私の最後の希望
だが王太子殿下側近であり第一秘書でもあるらしい見るからに堅物なアルベインさまは、初めて見たときからエリザベスさまに恋をしていたそうな。
そのせいか、恋をしている令嬢たちにはたいへん寛容だった。
その結果、私とアマリアさまがよく一緒にいるようになっていた。
今もコンラート殿下との一対二での昼食の後、その流れで二人で一緒にお茶をしていた。
「でもアルベインさまがどうしてそんなことを考えるの?」
私は少々やさぐれて目が据わっていたが、アマリアさまは慣れたのか、いつもと変わらない微笑みを浮かべて言った。
「だってエリザベスさまとコンラート殿下を二人きりにして、万が一コンラート殿下がエリザベスさまに関心を持ったら困るじゃない。前のエリザベスさまだったら、有頂天になってますます殿下しか見えなくなっていたと思うわよ」
うふふふ……と楽しそうなアマリアさまである。
「なるほど……じゃあエリザベスさまをコンラート殿下に取られないための一対五だったというわけね……」
あの銀縁眼鏡、真面目に仕事をしているように見せかけて、実は思いっきり私情を挟んでいたわけね!?
「たぶんね。だからエリザベスさまを見事射止めた今は、きっと私やあなたがコンラート殿下と二人きりになろうとしても何も言われないと思うの」
「そんな気はするわね! なにしろ明らかに監視が減ったし」
そうなのだ。今まではアルベインさまの部下たちがいつも私たちの周りにいたのに、今や全然いなくなった。
いわゆる隙だらけなのである。
「まあそろそろ、王太子妃選びも終盤ということでしょうねえ」
そう言ってアマリアさまが笑った。
実に楽しそうな顔をしていた。
「終盤ねえ。実質もう終わっているようなものよね。私とあなたじゃあ、明らかにあなたの方が綺麗で教養もあって身分も高くて賢いもの。 それになによりアマリアさまは王太子妃になってもいいんでしょう?」
「そうねえ。心から求められて、お願いされたらなってもいいとは思っているわ。私を本当に望んでくれるのならね」
「じゃあ決まりね。私は王太子妃になる気はない。万が一殿下にそんなものを打診されたら即刻断るつもりだから、殿下はもうアマリアさまにプロポーズするしかない。殿下は美しくて優秀な王太子妃を手に入れ、アマリアさまはきっと素晴らしい王妃さまになる。完璧」
「それはどうかしらね?」
「どういう意味!?」
「うふふ、殿下に直接聞いてみればいいんじゃないかしら?」
アマリアさまが、なんだか含みのある言い方をして笑った。
いや私は断るって言っているよね?
「よしわかった。じゃあアマリアさまの方が、私より何百倍も王太子妃に相応しいと私がコンラート殿下に教えてあげればいいわけね!」
「そうそう、ぜひ殿下に直接言ってあげて。きっと殿下もおよろこびになるでしょう。うふふふふ」
なんだかアマリアさまが妙に楽しそうなのはなぜだ。
一体何を考えているのやら。
たまにこの人は、上手に本心を隠せる人なのだなと思う。
でも私は真剣なのよ。
とにかく私は一生のんびりだらだらできる人生を目指しているのだから。
修業だろうが公務だろうが、もう労働はしたくない。
私が「神託の乙女」になったのは、そのための過程にすぎないの。
よりよい結婚相手を探すための――
「おや私の噂ですか? どんな噂でしょう? 良い噂だといいのですが」
「!! ちょっと! なんで戻ってきたの……!」
「まあ殿下、いらっしゃい。ちょうど今、エスニアさまから殿下をお勧めされていたところですのよ」
私たちは同時に、この部屋に現れたコンラート殿下を見て言った。
コンラート殿下はそんな私たちを見るとにっこりとしながら、
「それはそれは。お二人に私の将来を決められてしまう前にお会いできてよかったです。お二人は仲がよいのですね」
とか言いながら私たちのテーブルにちゃっかりと座ってしまった。
そこに椅子があるからって勝手に勧められもしないのに座るとは、さすが王族である。
もちろん誰もそれを咎められないし、追い出すこともできないのをわかってやっている。
私はじっとりと据わった目でそんなコンラート殿下を見つめることしかできないのが悔しい。
「私たちのお茶会に殿下がいらっしゃるのは初めてですわね」
アマリアさまが、近くにいた使用人に殿下のお茶を淹れるように目で指示をしながら朗らかに言った。
なにしろ私が殿下を迎えるつもりがないのがあからさまだったから、このままでは殿下はお茶もなしにお茶会の席に座らされつづけるだろうとアマリアさまが気を利かせたのだ。
しかしそんな私の様子なんてお構いなしに、殿下は晴れやかな笑顔で言った。
「そうなんですよ。今までは来たくても、アルベインに仕事を振られてなかなか来れなかったのです。ですがみなさんが楽しそうにお茶をしているのは知っていましたよ」
「今日はお仕事はないのですか? アルベインさまに聞いたら、もしかしたらあるかもしれませんよ。今から聞きに行ってみた方がよろしいのではないですか?」
「エスニア嬢は仕事をしている私の方が好きですか?」
「そういうことを言っているのではありません……」
「お仕事をしている殿方は素敵に見えますものねえうふふ」
何を言い出すのだこの殿下は。何を嬉しそうにこっちを見るんだおかしいだろう。
そして何を言い出すんだアマリアさまも。
単に、暗に出て行けと言っているのよ。
結構わかりやすい言い回しだったでしょう。
とにかく殿下がいては、アマリアさまが王太子妃になる説得が出来ないじゃな……あ。
「えーとそういえば私、すこし肌寒いと思っていたのですわ。ちょっと上着をとってくるので失礼しますね。お二人はごゆっくり」
私は勢いよく立ち上がった。
そうよ。説得しなくても、二人きりにして仲良くなってもらえばいいのよ!




