しい。彼女以外の女性なんて、たとえ第三王女でもくそくらえだ」
その結果、僕は彼女を手に入れた。
彼女が僕を愛しているわけではないというのは知っていた。
でも、それでも欲しかったのだ。
彼女が毎日僕に笑いかけてくれるのが嬉しかった。
彼女がいつも僕を見つめ、人には僕を夫だと紹介し、一緒に家に帰れるだけで満足だった。
誰よりも早く「おはよう」と言い合って、一日の最後には「おやすみ」と言い合えるだけで僕は幸せだったんだ。
きっとこのまま仲良く暮らしていけば、そのうち彼女も僕のことを好きになってくれるのではないか、そんな期待も少しだけしていた。
まさか、あんなに早く別れてしまうとは思わなかったんだ……!
「私も若かったよなあ? アルベイン、そうは思わないか?」
ふと書類仕事の手を止めて、そう呟く僕にアルベインは、
「は? いきなり何を仰っているんです。今も十分若いでしょう」
すっきりと整ったその顔に困惑を乗せてそう言ってくる。
「いや、年齢のことではないんだ。なんというか、経験的にだな」
「何を仰っているのかわかりかねます。それより今度ある『神託の乙女』たちとの謁見の後についてですが、殿下が『神託の乙女』たちに会う前からもうお相手を決めていると思われるのはあまりよろしくありません」
「でも私の気持ちは変わらないぞ」
「それはわかっております。しかし乙女たちの中には熱烈な殿下のファンもいらっしゃいますので、いらぬ憶測や疑惑や問題などを起こさぬように、しばらくの間はみなさまと平等に交流をしたという事実は作っておいたほうがよいかと」
「私はすぐにでも発表したいんだが。それに私が早く決めた方がお前も意中の彼女により早く告白できるぞ?」
僕はこのやたらと顔のいい側近が、誰を好きなのかを知っていた。
その人が「神託の乙女」に選ばれたことにショックを受けていることも。
しかしこの仕事中毒気味の側近は、そんな僕の言葉にも冷静な顔で言った。
「彼女はあなたが好きなんですよ、殿下。なのにその殿下にフラれた直後に私が告白しても上手くいくとは思えません。それよりもそこまで把握していらっしゃるなら、彼女にはその気もないのに気を持たせるようなことはしないであげてください」
おお、この僕に山ほどの仕事を笑顔で強いてくるような男でも、好きな女性には優しいのだな、などと妙なところで感心した僕だった。
「私は常に紳士だから大丈夫だ。エスニア嬢以外に変に気を持たせるようなことをするつもりはない。だが、それを言うなら同じような心配を私もしているぞ。どうせ『神託の乙女』たちとの交流の場にはお前もついてくるんだろう?」
「もちろんです」
なにしろそこにはこのアルベインが好きな令嬢もいるのだから、きっと必ず、いや絶対についてくるだろう。
しかしエスニア嬢は、この男の顔を見たらどう思うだろうか。
彼女がこういう顔が好みだったら……。
再会を前にして、僕はそんな不安を感じていた。
見慣れた昔と同じ僕の顔よりも、初めて見るこの男の顔の方を気に入る可能性もあるではないか……!
それだけは許せない僕は言った。
「その時はお前、顔を隠せ」
「は?」
「とにかくその素顔をエスニア嬢の前で晒すな。彼女がお前を好きになっては困る」
「はあ……? そんなことはないかと。運命の『神託の乙女』は王太子殿下と恋に落ちるものですよ。それに顔を隠してどうやって殿下の側近としての仕事をすればいいのですか」
「いいから隠せ。とにかく、その素顔をエスニア嬢に見せてはだめだからな!」
そう言ったら、次の日やたら太い銀縁の、それはそれは大きなダテ眼鏡をかけてきたアルベインを見てつい僕は笑ってしまったが、正直少しだけ不安が減ったのも事実だった。
「私はのんびりした人生を送りたかったのよ……」
「そうだね」
「けっしてこんな、朝から昼までお妃教育、午後はずっと魔術の訓練なんていう生活は望んでなんかいなかったの」
「そうだね。じゃあこれができたらのんびり一緒にお茶でも飲もう。王宮の料理人の作るお菓子は君も好きだろう?」
そう微笑む僕に、今日も彼女は視線をくれる。
それだけでつい頬が緩んでしまうほど幸せだ。
「お菓子につられたりなんてしないんだから! それより、もうちょっと離れてくれる?」
「どうして?」
僕はますます彼女の後ろから彼女の体を包むようにして近づいた。
彼女の髪のいい香りがする。
ああ本当に幸せだ……。
「どうしてって、離れても魔術を教えることはできるからでしょう! わざわざ後ろから手を出す必要がある!?」
「でもこの方が目線が同じで理解しやすいだろう? ほら右手の動きは、こう」
「横に並べばいいことでしょう!」
「いや一緒の方がわかりやすい。ほら」
そうして僕は彼女の右手首をとって、そのまま腕の動きを教えていく。
彼女の細い手首が繊細で、愛しかった。
「わかった! わかったから! 触らないで! 触られるとドキドキしちゃって……あ、なんでもない」
きっと失言した、という顔をしているのだろう。
見なくても僕はどんな顔をしているのか知っている。
なにしろ前世でも、僕はそんな君の顔をも愛しいと思いながら見ていたのだから。
「幸せになろうね」
そう言ってつい、僕は彼女を抱きしめた。
「ぎゃっ! ……ああ、うん、そう、そうね」
じたばたと離れようとしているようだけれど、僕はそれを許さない。
「僕の魔術を全部君に教えるよ。そして一緒に魔術のあふれる幸せな国にしよう」
「で、でもあなたは長生きして大魔術師になったかもしれないけど、私はただの早死にしたふ、普通の魔術師なのよ。そんなに全部なんて簡単には、いかない……」
動揺しているのか、伝わってくる彼女の鼓動が早かった。
その熱を感じて僕の体も熱くなる。
愛しい。
愛しい。
「いいんだ。ゆっくりやろう。むしろその方がいいかもしれない。この研究室だけは誰も入れないようにしてあるからその間はずっとこうしていられる」
「ずっと!? いやそれはだめ……だと思う……」
「ほら、右手の動きを」
「むり……」
「でもこの魔術が使えたら、一時的でも君の体から余分な魔力を排除できる。体の負担も減るから」
「だからむり! こんな抱きしめられてたら冷静に魔術なんて使えない!」
そう言って僕を見上げる半泣きの彼女が可愛くて、僕はつい彼女にキスをした。
「いいよ、できるまでやろう」
「そういう話じゃないでしょう……!?」
ほんと誰なのあなた昔と違いすぎる、そんなつぶやきが聞こえたが、僕はそれには答えなかった。
だって君のために、君に好かれるためにずっと努力してきたなんて、言いたくなかったから。
「さあ今日はこれができたらご褒美だ。だからさあ、右手を出して」
「でもそんな毎日ケーキばかりじゃ太ってしま――」
彼女はそう言いながら自分の右手ではなく僕の顔をまた見たものだから、僕が見つめているもので何かを察知したらしく、ますます可愛らしく赤くなって言った。
「も、もうキスはいいです…………」
僕はそんな彼女がなんとも愛しくて、以下略。
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